第2話

文字数 8,351文字

藍和国 茜街 牡丹市
『竹内建設』という会社を建てた竹内家は、曾祖父母は、会社会長と会長夫人、祖父母は社長と社長夫人と、代々家族で経営している。
竹内 愛歩(たけうち まなぶ)の叔父、竹内 勇次(たけうち ゆうじ)は、現在、無職である。
理由は一つ。
この家の者にしては、変わり者のような性格だからだ。
たまに隔離遺伝、容姿が父母に似ず、という話もあるが、勇次にいたっては、托卵を疑われるほど、似てはいなかった。
その為、多少揉めた時もあるが、所々、親や祖父母のダメな部分だけを凝縮させた性格をしている所から、結果として勇次も、ちゃんと自分達の家族として受け入れられた。
目元が母親に似ていて、鼻と口元は父親に似てはいるのだが、どこかバランスが崩れてしまったようだ。
そんな見た目も性格も、勇次は全て、ハズレを引いたような人間だった。
しかし、甥っ子、愛歩が産まれ、勇次には仲間が出来た。
その影響で現在、愛歩は性格や趣味の方が、勇次側に傾いている。
そんな愛歩は現在、中学二年生。
今年、十四歳になる男子だ。
学校の制服は、好きなデザインや色を選べる為、ブレザーとベストは紺色を選んだ。
シャツは白のシャツにし、ネクタイとスラックスのみ、紺のチェック柄である。
ベストは、ニットベストを着用している。
友人の風月(かげつ)は、ベストやセーターなどは着用せず、ブレザーのみにしているが、それはカッコよさと、風月が多少なりとも、暑がりである事もあってそうしている。
風月は女子の平均身長の158cmに対し、自分は、数センチ高いだけの160cmである。
好きな子も、そこまで背の低い子ではないが、中二で止まりつつある身長が、このままだと伸びないのが、少々、不安なところである。
なにより、唯一似ている叔父が165cmしかないので、自分もそのくらいで止まってしまう恐れがあるのだ。
愛歩の父は、愛歩が生まれる前に亡くなっているので、母から聞いた話では、175cmあったという事だし、母もそこまで身長は低い方ではない。
だから、ちゃんと両親の遺伝する部分を考えるなら、もう少し背が伸びるはずなのだが。



少々、丈の長いズボンを折りたたんでから、部屋を出て下の階に行き、母に「行ってきます」と声をかけてから、玄関で靴を履いた。
「今日は早く行くって、風月は普通通り行くって聞いてるよ、なんで早く行くの?」
「母ちゃん、そんなの決まってんだろ?女をナンパする」
「はぁ?あんたが?実の父親より、勇次に似ているあんたには、無理だよ、諦めな」
「なに?無理だと?母君、オレをそんな軟な男だと思うのか?」
「うん、当たり前でしょー、母親なんだから。風月がボーイッシュな子だから、今まで友人として、付き合えているんでしょ」
「くっ、くそっ、母君、それ以上言うなっ」
そんな会話を聞きつけて、勇次が顔を出して来た。
「まなぶくぅ~ん、一人でいくなぁ~、お兄さんもそっちの世界へ、おなごのいる世界へ、連れてってくれぇ~」
「あんた、きっしょ、早く家へ帰ってよ」
「ひどいなぁ~姉ちゃん、家に帰ったら八時からの教育テレビ、見れないじゃんか」
「自室で見れば良いでしょ」
「オレの部屋、ゲーム専用なんだよ、だから無理」
「意味わかんない、とりあえず、早く消えて」
「わかった、どろろんぱっ」
にゅるにゅる、という言葉で表されそうな動きで、廊下からリビングの方へ戻って行った。
「とにかく、学校では変な事、起こさないでよ?まぁ、あの学校なら、何が起こっても、よっぽどじゃない限り、大丈夫だろうけど」
「オッケー、その辺はかづき様がオレについてくれてるから」
「愛想付かされなよー、じゃあね、行ってらっしゃい」
「うい、行ってくる」
そうして愛歩は、玄関のドアを開けて、家を出て行った。



