再開
文字数 1,584文字
……命日当日。
私は花束を抱え、《沙希》に会いに来ていた。
今私がいるのはお墓ではなく、"事故現場"だ。
《沙希》は一年前、ここで何者かに殺された。
犯人は捕まっていない。
私が知っているのはその日、誰かと約束していたらしいと言うことくらい。
その相手が誰かもわからないが、犯人か、最後に会った人物になるのだろう。
彼女の所持品から、携帯は見つかっていない。
GPSも機能していなかった。
……ここで発見されたのは、転落死した彼女の遺体だけ。
落ち方からして、自殺ではないだろうと事故死扱いになった。
許せない。たった一人の友だちを失った私の気持ちなんてわからないだろう。
……私は涙を堪え、花束を抱き締めた。
………どれくらい立ち続けていただろう。
夕焼け空だったのに、もう真っ暗だ。
けれど、何だか帰る気にはなれない。
寧ろ、………………もうカエリタクナイ。
はっとした。何故そう考えたんだろう、わからない。
……誰かに見られているような気がして、寒気で身震いする。
振り向いてはいけない。でも、振り向きたい。
私は……………振り向いた。
そこには──《沙希》が微笑んでいた。
私は幻覚を見ているのだろうか。
会いたい気持ちが幻覚を見せているのだろうか。
『麗那……』
私の好きな顔で、私の好きな声で呼ぶ。
幻覚だっていい。私には現実だ。
「沙希! 沙希! 」
私は沙希に抱きついた。夢中で抱きついた。
……花束は地面に落ちた。
次の瞬間。
真っ赤な液体がぼたぼた落ち始めた。
「さ、沙希……」
私は思い出した。彼女が死んでいることを。
受け入れたくなかったのに。
『会い……タカッタヨ、麗那。この……ウラギリモノ!! 』
ごうっという風と共に周りの景色が消え去る。
崩れかけた《沙希》が怨念のこもった表情で睨んでいる。
私には彼女のいう、"ウラギリモノ"の意味がわからなかった。
「ど、どういう……こと?」
《沙希》の表情は変わらない。
『シラバックレ……ナイデ!アナタ……、ヤマシタクンとツキアッテたデショウ?! 』
……私には寝耳に水だ。
「知らない……。山下くんって、隣のクラスの? 顔は知ってるけど、話したこともないよ」
本当だ。誰がそんなデマカセを吹き込んだのだろう。
『ウソよ、ウソ! ……だって、私はカレニ呼びダサレタのヨ! アナタが……イエナイダロウ……から、代わりにツタエにキタって! 』
一体何の話だろう。預かり知らぬこと、なにも言えない。
『私……トバカリイッショニいたら、アナタがダメになるッテ! アワナイでくれッテ、イウタメニ呼びダサレタノ! 』
《沙希》の目から、血と涙が一緒に流れる。
辛かっただろう。私はそんなことになっているとは知らなかった。
「私! 知らないよ! 誰とも付き合ってない! 山下くんに文句行ってくるよ! 住所は香菜ちゃんに聞く! 」
香菜ちゃんは、隣のクラスの沙希の幼馴染みだ。
だから、山下くんよりは面識がある。
親友を騙すなんて許せない。
文句をいってやる。
……ふと、風が止んだ。
『……じゃぁ、ここに呼んでクレル? 』
「え? うん、分かった」
姿は変わらないものの、いつもの口調にホッとする。
……それが何を意味するのかも知らずに。
『……麗那。アナタに教えてアゲル。私ヲ突き落としタノハ………"カレ"よ』
何となく、予感はしていた。
話しながらも、香菜ちゃんにメールを打っていた。
自ら誰かにメールを打つのは──一年ぶりだ。
『香菜ちゃんへ
突然でごめんなさい。あなたのクラスの山下くんの連絡先、知ってる? 知ってたら…………"三丁目のガードレールまで来て"って伝えてください。』
