第1話

文字数 11,201文字

藍和国(あいわこく)
ここは丸に近い形をしていて、金平糖のような形をしている。
東西南北に大きな街があり、蒼、茜、翠、墨という言葉で色分けされている。
藍和国という国名は、昔から藍色の物が多く作られており、そこから藍和国となった、と言われている。
それで、東西南北の四つの街の地名は、東が蒼、西が茜、南が翠、北が墨となっている。
この国は大きな大陸が三つあるうち、東側の大陸にあり海に面している。
海があるのは南側の方だが、人気エリアである。
首都は西側の茜街(あかねがい)で、一番気候が穏やかである。
そんな首都、茜街にある学校の一つに、一風変わった学校がある。
【茜陽 学園】(せいよう がくえん)
小・中・高のエスカレーター式の学校で、私立扱いである。
前校長が校長をしていた時は、ごく普通の高校だったのだが、校長の娘がその学校の生徒だった時の思いから、父親は娘の意思に負け、学校に革命を起こす事となった。
その為、娘の好きなように変えられてしまったのである。
制服も学校の外装も、何もかも変えられた。
デパートのような外装で、学校っぽくない物になっている。
校長になった娘の言葉は、「派手なのが良いじゃん」である。
その為にこの学校は、現校長の趣味により、普通とは異なる学校である。



この学校の一番高い場所に校長室がある。
「見晴らしの良い所が良い」と学校を建て替える際、そう言ったので、そうなっただけである。
十畳ほどの校長室は、屋上の一部がルーフバルコニーになっていて、そこは校長のプライベート空間として繋がっている。
校長室の中は、校長が「ピンクとヒョウ柄」と言ったので、ショッキングピンクとヒョウ柄の仕様である。
その、こだわり抜いた校長室の中で、校長の夏川 七海(なつかわ ななみ)通称、「NA-NA」は、校長室の出入り口の前に、仁王立ちで立っている。
そして一言を言い放った。
「さて、新たな時代の幕開けかー、よし、本年度も楽しく過ごすぞー」
今日から新学期が始まった。



茜陽中学校の二年生になった、「Smith 風月」は、外国人の父と、藍和国で生まれ育った母の元に生まれた子供である。
スミスが苗字で、風月が名前である。
「Smith ふうげつ」と呼ばれる事が一般的だが、読みは「すみす かづき」である。
※またはカヅキ スミス
「スミスさん」と呼ばれる事が多いが、友人、知人からは「カヅキ」と呼ばれる事が多い。
「ふう」というあだ名もあるが、そちらは本人が気に入らない為、あまり使われていない。
外人とのハーフの為、目立つのだが、風月にしては、気にしてもしょうがない為、多少周りから疎まれたりしても気にしていなかった。
一人でいる方が気楽だと考えている為、友人は殆ど作ってない。
この学校は、他と変わっている為に、仲が良い同士を離すようなクラス分けはしていない。
人数もあまり多くない為に、二クラスしかないのも特徴だ。
制服は「オシャレ大事」な校長が、色々と口を出した為に、決まったデザインや色があるのだが、
「派手が良い」という意見から、カラフルになっている。
ブレザー、シャツ、スカート、スラックス、そのた諸々、現状ある物から、好きな物を選べる。
ワンピースも選べるが、ブレザーではなく、ボレロになる。
ショートパンツや、キュロットも選べるし、丈も自分の好みに出来る。
風月は、シャツ、ブレザー、ショートパンツ、ネクタイにした。
シャツは白、ブレザーは黒、ショートパンツとネクタイはお揃いの黒系のチェック柄にした。
それに合わせて、市販の黒のニーソックスに、靴は「何でもOK」という事から、風月は黒の編み上げのハーフブーツにしている。
学校は、「外国みたいなのが、カッコイイ」と、校長の指示により土足である。
体育館のみ、体育館履きが用意されている。
しかし、それもデザインや色を選べる。
バッグは学校指定のもあるし、小学生は学校指定のランドセルもあるが、基本、自由である。
誰もがそんな風に、自分の好きなようにカスタマイズしている。