一方
牡丹市の端っこに住む、栗原 莉々菜(くりはら りりな)は、昨日の放課後、同じクラスの竹内   愛歩に話しかけられた為、やはりこちらも、いつもより早めに支度し、家を出た。
元々、学校からは離れた所に家がある為、早く行くには問題ないが、流石に今日は少々、目がとろんとして、眠そうである。
学校は好きではないが、制服の可愛さで、何とか通学出来ている。
莉々菜の着ている制服は、赤いブレザーに薄ピンクのシャツ、ピンクのリボンに薄ピンクのレースが付いている。
スカートはピンクのチェック柄のプリーツスカートで、膝上の丈で、スカートには白のレースが付いている。
茶系のハイソックスに、赤い、ややヒールの高めなストラップシューズを履いている。
ベストは赤に金のボタンがついた布地のベストを着用している。
赤やピンク、レースやフリルが好きなので、それを選んだのだが、フリルやレースはオプションで付けられる。
値段はその分跳ね上がるが、そこは親に駄々をこねて付けてもらった。
変わり者として、クラスでも浮いた存在なのは、分かっている。
あまり人と、関わり合いたくない気持ちもある為、楽といえば楽だった。
それでも今回、愛歩に話しかけられたのは、予想外だったが嬉しかった。
なにより、あの、風月の友人だったからだ。
莉々菜は今日、少々、浮かれた気分で学校までの道のりを歩いた。



風月がいつも通りの時間に登校すると、すでに来ているはずの、愛歩の姿が見当たらなかった。
珍しいと思ったが、あまり気にせずに席に座った。
スマホが振動し、風月がポケットから取りだすと、愛歩からの連絡が入った、という知らせだった。
文章を読むため、そのメッセージを受信した所を開くと、「莉々菜ちゃん、カワイイです、ブヒブヒ」と書いてあった。
「キモい」とだけ返すと、「放課後、話したい事がある、二人で会いたいわ♡」という、さらにキモいメッセージが届いた。
既読してしまった自分に後悔し、返事は送らずに無視して、スマホをポケットにしまうと、風月は鞄からお気に入りの小説を取り出して、読み始めた。
この学校は、もちろん私物OKである。
校長自身、学校に多少なりとも、私物を持ってきていたが、当時は先生に怒られた為、それが不満だった事に値する。
この学校は全て、校長次第だ。



この学校の授業内容は、その他の学校と変わらないが、先生が先生なので、というより、校長がアレだからという理由で、先生も個性的である。
普通の見た目の先生から、派手な服装の先生まで多種多様である。
まぁ、この学校で働いていける先生というだけで、そういう者の集まりである。
それで授業の方も、先生のやり方に合わせて、「テキトーでオッケー」な人もいる為、退屈はしなかった。
学力より、楽しむ事が何より大事‼との…以下略。
その為、比較的、生徒達は結構、しっかり授業を受けている。
風月も、個性豊かな先生との授業風景に満足している。
普通の学校を知らないが、風月からすると、普通の学校というのは、飽きてしまいそうだと思っていた。
あまり退屈にならず、サクサク進む授業に、あっという間に終わるような、この学校の緩い感じが風月は好きだった。



そして風月が、最も退屈に感じる放課後という時間になった。
何も無いなら、早く帰りたいが、愛歩の呼び出しがあった為、めんどくさいと思いながらも、目的地に向かった。
「体育館で待つ」というメッセージを受信していた為、体育館に向かい、流石に体育館では、体育館履きに履き替えなきゃならない為、始業式の時に、あらかじめ下駄箱に名前を貼り、そこに体育館履きをしまってある。
中学校、三学年分の下駄箱があるが、学年やクラスなどは関係なく、好きな所に置ける為、早い者勝ちだったが、大体は友人同士や、グループで固まる為、争いは殆ど起きなかった。
莉々菜は、一番最後に皆の名前を確認してから、自分の下駄箱を決める。
愛歩は早めに来て、風月と自分の名を貼って、場所を取っておくタイプだった。
それを知っている風月は、自分で選ばなくても、勝手に愛歩が場所取りしておいてくれる為、ブーツでもOKな場所が、勝手に選ばれている。



下駄箱に到着した風月は、今の段階で、自分の隣に栗原 莉々菜の名前があったが、気にしない事にした。
莉々菜の性格を考えたら、同じクラスの子の名前が貼ってあったから、適当に貼ったのだろうと考えた。
まぁ、莉々菜としては、わざとそこに張ったのだが…。
体育館履きも、好きなデザインの物を選べるため、風月は自分の制服や体操着に合わせて、白に黒のラインが入っている物を選んだ。
シンプルで一番、自分の好みに合った物だ。
風月はその体育館履きに履き替えて、お目当ての場所へ向かった。
体育館内は、部活に力を入れたい人達が、多く使っている。
邪魔にならないよう、廊下を歩き、お目当ての所に入って行った。



