第3話 2017年11月18日(土)

文字数 3,692文字

2017年11月18日(土)、ミノルの部屋 Ⅲ

 早紀江がスマホを操作して「ほら、私のプロフがあるからそれを送る。ミノルのLINEのID教えて」とぼくのスマホを差し出した。

「あ~、ぼくはLINEをしてはいけない職業なんだよ」
「え?なにそれ?」
「機密保持、機密漏洩防止でLINEの使用は禁止されている。ぼくは国家公務員だ」
「ええ?まさか警察とか?」
「警察官がいくら18歳とはいえ、昨日の真夜中、初めて出会った女子高校生を抱いて処女まで奪いません。研究所勤務なんだ。やっている研究が機密に該当するんだよ」
「ふ~ん、深くは聞かないけど、なるほどね。ええっと、じゃあWhatsappは使える?」
「Whatsappは西側のアプリで、ダミーの垢は持っているけど」
「じゃ、Whatsappで送るね」

 ぼくの垢を教えると早紀江がプロフを送ってきた。「そこに私のアパートの住所、実家の住所、学校名、学籍番号とかみんな書いてあるから見て。変な子じゃないよ。実家は静岡県でお茶の農園をやっているの」

「へぇ~、その静岡県の子が首都圏の高校に一人暮らしで入学してるの?」
「うん、今の高校が行きたい大学への進学率が良くて親に無理言って埼玉に出てきたの。埼玉に親戚もいるから。親戚の叔母がときどき私のアパートに来て変な虫がついてないか監視してるから親も安心なわけ」

「あのさ、あそこがお互い丸見えで、処女あげる、お嫁にもらえという間柄で変な虫もないもんだよ」
「え?丸見え?あ!」と慌ててブランケットをかぶった。「ミノル!見たでしょ?私のあそこ!」
「さっきまでそこにぼくのが入っていて、見たでしょ!とかないもんだよ」

 ぼくは彼女の県立の高校を検索してみた。偏差値は上位にあって進学校だ。「へぇ~、まともな高校にいってんだな、早紀江は」
「失礼ね!バンドやってるからって、頭悪くもないし、ギャルでもないもん!」
「ゴメン、ゴメン。で、大学はどこを受けるの?」
「うん、推薦の第1次選考は通ったの。工学部。最初の2年は駒場でさ・・・」

「わ、わかった。早紀江、受かったらぼくの後輩になるんじゃん」
「え?ミノルも?こんな偶然ってある?名字が同じで結婚しても変わらないでしょ?体の相性はさっきのでバッチリでしょ?同じ大学になるかもしれないでしょ?もう私を手放したくないんでしょ?運命よ!絶対に運命!」

「ぼくは25歳で年貢の納め時になるのか?」
「そぉよ!私、大宮から駒場は遠いでしょ?だから、夏前に引っ越そうと思ってたの。でも、ここなら多少駒場に近い。決めた!私、ここに住む!」
「おいおい・・・」

「決めたの!ミノル、私がここに住めば、毎日女子大生の体を抱けるのよ!あれ?3月までは女子高生よ!もっといいでしょ?その女子高生を好きにできるのよ!私もなんか訳アリの国家公務員に体を毎日貪られるの!決めた!」
「え~、今日会ったばかりで・・・」
「昨日です!昨日!」

「昨日会ったばかりで、卒業間近の女子高校生とぼくは同棲するの?」
「悪くないでしょ?おまけにミノルの母校の後輩になるかもよ。多少痩せてて胸は小さいけど感度抜群の女の子よ!静岡のお茶も飲み放題!一人娘だからお茶畑だってついてくるのよ!お料理だって掃除だってできます。それで夜はムフフよ。昼間でもいいけど・・・」

「頭がついていかないよ」
「いいのよ、こういうのは勢いなんだから。ねえねえ、今日、大宮の叔母に会ってもらって、まず叔母から攻略しましょう。それで、来週、静岡にいって実家の了承を得て、ミノルの実家にも行って・・・」

「キミ、いつもこうして話をどんどん進めちゃうの?」
「え?そうねえ、そうかも」
「まあ、いいか。早紀江を逃したら一生後悔しそうだからな」
「よし!ミノル、よく決めた!」
「なんか、公園で出会った時と性格が変わってないか?」
「同じ人物です!」

 しかし、本当に同棲するなら早紀江に言っておかないといけないことがあるのだ。

「早紀江、叔母さんに会うのもキミの実家に行くのも構わない。でも、キミにぼくの職業で言っておかないといけないことがある。それをキミが知らないと叔母さんと実家でぼくのことをなにか聞かれて答えられなくなる。わかるかな?」
「え?真面目な話ね。聞きます」と早紀江は正座した。いや、素っ裸で正座しなくてもいいんだけど。