今日から新学期で、中二になったばかりのクラスは、非常に賑やかだった。
そんな中でも、風月は退屈そうにしていた。
出席番号とかも無ければ、席替えも無い。
その為、クラスの中では皆、自由に座っている。
終業式に出席する前の時間帯に、風月は幼馴染で唯一の友人である男子から、話しかけられた。
男子は風月の右隣にいる。
「なぁ、なぁ、カヅキ」
「なに」
「今月から、オレと勇次さんが一緒に行ってる【魔法少女カフェ プリズム♫リズム】の店員のゆきのんとあやのんが、二人で書いてるネット小説、『ここあ』のアニメが始まるんだ」
「あぁ、オススメされてた小説か」
「そう、アニメ化になった事で、書籍化もされて、みんなファンは大喜びなんだ」
「へぇー」
「本当は、女性向けに作ってたらしいんだけど、男性人気が圧倒的なんだってさ」
「まぁまぁ、絵が、そういう男性が好む絵柄だもんね」
「あやのんの絵は、めちゃくちゃ良いんだよ、女性向けでもあるけど、男も好む絵柄なんて、なかなか書けないぞ」
「ハイハイ」
「とにかく、ゆきのんとあやのんは、天才なんだよ」
「すごいねー」
「なんだよ、なんか、感情の無い返事」
「なにも、私は興味ないからだよ」
「なんでだよー、勇次さん以外、おまえとしか喋る人、いないんだから」
「友達、作ったら良いじゃん」
「そんな高度な技術、持ち合わせてねーよ」
「昔から、人付き合い苦手だね」
「親があんな風なのに、オレだけなんか、あの家の人間じゃないような、感じがするんだよなー」
「本当は、勇次さんの隠し子だったりしてね」
「まさかの隠し子説か?」
「でも、お母さんにそっくりだよね」
「そうか?」
「うん、小さい時からずっとそうだよ」
「何か、そういうの、嫌なんだよなー」
「そう?」
「おまえは良いじゃん、父親と母親の良いとこどりでさ」
「そうかな?」
「そうだよ、藍和国の地で生まれ育った人間としては、羨ましい限りだよ」
「私は普通のが、良いと思うけどね」
「いや、普通は面白い事、何もねーよ」
「ふーん」
そこで、先生が教室へ入ってきた為、会話は途切れた。
先生が来た事で、クラスは皆、立っていた者達や、友人と喋っていた者達は、ちゃんと席に座り、前を向いた。
先生が一年生の時から、変わらない為、とくに代わり映えのない顔馴染みである。
出席確認で、クラスにいる全員が名前を呼ばれ、出席確認出来ると、先生は、とある準備を始めた。
自動でスクリーンが下ろされ、教室は暗くなり、クラスの大半は、シーンと静まり返っている。
教室のスピーカーから、校長の声が聞こえ、皆は一瞬緊張した面持ちとなった。
「みんなーっ、おはよー!これから校長室で始業式の挨拶すんからねー、準備OK?まだならしっかり準備してねー、じゃ!」
ブツッと放送が切れると、スクリーンに何かが映し出された。
ショッキングピンクとヒョウ柄のインテリアに囲まれた校長、夏川 七海がソファーに座った状態でスクリーンに映っている。
「みんなー、校長の『NA-NA』だよーっ、今日から学校始まるから、楽しんでいこーぜ!じゃあね」
そこまで喋ると七海は手を振り、映像は途切れた。
先生はまた作業をして、「では、これから教科書を配ります」と言って、段ボールから派手な教科書が人数分出された。
前の人が一冊取って、後ろに回していく方法で、教科書が配られる。
教科書まで普通ではなく、キラキラしている、カラフルな物だった。
小学校からこの学校に通っている者は、驚く事は無かった。
校長が変わった際、ほとんど新校長の趣味に変わったので、それを知っていれば、なにも驚く事はなかった。
新校長になってから、小学校に入学した風月も風月の友人も、今さら何も思わず、ただ、教科書を受け取っていた。
今日は新学期が始まっただけなので、生徒は早く帰れる。
中二になっても、幼馴染の男子と慣れ合うのも、変だと思うが、風月はそれでも家族ぐるみで付き合いがある為、この関係は崩せなかった。