「おう、かづき」
「何してんだ、こんな所で」
「実は今日の朝、ここで栗原 莉々菜こと、クリリナに話しかけたんだ」
「へぇー、随分な事したじゃん、あの子、男子の中で結構、アイドル的な存在でしょ?」
「そうなんだけど、まぁ、ワケあって」
「ふーん」
「そういや、三人組を作るのが流行りだしたって知ってるか?」
「あぁ、アニメが始まったあと、一気に広まったね」
「で、オレとしては、かづきとクリリナと、三人組を作りたい」
「はぁ?」
「まだ、女子には、三人組を作るって、流行ってないけど、あの子、結構一人ぼっちって、噂だろ?だから、今のうちから、オレらの仲間に入れてやろうぜって話」
「なんだそれ」
「アニメ好き男子はもう、どんどん三人組が流行ってんだよー、流行に遅れたら、恥ずかしーだろー?」
「なんでそんな、どっかの女子みたいなノリなんだよ、それに、そういう話なら、男子と」
「か~づ~きぃ~、わかってくれよ~う」
「勇次さんみたいな喋り方、キモいからやめろ」
「とにかく、オレは三人組を作りたいんだよ、で、女子にハブられ気味のクリリナに話しかけた、という訳だ。それが、今日の朝」
「あぁ、ナンパするって言ってたの、そういう事か」
「そうだ!!
「はーん、なるほど」
「それでだ、なんと!クリリナからOK貰えたのだ!」
「へぇー」
「で、クリリナから、『他は誰が入るの?』って、聞かれたから、おまえの名前を言っといた」
愛歩の話し方が一部分だけ、莉々菜の話し方を真似たからか、少々、風月の背中に寒気が走ったが、風月は何事も無かったように会話を続けた。
「ふざけんな、勝手に仲間に入れんな!」
「かづき…クリリナと仲良くなれるチャンスだぞ?」
「まなぶくん“だけ”が、栗原さんと仲良くなりたいんでしょ」
「はい、協力して下さい、かづき様」
「まったく、いつも私を巻き込んで」
「かんしゃしてましゅ」
「まぁ、長い付き合いだし、分かった。その三人組作るの、手伝ってやるよ、私が入れば良いんだろ」
「はい、おねえしゃま」
「キモい」
「じゃあ、かづき、早速だが、クリリナの家へ行こう、作戦会議だ」
「は?」
「なっ、良いだろう、魔女っ娘カフェの姉妹店というか、何かそういう店なんだよ、行ってみたかったんだ、栗原 莉々菜の家」
「なんで行かなきゃいけないんだか、分からないけど、おまえ“だけ”が、行きたい理由があるのは分かった。栗原さんのお父さんが経営してる店の常連客だったな、まなぶくん」
「はい♡」
「で、私にも付いてきて欲しいと」
「えぇ、お姉さま♡そうですの、莉々菜さんチは、お母様が経営してらっしゃって、魔女カフェなんですわ♡お母様のセンスで、お父様の店とは多少なりとも、内装とか本格的らしいのですわ、そこなら風月お姉さまも、行きやすくてよ♡」
「まぁ、あの店よりは、そっちの方が行きやすそうではあるけど、話し方止めろ」
「うっし!決まり!じゃあ、行こうぜ、クリリナのお家!クリリナはもう、先に帰って、オレらが来るの、待っててくれてるから」
「ハイハイ」



こうして二人は、栗原 莉々菜の家へ、行く事になった。
学校を出て、いつもとは違う方向へ歩いて行く。
その間に、愛歩は興奮を抑えきれないようだった。
好きな子の家へ行けるというのが、なにより嬉しく、また、男子から『アイドル的存在』と言われる女の子と、仲良くなれるチャンスである。
浮かれまくって、小躍りしそうになるのを、風月の冷ややかな目線を感じ、何とか我慢して、普通に歩いていった。



