第3話 まどろみ
文字数 695文字
佐藤清は記憶の中にいた。
「俺さ。なんかもう、いいかなって。」
桜田夏樹は哀愁の中にいる。
「別に嫌なこととかないけど、じゃあ特別いいことがあるかといったらないし。この惰性で生きてるような、そんなのがもう面倒だなって。」
寂しさの中心で語っている。
目に映るものすべてがぼんやりとしている。
「決して死ぬのをすすめているわけではないけれど、死ぬのも悪くないかもね。」
目の前で誰かが言っている。
「だってさ、死ぬのは悪じゃないから。」「生きてる方がいいなんて言ってる人も、死んだことがないんだから信ぴょう性のかけらもないよね。」
こころの中では違う言葉が渦巻いている。口をついて出る言葉のどれもが、喉から生まれている。
風が吹いている。わざとらしく吹いている。前髪が右に揺れて、淡い緑色の葉っぱが流れている。
「ああ、そうだね。ありがとう、肯定してくれて。」
光が弱まっていく。まどろんでいくように、少しずつぼんやりとしていく。辺りが白く染められていく。一人の人間の輪郭が確かにそこにあるが、しかしそれ以外はどこにもない。ああ、きっとこれは夢だ。
「———死ぬなら、遺書でも書いといたらいいんじゃない。」
佐藤清は布団の中にいる。
:::
「誰だ、こんな朝っぱらから。」
早朝六時、佐藤清は目を覚ました。耳元に置いている携帯を手に取って、電話のコールに応じる。
「原田先輩」
「なんですか、朝ですよ。」
携帯の向こう側で、原田先輩が笑っているのが分かる。荒々しい鼻息が電波を割っている。
「だいたい一時間後の七時ちょうどに、部室で集合。たのんだぞ。」
ピッ。
携帯は布団に投げつけられて、跳ねて、床に落ちた。
「俺さ。なんかもう、いいかなって。」
桜田夏樹は哀愁の中にいる。
「別に嫌なこととかないけど、じゃあ特別いいことがあるかといったらないし。この惰性で生きてるような、そんなのがもう面倒だなって。」
寂しさの中心で語っている。
目に映るものすべてがぼんやりとしている。
「決して死ぬのをすすめているわけではないけれど、死ぬのも悪くないかもね。」
目の前で誰かが言っている。
「だってさ、死ぬのは悪じゃないから。」「生きてる方がいいなんて言ってる人も、死んだことがないんだから信ぴょう性のかけらもないよね。」
こころの中では違う言葉が渦巻いている。口をついて出る言葉のどれもが、喉から生まれている。
風が吹いている。わざとらしく吹いている。前髪が右に揺れて、淡い緑色の葉っぱが流れている。
「ああ、そうだね。ありがとう、肯定してくれて。」
光が弱まっていく。まどろんでいくように、少しずつぼんやりとしていく。辺りが白く染められていく。一人の人間の輪郭が確かにそこにあるが、しかしそれ以外はどこにもない。ああ、きっとこれは夢だ。
「———死ぬなら、遺書でも書いといたらいいんじゃない。」
佐藤清は布団の中にいる。
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「誰だ、こんな朝っぱらから。」
早朝六時、佐藤清は目を覚ました。耳元に置いている携帯を手に取って、電話のコールに応じる。
「原田先輩」
「なんですか、朝ですよ。」
携帯の向こう側で、原田先輩が笑っているのが分かる。荒々しい鼻息が電波を割っている。
「だいたい一時間後の七時ちょうどに、部室で集合。たのんだぞ。」
ピッ。
携帯は布団に投げつけられて、跳ねて、床に落ちた。