家に帰ると、風月と同じように茜陽学園に通う、小学校の妹と弟が、すでに家に帰っていた。
風月の家は、昔から定食屋を営んでいる。
定食屋は家の敷地内にあり、祖父母の家の一角が店舗である。
今は同じ敷地内に、風月家族の住む家が建てられている。
その時に祖父母宅と定食屋部分の所を改装している。
そんなに大きな家に住んでいる訳ではないが、父が外国人だった為、増築ではなく、分けて住む事になった。
その代わり、祖父母の家は最小限に抑えられた。
この国は元々、人が住む土地は狭くない。
だからこそ、家を建てられるのだ。
それでも大家族の家である、隣の家より小さい。
隣の家は建築会社を立ち上げた、幼馴染の家である。
そこは、風月の土地よりも広く、家も敷地内に三戸建っている。
祖父母の家の方にある定食屋では、丁度昼食時で、賑わっているようだ。
妹達は、姉が帰ってきて直ぐに「おなかすいたー」と言ってきた。
午前で学校が終わった為、お腹が空いているようだが、風月もまだ、帰ってきて間もない。
「着替えたり、荷物を部屋に置いてくるから、待ってて」
「また、チャーハンなの?」という妹に対して、「簡単に作れるとしたら、チャーハンか、後は冷蔵庫の中を確認しなきゃならないし、文句あるなら、自分でも作れるようになってよ」と言うと、「イヤー、めんどくさーい」と返ってきた。
「じゃあ、文句言うな」と返すと、「ママの所とか、となりに行きたーい」と、駄々をこね始めた。
隣とは、風月の幼馴染の家である。
「定食屋は今、忙しい時間だからダメだよ」
「じゃあ、となりー」
「一人で行け」
「じゃあ、那月(なつき)も一緒に行こ」
「ぼくは、おねえちゃんがつくってくれるの、まってる」
「そんなぁー」
「もう、桜月(さつき)、那月を巻き込まないように」
「お姉ちゃん、いちいちウルサイ、いいもん、一人で行ってくる」
「勝手に行け」
桜月は頬を膨らませて、出て行った。
風月はため息ついて、部屋に戻った。



風月の妹、桜月は、今日で小学六年生に、弟の那月は小学三年生になった。
家はそこまで広くない為、三階建てになっている。
一階はLDKと水回り、二階は夫婦の寝室と那月の部屋、三階は風月と桜月の部屋がある。
風月が部屋に入ると、荷物を置いて、制服を着替えた。
部屋着を着て、一階に戻ると、さっき出て行ったハズの桜月がリビングに戻って来ていた。
「あれ、家から出てったンじゃないの?」
「行ってない、出たけどやめた」
「そ、じゃあ、ちょっと待ってて」
「もう待てなーい」
「ハイハイ」
風月はキッチンへ行くと、冷蔵庫の中身を確認した。
簡単に作れるとしたら、やはりチャーハンが良さそうだ。
風月は直ぐに、材料を用意して作り始めた。
風月特製、簡単チャーハンを作り、簡単スープも用意して、ダイニングに運んだ。
二人を呼んで、三人でダイニングテーブルを囲む。
桜月は、いつも通り多少、文句を言いつつ食べている。
那月は普通に食べている。
三人で食べている時は、いつもそうだ。
桜月は今、反抗期を迎えているらしい。
自分にはあまり、そういった時期が無かった気がするが、これから迎えるのかも知れないが、妹と弟がいて、二人の面倒を見ていると、いつの間にかこうなってしまった。
今後、自分がどういった大人になるか、分からないが、このままになってしまいそうだ。