牡丹市の外れにある、栗原 莉々菜の家は、森に囲まれているような所にある。
本格的な魔女が住んでいそうな家だった。
店は家の一角にあるようで、道路に面した方が、店の扉のようだ。
「Purple Rose」という名前が、この店の店名のようだ。
風月は何となく、こっちは自分の好みに近い気がした。
栗原 莉々菜は、赤やピンク、フリルやレースなど、可愛らしい物が好きという、『典型的な女の子』というイメージと、彼女の父親がやっている店のイメージが強すぎて、自分とは話が合わない、または、生きている世界が違うと、思っていた。
愛歩と一緒に、店内へ入ると、栗原 莉々菜に似た女性が現れた。
「いらっしゃいませ」
ゴシック調の服を着た若い女性は、二人に話しかけた。
愛歩が緊張して、目を泳がせていると、奥から「竹内君、いらっしゃい」と、莉々菜が出てきた。
こちらは、いつもと印象は変わらず、ピンクと赤のロリータ系の服を着ている。
「あっ、く、くりり、くりはりゃさん」
「私の事は、莉々菜で良いよ、あっ、こっちは私のお姉ちゃん」
ゴシック調の服を着た女性が、挨拶をしてくれた。
「初めまして、莉々菜の姉、瑛里華(えりか)です」
「あっ、あっ、あっ、えっと、えっと!たっ、たきぇうち、まっ、まにゃ、まなびゅと、もっ、もうしましゅ」
愛歩が動揺しまくり、自己紹介の最中、目を泳がせながら、何かを喋っているのをみて、風月が愛歩の分まで自己紹介した。
「こっちは、竹内 愛歩(たけうち まなぶ)で、私は風月・Smith(かげつ・すみす)です」
「すみすさん?」と、瑛里華は聞いた。
「私は、父親が外国人なので」と、風月が返す。
その後、二人は莉々菜に、奥のテーブル席へと、案内された。
店内は、外国を思わせる内装で、暖炉の前に、ぬいぐるみや人形達の座る席があり、そこには入れないよう、仕切りが置いてある。
その隣にカウンター席があり、テーブル席は四席ある、こじんまりとした店内だ。
【プリズム♫リズム】という店名の、愛歩が良く行く店の内装とは、真逆に見えたが、こちらはこちらで、本格的な魔女がいそうな店内である。
可愛さ重視の【プリズム♫リズム】とコンセプトは同じなようでも、また違った“魔女カフェ”である。
【Purple Rose】は「かっこいい」と「かわいい」が兼ね備えてある。



愛歩は莉々菜に、【プリズム♫リズム】に良く行くと話した。
その話を聞いて、あちらには自分の従姉妹がいると、説明してくれた。
栗原 鞠藍(くりはら まりあ)という名前の子で、自分達姉妹より年上なんだと、説明してくれた。
「あっちでは、竹内君のお気に入りの子は、「ゆきのん」なんだよね?」という、莉々菜の言葉に、愛歩は「みっ、みんな、きゃわいいよ」と動揺しながら答えた。
「ありがとう、竹内君。優しいね」という言葉には、「まっ、まにゃぶで、オッケーっす」と答えた。
これで愛歩は、他の男子より、一歩も二歩も近付いた事になる。
「わかった、これからは、まなぶ君って呼ぶね」
「おっ、おー」
そこで風月が、二人の会話に混ざり、「私の事も、かづきって呼んで、ちゃん付けとか、呼ばれ慣れてないから、呼び捨てで良いよ」と言った。
「じゃあ、かづきって、呼ばせてもらうね」
「うん、そうして」
「私は、えっと」と、莉々菜が言い、少し目を瞬きさせると、風月から「りりなって、呼んで良い?」と聞いた。
「あっ、うん!大丈夫だよ!まなぶ君も、りりなって呼んで!」
「えっ、あっ、あっ、あっ、うん、ガンバルヨ」
そこで風月は、「愛歩は女の子の名前を呼ぶの、苦手なんだ、クリリナって愛称でも良い?」
「良いよ」
「じゃあ、クリリナ…って、よびましゅ」
「はい、よろしくね、まなぶ君」
「はいぃ」
そうして、三人の呼び名が決まった所で、莉々菜の姉、瑛里華が飲み物を運んできてくれた。
そこで一旦、会話は途切れたものの、次は活動内容について、話をする事になった。
愛歩が少しずつ正気を取り戻し、今現在、一部の男子の中で流行っている、三人組を作って、街歩きしたり、不思議の解明したいと説明した。
莉々菜は、その辺に関して、小説の内容を詳しく知っているようだった。
「ゆきのんの小説、私も読んでるから、知ってるよ、学校の七不思議とか、ミステリースポットとかも行って、検証するんだよね」
「そうなんだよ、そういうのは、めちゃくちゃ楽しそうでさ、オレ、好きなんだよね」
「へぇー!まなぶ君もなんだ、私も好きだよ、お母さんの影響で、魔女とかも興味あるよ」
そこで風月が、「私は、くだらないと思いがちだけど、愛歩からオススメされて、結構そういうの読まされたりしてるから、知らない訳ではないけど、あまり興味もない話題かな」と言った。
愛歩が色々と言い出したが、莉々菜は少し、シュンとした顔で風月を見ていた。
しかし、「三人組で行動するなら、付き合うよ」と、風月が言い、二人は安堵した。
グループ名も考えたいという話だったが、グループ名が、なかなか良い案が浮かばない、ということで後回しになった。
その代わり、どんな所を探索するかの話で、まずは手始めに、学校の七不思議について、巡ってみようという話になった。
普通の学校では、そういうのが、あるようなのだが、この学校には、そういうのが無かったのだ。
かといって、普通の学校に潜入して調査、とは行かない為、どんな七不思議があるのかを、先に調べる事となった。
そこから、愛歩の叔父が、色々な話を知っているから、ある程度、協力してもらおう、という事となった。
風月からすると、あまり気が乗らないが、莉々菜は、風月と仲良くなれるなら、それだけで良かった為、愛歩の叔父には興味を抱かなかった。
ある程度、どこをどう巡るか、どんな事を調べるか話し合った後、三人は解散する事となった。
時間も時間で、風月には、妹と弟の世話もあるからだ。