「まず、ぼくは国家公務員だ。省庁は防衛省だ」
「ハ、ハイ」
「防衛省勤務は叔母さんと実家のご両親には言って良い」
「ハイ」
「ただし、所属は叔母さんとご両親には言えない。ぼくの両親も知らない。ぼくの所属は防衛施設庁航空設備研究所という機関で、ぼくは物理・工学系技士。自衛隊の兵器開発を担当している。って、あ~あ、昨日出会った女の子にこんな話いいのかなあ?」

「ミノル、今日、処女を奪われて許嫁になった女の子です。同棲相手です。昨日も今日も関係ありません!」
「わかった、わかった。それでね、ぼくはまだそんなに上位の機密保持者じゃないけれど、秘密取扱者適格性確認制度という国の法律で、諜報機関に身上調査をされるんだ。特に、異性関係とか。ハニトラって知ってる?」
「スパイ映画に出てくる?」

「そう、それ。付き合っている異性が敵国のスパイだったりしたら機密が漏れるでしょ?だから、身上調査書の交友関係という欄に同棲相手、遠藤早紀江と書いて提出する。すると、自衛隊情報保全隊調査第2部という部署が遠藤早紀江の身辺調査をするんだ。ぼくは下っ端だからそれほど詳細な調査じゃないだろうけど、早紀江と実家、三等親程度の親戚、友人関係の調査をされる。探偵がついて尾行されるとかはない。何もなければ書類審査程度だけどね」

「すっごい!ドキドキする!」と彼女が鼻をふくらませて言う。
「ドキドキって・・・早紀江、キミ、大丈夫だよね?」
「もっちろん!国家に反する行為もしてませんし、法律を犯して有罪になったこともありません。親戚も友人もまともな国民です。問題は未成年にも関わらず、お酒を飲まされ、国家公務員に処女を奪われたことだけです!あ!妊娠の危険もあるのに、せーしを中出しされました。以上のことはお嫁にもらっていただければ秘密に致します!」
「それ事実歪曲で有罪だな。自分でドボドボとジンをついだくせに・・・」
「あ~、面白い人生になりそう!楽しいなあ。ねえねえ、シャワーを浴びて・・・」
「シャワーを浴びて?」
「朝までもっとしよ?もうダメ。まだジンジンしてるの」

「その前にシーツを取り替えよう」
「え?なんで?」
「だって、ホラ」とぼくはピンクのシミを指さした。
「あら?私、ほんとに処女だったんだ!」
「わけわかんないことを言ってないで、ベッドからどいて」

 ぼくはクローゼットから新しいシーツと敷きパッドを出した。「早紀江、そっちの端を持って」と二人でベッドメーキングをした。早紀江がクスクス笑っている。「なに?何がおかしいの?」

「だってさ、土曜日のよ、それも早朝に、処女をなくした女子高生と奪った国家公務員が二人でベッドメーキングをしてさ、次のセックスの準備をしているっておかしくない?これ、みんなこうしてるものなのかしら?」
「そんなこと知るもんか」
「処女をなくしたら、ちょっとブルーになってなんかこうしんみりするものだって思ってた。それで彼氏に背中を向けて彼女はシクシク泣いちゃったりして、それを後ろから彼氏がギュッと抱きしめて、『早紀江、ゴメンよ。キミの処女をもらってしまった』なんて言われるのよ。そうするとシミジミしてきて、『私、あなたの女になったのね』とか言っちゃって、キャー!」
「キミ、ぜんぜんムードないね?マンガとラブコメの読みすぎじゃないの?」
「ミノルが抱いた処女はそうじゃなかったの?」
「う~ん、確かにそんな感じではあったな」

 シーツをベッドのクッションの下に押し込んでいた早紀江がぼくの方に回ってきて「じゃあ、私、後ろを向くから、それをやってよ!」と言う。「それをするの?今?素っ裸で立ったまま?」「ハイ、して下さい。やり直しです。これ、最初で最後なんだから」「だって、キミ、ニコニコしてる」「そうか、わかった。泣くね。早紀江、泣きます」

 本当にマンガみたいに早紀江が両手を目にあててシクシク泣き出した。なんなのだ?仕方ない。ぼくは早紀江を後ろから抱きしめた。「早紀江、ゴメンよ。キミの処女をもらって・・・」と言いかけたら「あ~、ダメ!ダメ!抱きしめられたらもっとジンジンしてきた!もっと欲しくなってきた!」「キミねえ、キミが言うからしてるのに」「ゴメン、ゴメン、じゃあ、え~っと、なんだっけ?ああ、私、ミノルの女になったのね・・・って、ダメだあ、私に似合わない!」とゲラゲラ笑い出す。

 ぼくは呆れて使ったシーツと敷きパッドを洗濯機に放り込んだ。早朝だから洗うのは遠慮した。早紀江はスタスタとまた風呂場に行ってしまう。タオルくらい体に巻けよ。

「ねえねえ、今度はバスタブに二人で浸かろうよ」と言ってお湯をためる音がした。ぼくは高校3年生の女の子にこれから一生振り回されるんだろうか?
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