昼を食べ終わると、三人は別々に過ごした。
風月は自分の部屋で、パソコンに向かっていた。
今日、幼馴染が言っていた、小説を読む為である。
付き合いで読んでいるが、正直、好きなタイプではない。
幼馴染の子はオタク趣味を持っており、常に叔父である男と行動している事が多い。
その二人で行くのが、【魔法少女カフェ プリズム♫リズム】という店である。
がっつり二次元向けの内装に、店員として六人の女の子が働いている。
二人の同じクラスに、栗原 莉々菜(くりはら りりな)という子がいるが、その子の父親が経営しているという事のようで、幼馴染は、その栗原 莉々菜という子も、気になっているようだった。
莉々菜の親戚の女性も働いているようだが、現在二十歳という事で、風月の幼馴染は、莉々菜の方が良いようだ。
お店の方では、ネット小説を書いている、中村 雪乃(なかむら ゆきの)という女性がお気に入りのようだが、雪乃はそのカフェで働いていて、ファンになってくれた男にだけ、ネット小説を書きたいと、相談していたらしい。
そして、そのまま、小説のファンも掴んだという話らしく、風月はそれを聞いた時、なるほど、賢いなと、思ったくらいである。
そうして今は、ファンが多い小説家としても、活動している。
そんな奴の小説なんて、読みたいとは思わないが、幼馴染がその話をする為に、しかたがなく読んでいる。
これも、雪乃の陰謀に捉えられてしまうが、風月は面白く感じない、雪乃の小説を、サーと読み進めた。
そして、今月から始まるアニメも見なくてはならない。
見たくはないのだが、話についていけなくなる為、またも同じ気持ちで、見るしかなさそうだ。



新学期が始まってから、一週間も経ってくると、生徒達は落ち着きを取り戻していた。
小学校一、二年生の子は、まだまだ、落ち着かない子もいるが、学校全体としては、いつもの感じを取り戻しつつある所だった。
本日から、アニメが放送という事で、風月の周りでは、チラホラその噂が耳に入る。
風月の幼馴染で友人の、竹内 愛歩(たけうち まなぶ)も、朝からその話ばかりしている。
まだ、アニメは始まっていないのに、ぶつくさと言っている。
風月は、めんどくさいと思いながら、適当に相槌を打っていた。
新学期で適当に席を決めてから、クラスの子達はそのまま席替えせずに座っている。
風月は、真ん中の列の一番後ろに座っている。
風月の背丈は158cmで、平均値なのだが、背の小さい子や目が悪い子が前の方に座っている為、愛歩もそれを分かって、風月より先に、人気が少ない真ん中の列の一番後ろを選ぶのが癖になっている。
その為に二人は、真ん中の後ろに座っている。
そういう所は、風月も愛歩の事が好きなのだが、それでもウザったいと思う時がある。
それが、自分に興味ない物の話をされている時だ。
一部のクラスの男子は、チラホラと三人組を作ろう、という内容の話をしているようで、愛歩はその噂を気にしているようだ。
愛歩の読んでいる小説の内容は、恋、琴音、亜衣の女の子三人組が、不思議を巡り、街歩きする内容である。
『ここあ』というタイトルは、「ここ歩き」という意味も含めるが、三人の頭文字をとって「ここあ」になっている。
その作品の真似をしたくて、誰かと三人組を作り、街歩きするかと、話をしているようだ。
アニメや小説、漫画やゲームを好む男子たちが、こぞってその話題をだしている。
愛歩はその事が気になっているようだ。
風月は愛歩に、「そんなに気になっているんなら、声をかけて、三人組を作る仲間に入れて欲しいと、頼んだら良いんじゃない?」と言ったが、「話が合わない奴らとは、慣れ合わない」と言い出した。
「いや、話が合うだろ」と言ってみても、愛歩は譲らなかった。