私は花束を抱え、《沙希》に会いに来ていた。
今私がいるのはお墓ではなく、"事故現場"だ。
《沙希》は一年前、ここで何者かに殺された。
犯人は捕まっていない。
私が知っているのはその日、誰かと約束していたらしいと言うことくらい。
その相手が誰かもわからないが、犯人か、最後に会った人物になるのだろう。
彼女の所持品から、携帯は見つかっていない。
GPSも機能していなかった。
……ここで発見されたのは、転落死した彼女の遺体だけ。
落ち方からして、自殺ではないだろうと事故死扱いになった。
許せない。たった一人の友だちを失った私の気持ちなんてわからないだろう。
……私は涙を堪え、花束を抱き締めた。
………どれくらい立ち続けていただろう。
夕焼け空だったのに、もう真っ暗だ。
けれど、何だか帰る気にはなれない。
寧ろ、………………もうカエリタクナイ。
はっとした。何故そう考えたんだろう、わからない。
……誰かに見られているような気がして、寒気で身震いする。
振り向いてはいけない。でも、振り向きたい。
私は……………振り向いた。
そこには──《沙希》が微笑んでいた。
私は幻覚を見ているのだろうか。
会いたい気持ちが幻覚を見せているのだろうか。
『麗那……』
私の好きな顔で、私の好きな声で呼ぶ。
幻覚だっていい。私には現実だ。
「沙希! 沙希! 」
私は沙希に抱きついた。夢中で抱きついた。
……花束は地面に落ちた。
次の瞬間。
真っ赤な液体がぼたぼた落ち始めた。
「さ、沙希……」
私は思い出した。彼女が死んでいることを。
受け入れたくなかったのに。
『会い……タカッタヨ、麗那。この……ウラギリモノ!! 』
ごうっという風と共に周りの景色が消え去る。
崩れかけた《沙希》が怨念のこもった表情で睨んでいる。
私には彼女のいう、"ウラギリモノ"の意味がわからなかった。
「ど、どういう……こと?」
《沙希》の表情は変わらない。
『シラバックレ……ナイデ!アナタ……、ヤマシタクンとツキアッテたデショウ?! 』
……私には寝耳に水だ。
「知らない……。山下くんって、隣のクラスの? 顔は知ってるけど、話したこともないよ」
本当だ。誰がそんなデマカセを吹き込んだのだろう。
『ウソよ、ウソ! ……だって、私はカレニ呼びダサレタのヨ! アナタが……イエナイダロウ……から、代わりにツタエにキタって! 』
一体何の話だろう。預かり知らぬこと、なにも言えない。
『私……トバカリイッショニいたら、アナタがダメになるッテ! アワナイでくれッテ、イウタメニ呼びダサレタノ! 』
《沙希》の目から、血と涙が一緒に流れる。
辛かっただろう。私はそんなことになっているとは知らなかった。
「私! 知らないよ! 誰とも付き合ってない! 山下くんに文句行ってくるよ! 住所は香菜ちゃんに聞く! 」
香菜ちゃんは、隣のクラスの沙希の幼馴染みだ。
だから、山下くんよりは面識がある。
親友を騙すなんて許せない。
文句をいってやる。
……ふと、風が止んだ。
『……じゃぁ、ここに呼んでクレル? 』
「え? うん、分かった」
姿は変わらないものの、いつもの口調にホッとする。
……それが何を意味するのかも知らずに。
『……麗那。アナタに教えてアゲル。私ヲ突き落としタノハ………"カレ"よ』
何となく、予感はしていた。
話しながらも、香菜ちゃんにメールを打っていた。
自ら誰かにメールを打つのは──一年ぶりだ。
『香菜ちゃんへ
突然でごめんなさい。あなたのクラスの山下くんの連絡先、知ってる? 知ってたら…………"三丁目のガードレールまで来て"って伝えてください。』