第1話 エレベーター

文字数 529文字

 1990年代初頭、まだデパートにエレベーターガールという職があったころ。

 僕の兄、モテないはカノジョがいないので、イライラしながら男友達とデパートに買い物に行きました。
 モテないがイライラしているのは、今日が特別な日だからです。
 そう、クリスマス・イブ。

 街はカップルだらけ。
 なのに、芋くさい男友達とさみしくお買い物です。

 この時点で、モテないは怒りのピークに達していました。

 エレベーターに入ると、モテないの周りはたくさんのカップルでぎゅうぎゅう詰めになり、息がつまりそうだったそうです。

 モテないの隣りにいたカップルが、イチャつきだしました。

「ねぇねぇ、今日このあとどうする?」
「え~ プレゼントくれたならいいけど……」

 この時、彼氏さんの肘がモテないの脇腹にガシガシ当たっていたそうです。
 彼女さんに夢中で、はしゃぎまくっていたらしく、仕方ありません。

 モテないは、ドスの聞いた声で、こう言いました。

「いってぇなぁ……てんめぇ、殺すぞ!」
「ひぃぃぃ! す、すみません!」
「けっ!」

 モテないは小心者のくせに、仲の良いカップルを見ると無性にイライラするそうで、ただの八つ当たりです。

 この話を聞いた僕は思いました。

「兄ちゃんいつか、刺される」と……。
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