学校が終わった後、風月は部屋で音楽を聴いていた。
スマホがメッセージを受信した音を出し、確認すると、愛歩からのメッセージで『すまん、助けてくれ、つんだ。オレの部屋に来てくれ』という文章だった。
あきれ顔でスマホを持って、音楽プレーヤーを操作し、音楽を消してから部屋を出た。
学校以外でも、なれ合わなくてはいけないのか、と思っても、結局は愛歩の言う通りに、風月は動いてしまう。
しかたがなく、隣の家へ向かう事にした。
下の階にいる妹と弟に一言、声をかけてから風月は家を出た。
家の敷地内から、塀を乗り越えて隣の敷地内へ入った。
大きな土地に、三戸、家が建っている。
本家が真ん中、本家の横、右側の家が祖父母や叔父が住む家で、本家の横、左側の家が愛歩と愛歩の母と、叔母と叔母の子供が住む家だ。
竹内家は早婚が多く、子供も早い段階で生まれて、なおかつ数が多い為、敷地内では、愛歩から見て、曾祖父母、祖父母、母親、叔父、叔母、伯母の娘が住んでいる。
その叔父が、勇次という名の男である。
風月は、迷わずに愛歩の家へと進んでいった。
チャイムを鳴らすと、二階の愛歩の部屋から「カヅキ、玄関の鍵が開いてるから、勝手に入って来いよー」という愛歩の声がした。
愛歩の家の門は厳重で、簡単に入って来れない。
その代わり、隣家との塀は特になにも無いのだが、監視カメラで撮影されている。
その為、家族間の行き来がめんどくさいからと、家の鍵は、全員が留守にする時以外、閉めないのだ。
それを知っているから、風月はめんどくさがって、塀を乗り越えて来たのだ。
そしてそれは、昔からの習慣である。
玄関を開け、慣れた感じで家の中を歩くのも、今ではお馴染みの光景になっている。



風月は愛歩の部屋の前で、ドアを三回ノックした。
「誰だ」
「バーカ」
「その口の悪さはカヅキだな」
「他に誰が来たと思ったんだ」
「カヅキさんしか、呼んでません」
ドアが開いて、しょんぼりした顔の愛歩が姿を現した。
身長158cmの風月と身長160cmの愛歩では、目線がほぼ同じだからか、しょんぼりした顔が目の前にあり、風月は少々、イラっとした。
「で、つんだって何が?」
「まぁ、入れ」
風月は愛歩の後について、部屋に入った。
「パソコンで出来るゲームを勇次さんとやってたんだが、もう一人、人数が必要なんだ」
「なにそれ、そんなこと?私のパソコンじゃ無理?」
「オレのノートパソコンで出来るから、これで一緒にやってくれ」
「わかった、叔父さん、ゲーム下手だもんね、つんだってそういう事か」
その声に、愛歩のゲーム起動中のパソコンから、叔父である勇次の声が響いた。
「愛歩もカヅキも、俺に対して失礼じゃないかー」
「さっ、カヅキ、手伝ってくれ、オレ一人じゃ無理だ」
「ハイハイ」
二人はそれぞれの場所に座った。
風月は言われた通りに、ノートパソコンを開いてゲームを起動した。
オンラインゲームで、三人でパーティを組みゲームを楽しむ事となった。
叔父さんはゲームがあまり得意ではないようで、愛歩と風月がサポートしながら、何とかクリアしていった。
しばらく遊んでいると、やはりあの小説のアニメ化の話が出てきた。
叔父さんは、雪乃と綾乃の事を、作家名の冬華(とうか)と春華(しゅんか)と呼んでいる。
店では二人を「ゆきのん」と「あやのん」と呼んでいるが、クリエイター名で呼ぶのは、その作品を語る時にそうしているようだ。
「店ではー」と「他の客がー」といった内容の話が続き、風月は、またも退屈な話だと思っていた。
話が小説『ここあ」』とアニメの『ここあ』がどうなるのか、という話から、今後、店での評判が気になるという話に、『ここあ』が実写ドラマになり、男の三人組が新たに登場するという情報も解禁されたという話になった。
「女子どもが介入してくると云々」と愛歩が言い、勇次は「イケメン男性アイドルの参入が云々」と言い出した。
雪乃達は元々、女性向けに作ろうとしていたのだから、女子受けは嬉しいのでは?と、風月は思ったが、黙ったまま話を聞き流していた。



