人柱

エピソード文字数 1,370文字

 人柱――難工事完成を祈って、神にいけにえとして、生きた人を水や土に沈めること。そのいけにえの人。転じて、ある目的のために犠牲になること。その人。

 ウィキペディアより


 むかし、むかし、北海道のあるところに、おおきなおおきなトンネルがあったそうな……そこはもともと昭和の終わりまで蒸気機関車がガタンゴトン、ガタンゴトンと、けたたましく走っていたそうな……。
 じゃがこのトンネルには、いろんな人たちから、悪い噂話をたてられた。
「夜遅くに列車に乗っていると、トンネルに近づいたとたん、着物姿のあおじろーい顔をした乗客たちがあらわれ、トンネルを過ぎるとすーっと消えていく……」
「運転手さんが人影に気づき、あわてて急ブレーキをかけたが、そこには、誰もいなかった……」
 なぜ、このようなことが起きたのか?
 つづきが知りたいかい? 
 いぃーひっひっひっ!
 あとでおねしょしても、あたしゃ知らないよぉ……。
 それは、それは、とても残酷な理由があったのじゃ。
 トンネルを建てたところは、うっそうとした雑木林がひろがり、いっけんのお家もなく、お仕事するのは、とてもとてもむずかしい場所じゃった。誰もが嫌がるこのお仕事を強いられたのは、お金で困って苦しんでいた人たちや、甘い言葉でまんまとだまされた、よそ者(本州からやってきた人たち)だったのじゃ。
 そのお仕事とやらは、朝から晩まで一日の半分以上、休みは一日もないというものじゃった。ごはんを食べるときも坐ることはいっさい許されず、お給料も食事代や布団代、煙草代だと何らかのいちゃもんをつけられて、いっさいもらえなかったそうな……。
 寝るときも、牢獄のようなところで閉じ込められた。
 昼間はたくさんの蚊やアブがいる場所でのお仕事。
 まるで地獄のような生活。
 もちろん逃げ出してしまう人もたくさんいたそうじゃが、そこはだだっ広い野原が広がっていて、命がけで逃げても、誰かさんのお家までたどり着くのは、とてもむずかしい場所だったそうな……。捕まってしまった脱走者は、ぼこぼこに殴られ、蹴られ、酷いときには、素っ裸で木に縛りつけられるという私刑もへっちゃらな顔でおこなわれたそうな……。外にはたくさんの蚊やアブがいるので、何日も放ったらかしにされた脱走者は(かゆ)み、痛みに耐えきれず、ごはんも与えてもらえずに、骸骨のようにやせ細っていくしかなかったそうじゃ……。
 むごいお仕事で病気になってしまっても、治療もしてもらえず、そのまま放ったらかしにされ、死んでしまえば、柱や壁として埋められたそうな……。またむずかしいトンネルの完成を祈って、神にいけにえとして、生きた人を水や土に沈めることもしたそうな……。鬼の監視員は言った。
「このトンネルはぜったい完成させなきゃならん――なあ、お前さん――お国のために死んでくれ」


 それから数年後、北海道でおおきな地震が起こったとき、さすがにこのおおきなトンネルも壁面がぼろぼろと崩れてしまったそうな……。この地震から二年が過ぎたころ、ふたたびトンネルをなおすお仕事が行われたのじゃ。そこで働いていた人たちが、あるものを発見したんじゃ。


 なんとなんとそこには、五百体以上をこえる、たくさんの骨があったそうな……。


 


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