『あの子が傷つけられないように』プロットと粗筋

文字数 2,438文字

起)小六男子の田村稔彦(たむらとしひこ)は、同級生の女子で家もご近所の石田真奈(いしだまな)が好きだ。真奈は一年半前に父親を夜の工事現場での転落事故で亡くしており、その頃に沈み込む彼女を、稔彦は度々励ましたこともあって、真奈も稔彦のことを頼もしく思っている。
 夏休み明けの学校初日、真奈の様子が変なので折を見て訳を問う。言い渋る真奈に対して稔彦が粘ると、誰にも口外しないことを条件に語り出した。母の千鶴が再婚予定で、相手男性の柏木一利(かしわぎかずとし)とはすでに同居を始めているのだが、うまく行かない気がするという。特に過度のスキンシップが苦手。できることがあったら力になると約束する稔彦。しかしその後は何事もなく、再婚は内々に行われた。名字は変わらないで済むらしい。

承)無事に再婚して家族として暮らしていると聞いた稔彦は安心するも、真奈の表情が以前より影が差したように見えたのが気に掛かった。その日の夜、稔彦は長くて嫌な夢を見る。それは――夢の中は四年後の世界で、稔彦らは高校一年生になっていた。真奈から夜遅くに電話が掛かってくる。相談事があると言われ、翌朝早めに高校に向かい、待ち合わせ場所で会う。そこで真奈から義父の殺害を頼まれた。無理だと断る稔彦に、真奈はできることがあれば力になると約束したじゃないと詰め寄る。稔彦は返事に窮し、もっといい策がないか考えてみると言って、一週間の猶予をもらう。考え続けるも、妙案は浮かばない。やがて寝言で断片的に殺すだの計画だのと口にするようになり、家族から言われて焦る。推理漫画にはまってるんだとごまかした。そうして期限の一週間を明日に控えた日曜の昼下がり、パトカーで連行される真奈の姿を目撃する。柏木が刺殺されたとのニュースはネットよりも早く伝わってきた。

転)悪夢に跳ね起きる稔彦。汗びっしょりの彼の目の前に、ウサギを思わせる顔をしたタキシード姿の妙な者が現れる。サイズは本物のウサギ程度で、宙に浮いている。明らかに異常事態だけれども夢が続いているのではなく、現実だ。ウサギは時の番人を自称し、さっき見た夢は未来に起きる出来事だと言う。そして普通は未来を変えることなんてできないけれども、何億分の一の確率で抽選を行い、その当選者に特別な機会を与えている、君はその抽選で選ばれたんだと告げてきた。
 機会を与えられたと言っても、まだ小学生の稔彦には方法が分からない。そこでウサギが示したのは、任意の時空に飛び、その時空での田村稔彦として行動する(ただし知識や経験等は今の稔彦のまま)ことで、最悪の事態を避けるように持って行くというもの。「君は未成年、それもまだ小学生だから出血大サービスだ」と言って、三回までやり直せる権利をくれた。
 一回目は凶行が起こる少し前の現場に飛び、実力行使で止めようとするも、敢えなく失敗。それどころか凶器を柏木に奪われ、真奈や稔彦自身が逆に刺される事態に。
 二回目。電話で相談を持ち掛けられた時点に飛び、真奈を説得して翻意させようとする。言葉を尽くした結果、真奈は義父の殺害をあきらめる。成功したかに思えたが、事件は数ヶ月ずれて結局起こってしまった。
 最後の三回目。再婚自体を阻止するしかないと考えた稔彦は、じっくりと策を練る。夏休み明けの学校初日に飛んで戻り、真奈に対し「僕もその男には何か嫌な感じがするな。再婚反対の姿勢を貫くんだ」と強く言うのはどうか。それだけでは不安だし、最悪、真奈が暴力を受ける恐れがあるかもしれない。かといって小学六年生のままの自分に、どれほどのことができるのだろう。
 柏木以外の男と再婚するよう、柏木と知り合う前の時点に飛び、真奈の母親に誰かを近付けるのはどうか。担任の倉橋先生なんてお似合いかも。クラス全員で囃し立てれば、ひょっとするとひょっとするかもしれない。けれども確実性がかなり低い気もする。
 いっそのこと――稔彦は閃いた。真奈の父親が事故死しなければいいんだ。一年半前の工事現場、事故発生の少し前の時点に飛ぶ。そこで稔彦は意外な光景を目の当たりにする。柏木が、立て掛けた鉄骨等の資材が崩れるように細工を施していた。真奈の父親は事故ではなく、柏木によって殺されたのが真相らしい。稔彦は柏木が仕掛けを終えて立ち去るのを待ち、細工を解除。呼び出されていたのかやって来た真奈の父親は無事に帰れた。見届けた稔彦も現在に戻る。その後、柏木は仕掛けが作動しないことを不審に思い、様子を見に戻ったところ、足を滑らせて事故死していた。

結)現在に戻った稔彦は、例のウサギから「ミッションコンプリートしたよ」と知らせを受けて、心の底から安堵する。だけど、過去への介入により、大きく変わってしまったことが色々あった。何しろ、真奈の父親が死なない世界になったのだから、当然だ。中でも、稔彦にとって最も大きな問題は、真奈との仲。稔彦自身は変わっていないのだが、真奈の方が以前に比べて、凄くよそよそしい。普通の会話すらややしづらいくらい。彼女のために考えて行動したのに、どうしてこうなったんだろう……考える内に、やがて気が付いた。
「父親の死で沈み込んでいる彼女を、僕が元気づけてきたという過去が、なかったことになってるんだ!」
 ミッションコンプリートとは言え、ちょっと失敗したかなと悔やむ稔彦。でも真奈は毎日変わらずに楽しそうだし、彼女との距離はこれから次第で前みたいに近付けられるはず――楽観的に受け止めた稔彦は、今日も思いきって真奈に声を掛ける。



あらすじ)
 小六の稔彦は同級生の真奈が好き。最近様子が変なので聞いてみると、母親の再婚相手と合いそうにないという。そのときは大丈夫だよと言ったのだが、後日、“高校生になった真奈が義父を刺し、パトカーに乗せられる夢”を見る。目覚めた稔彦に、変なウサギが持ち掛けてきた。「今見た未来を変えるために、時空を行き来できる力を貸そうか」
 チャンスは三回。果たして稔彦は真奈が義父を傷つけるのを止められるのか?
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