しばらく遊んでいると、風月のスマホに妹から連絡が入った。
内容は、お腹が空いたとの事だった。
風月はもう、そんな時間かと、時計を見ると、あれから結構な時間がたっていた。
さらに、飼い猫を連れて、そちら側へ行くとの事で、風月は門の開錠を解いて欲しいと、愛歩にお願いした。
妹達が来るというと、喜々として勇次が「俺もそっちで飯を食うかなー」と言い出した。
その言葉を無視して、風月は妹に門を開けてもらうから、門から入って来いと指示をした。
愛歩に、猫の餌を用意してくれと頼むと、「俺が持ってくよー」と再び勇次の声が響いた。
「だってさ」
「ハイハイ」
風月と愛歩は、いつも通りだと思いながら会話をした。
この叔父は、猫と子供が大好きだ。
特に甥っ子の愛歩の事は、一番、可愛がっている。
趣味が合うというのもあるが、単純に竹内家の中で、異質な存在扱いされてきたのが勇次である。
竹内家は結構な派手好きで、みんなでワイワイするのが大好きな人達である。
その中にインドア派の勇次が一人、ポツンといたのだが、愛歩の登場により、仲間が出来たことが嬉しいのだ。
それでしょっちゅう、愛歩に付きまとっている。
スマホでのやり取りの後、何分もかからずに、風月の姉弟と猫と愛歩の叔父が、愛歩の部屋に入ってきた。
「もう来たの?」という風月の言葉に、猫がニャーと返事した。
「はいはーい、エヴァルちゃーん、餌をお持ちしましたよー」と勇次。
猫は三文字くらいは人間の言葉を覚えるらしく、猫はエヴァと餌という言葉に反応した。
エヴァルというのは、外国語で「八」を意味し、黒と白のハチワレ猫である、風月の飼い猫につけられた名前だ。
外国語では、ハチワレという言葉はなく、バイカラーキャットと呼ばれている為、風月の父親には、母親がこの国ではハチワレと呼んでいる事を説明した。
そんなエヴァルは、なぜか人間のような猫で、こうして縄張りから多少出されても、文句はないようだ。
むしろ、自分も連れて行けと言うように、風月達についてくる時がある。
それで今回も、腹が減った妹達と一緒に、自分も餌を貰いに来たのだ。
風月は、妹達が来た為に、一旦ゲームを終了させ、ノートパソコンを閉じた。



今日は竹内家でご飯を食べる事になった、スミス家の子供達だが、竹内家はむしろ皆でワイワイ出来る為に歓迎していた。
その中で勇次は、あまり歓迎されてなかったが、勇次も勇次でお構いなしに、風月の妹と弟に話しかけては、妹の桜月からウザがられていた。
しかし、それも勇次は気にしてないようだ。
鋼のメンタル、と風月と愛歩は思っている。
ちなみに、愛歩の母親の兄弟は、母を含めて四人いるが、
勇次は独身で子供もいない。
母、真奈美が長女で、長男の勇次、次男の陽介、次女の美智香と続くが、陽介は妻子ありの家庭持ちで、別の場所に家族で住んでいる。
その為に、勇次は愛歩から見ての祖父母と一緒に住んでいる。
今回はこうして、姉と妹が暮らす家に来ているが、愛歩に会いに来ることはあっても、基本、実家のが落ち着く為、今日は珍しいくらいだった。
さらに、文句言いながらも、勇次の分もちゃんと用意してくれる真奈美は、一家の長女として、頼れるお姉ちゃんだった。