風月はこの日、夕飯は店で食べる事にした。
寄り道して帰ってきた為、用意するのがめんどくさくなったのだ。
妹からは、とても喜ばれたが、風月からしてみれば、両親の負担にならないか、店の客に迷惑にならないか、それだけが気掛かりだった。
店に入ると両親は笑顔で迎えてくれた。
ちょうど、空いていたテーブル席に子供達を座らせ、家族メニュー(まかない)を食べさせる事となった。
厨房にいる父から、「今日はダディが作る、『DONBURI』だよ」と言われ、妹と弟は目を輝かせた。
風月は、近くにいる母から、「何かあった?」と聞かれ、「愛歩に付き合わされ、三人組を作って街歩きしようって、誘われた」と、話した。
「あら、面白そう!お母さんが子供の頃もあったわよ、悪ガキ三人組っていうのが流行ってね、秘密基地とか作る感じの奴、男の子ばっかり、そういうの楽しんでるから、女の子達は面白くなくってね、女の子はね、女の子同士で三人組作って遊んでたのよ、懐かしいわぁ」
そこで父が「何か面白そうだね」と話に加わり込んできた。
風月は、ちゃんと働いてくれよと、思ったが、外国人の父は、手を抜くのが上手かった。
定食を一つ作り終えた父は、客に提供した後、子供達のテーブルに近付いた。
「ダディの話、聞くかい?」
「遠慮しとく」
「かづき、ダディの話を聞いてくれよ、ダディは昔…」
父の話は長い。
なので、風月は聞きたくなかったが、父はお構いなしに話した。
「ギャング集団だったんだけど、どんぐりって名前で、カワイイ名前の集団だったんだけどー」と父の話で、ギャングなのに「どんぐり」か、と思ったら、少々、可笑しかった。
さらに、藍和国ではなく、海外の言葉で「どんぐり」という名称だったのが、風月の中で引っかかった。
“どんぐりか…外国語、ありかも”
風月はそう考えると、外国語で「どんぐり」は、どう言うのか、聞いてみる事にした。
父は自分が生まれ育った国の言葉と、別の外国での言葉を、外国語の先生のように話してくれた。
それを、愛歩や莉々菜に伝えると、二人から「良いね」と言われた。
そして、三人のグループ名は【Ekollon(えころん)】となった。
莉々菜は、何かのキャラクターみたいだと言い、確かに、そういう風にも聞こえると、風月は思った。
莉々菜が気に入ったならと、愛歩はそれだけでOKを出した。
三人組のグループ名は、こうして【エコロン】となったのだ。
グループ名も決まり、三人は本格的に活動する事となった。

                  END
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