仕事終わりにイケメンとデートとはよくいったもの

文字数 818文字

 あるところにね、太刀柳(たちやなぎ)さんっていう、BL小説家の先生がいたんですね。

 で、太刀柳先生、締め切りをかかえた仕事が終わって、「うーん、終わったー」なんてね、背伸びしてたんですよ。

 そしてね、2階にある仕事部屋からね、何気(なにげ)なーく、外の景色をのぞいたんですね。

 「おや――」と思ったんです。

 眼下(がんか)の道路を、上はパーカー、下はピーッチピチのジョガージャージを()いた青年が、てくてくってな感じで歩いてるんですね。

 でも後ろ姿だし、ちょうど夕暮れどきだったから、顔はうまく見えなかったんです。

 「わーっ、さぞイケメンだろうなあ。あんな子と、デートなんかできたらいいなあ」なんて考えてね、先生、いてもたってもいられなくなって、部屋を飛び出してね、その美青年のあとを、追ったんですよ。

   *

 先生、その子の後ろから、そーっとあとをつけた。

 でね、少しずつだけど、距離をつめていったんです。

 「いったいどんな顔なのかなー」なんて考えながらね。

 そしたら、妙なことが起こった。

 ネコの鳴き声が聞こえるんです、「にゃーお」ってね。

 先生、あたりを見回した。

 でもね、どこをどう見ても、ネコなんて一匹も、いやしないんですよ。

 「おっかしいなあ、確かに聞こえたのになあ」

 するとまた、「にゃーお」って聞こえたんですね。

 「あれー、おかしいなあ」と思いながらも先生、その子のすぐうしろまで近づいた。

 すると、フッと、その子が振り返ったんです。

 ネコだったんですね――

 先生びっくりして、気を失っちゃったんです。

   *

 先生が目を覚ましたら、自分の部屋の中で寝てたみたいなんですね。

 「あれー、おかしいなあ」とか思って、「夢だったのかなあ」とか考えてたら、先生、気づいたんです。

 太刀柳先生、ネコになってたんですね……
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