夕飯が終わると、妹達は帰って行った。
風月はもう少しゲームを手伝う為に、竹内家に残った。
そして、スミス家の猫、エヴァルもだ。
「あー、エヴァルを置いてった!桜月のやつ」
「まぁまぁ、カヅキ、オレは構わないぞ」
「まぁいいか、エヴァルは大人しい猫だし」
「そうだぞ、カワイイ猫ちゃんだぞ、カヅキ」と、口を挟んだのは、叔父の勇次だ。
「叔父さん、まだ愛歩の家にいたんですか?」
「あぁ、時間になったらアニメを一緒に視聴するからな」
「あー、それでか」と風月。
風月は先程と同じよう、ノートパソコンのあるテーブルの方へ行き、座った。
愛歩も自分のパソコンデスクの方へ行き、ゲーミングチェアに座って、パソコンを起動させた。
勇次は猫をウザがらみしている。
愛歩と風月だけでゲームを進め、キリの良い所でゲームを止め、風月は猫と一緒に帰って行った。
帰ったら帰ったで、風月は猫を一階のリビングに放つと、定食屋の仕事から帰宅した父親から、今日のご飯はどうしたのか聞かれた為に、竹内家で食べたと報告した。
父親は外国人の為に、愛和国の人のように、真面目過ぎなくらいに働かず、こうして一人、帰ってくるのだ。
あまり長い時間、店が開いている訳ではないが、後は風月の母がテキパキと動いているのだ。
母も動くのが好きな性質の為に、夫を家に帰している。
子供の事も気になるという気持ちもあるし、ここは元々、両親の職場だった。
だからこそ、勝手が分かる方が残っているのだ。
風月は、自分の部屋へ戻り、ゆっくりとする為にお気に入りの音楽を再びかけて、部屋で寝転んだ。
アニメが放送される時間は、一階では両親が揃い、テレビを見る時間である。
その為に、自分の部屋にあるテレビで見る事にしている。
姉弟や両親とチャンネル争いが発生しないようにと配慮して毎回、自分が何か見たい場合はそうしているのである。
しかも、付き合いで見るアニメである。
気が進まないものを見ていると、指摘されないようにする為だ。
しばらく音楽に耳を傾けていると、またも愛歩からのメッセージを風月のスマホが受信した。
もちろん内容は、アニメの時間とちゃんと見ろよなというものである。
適当に返信して、風月は再び音楽に耳を傾けた。
しばらくして、アニメ放送の時間になり、風月は音楽を消して、テレビをつけた。
アニメを放送するチャンネルに切り替えると、アニメ関連のCMが流れた。
風月が見ているチャンネルは、アニメ専門チャンネルである。
その為に、アニメ関連や、ゲームなどのCMばかりが流れるのだ。
風月は一息ついて、画面に集中した。
丁度その時、『ここあ』というタイトルのアニメが始まった。



翌日
アニメやゲームなどのコンテンツが好きな男子は、アニメの感想を語り合っていた。
愛歩も風月も、もちろん今日も、朝からアニメの話をしている。
アニメ『ここあ』が始まり、一部の男子の中で、人気アニメとなった。
これからこのアニメは、実写ドラマ化され、女性アイドルや人気女優のキャスティングに加え、原作には男性三人組は出てこないのだが、多少の違いを出す為に、人気男性アイドルが投入される。
これから学生や若者の間で、流行りそうな予感のするコンテンツとなりそうだ。
中学生というのは、あっという間に流行り物にしがみ付き、みなこぞって真似をするのが多い。
学校の中で、一人ぼっちになりたくない為、皆が皆、同じコンテンツに注目し、それについて行けない子は、どんどん孤立していく。
もちろん、仲間に入りたくても、入れてもらえない子がチラホラ出てくる。
風月と愛歩が二人で仲良く喋っているのを、羨ましく思いながら見ている子がいた。
窓側の一番前の席で、一人ぽつんといる女の子、栗原 莉々菜(くりはら りりな)は、女子グループに入れてもらえない子である。
アイドル並みの見た目で、男子からは人気なのだか、それがダメなのか、女子からはシカトされている。
多少なりとも天真爛漫な子で、天然ちゃんと呼ばれる事もある。
学校では友人がおらず、常に一人ぼっちな子だが、高校の方に姉がいる為、何かあれば、姉に会いに行く事もある。
誰かと仲良くしている方が、楽しいのは分かっているが、普通の学校だと、個性的と言うだけで排除対象になる。
それならまだ、こちらの学校の方が個性的でも全然OKだ。
だからこそ、小学校の時から、この学校に通っているのだが、ここでも自分は一人ぼっちである事は変わらず、もう、諦めていた。
しかし、中学に上がり、風月がいた事に、少し、心の支えとなっていた。
風月も風月で、一人が気楽という感覚で、女子と仲良くしていないからだ。
それでも愛歩がいるから、一人ではないが。
そういった感じで、一人でも友人がいる風月を、羨ましく思っていた。
さらに、今現在、三人組を作っている物がチラホラしているのも知っている。
莉々菜は、誰からも声をかけてもらえないのは、分かっているが、もしも風月と愛歩と三人組が組めたら…という、淡い期待を抱いていた。
一方、風月は、そんな視線に気付かず、愛歩と一緒に話していた。
愛歩も愛歩で、話に夢中で、自分が好意を寄せている女子が、風月の事を見ている事なんて気付かずに、アニメの話に夢中だった。

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