仲直りパーティー

文字数 2,214文字

「これ、ミユが……?」

 部屋に散らばっているものを見て、僕は驚きの声を上げた。

「も……もうちょっとで終わるから、部屋の外で待っててくれる?」

 ミユにそう言われて、僕は部屋の外に出る。


 時を戻すこと、三時間ほど前。
 僕のスマホにミユからメッセージが来る。そこにはこう書かれていた。

『夕方の五時ごろに家に来て』

 ミユは僕の彼女。
 でも、最近ちょっとしたことで喧嘩する回数が増えていて、そろそろ終わりかなって感じてる。
 『家に来て』というのも別れ話かなと考えてしまう。


「僕はそれでもミユのことが好きなんだよな~……」


 とりあえず、『行く』というメッセージを送り僕は時間まで暇を持て余していた。

 ミユと付き合うきっかけは中学一年の時。
 バレンタインデーにプレゼントと共に



 最初の印象は良く笑う可愛い女の子。
 でも、付き合うようになってお菓子作りが好きな事を知って余計に好きになった。
 そして、付き合い始めてからミユはよく手作りのお菓子を作ってくれた。

 初めてのお菓子はチョコのクッキー。
 それもハート型。
 僕は嬉しくてクッキーを食べてしまうのがもったいないと感じるくらいだった。
 (でも、綺麗に頂きました。美味しかったし……)

 ミユはパティシエになりたいって言っていた。
 それで、高校が離れ離れになるから僕はそれが嫌で行く高校のことで最近喧嘩が増えている……。

 大好きだから、一緒にいたい……。
 高校が別々になったらミユを他の奴に持っていかれてしまいそうで、それが嫌だった……。
 友達のユトにはそのことを話したことがある。
 確かミユとは従妹だって聞いた。

「高校が別々になっても、大丈夫だと思うよ?ちなみにアキラのその心配はミユも同じだよ。ミユもそんなこと言ってた」
「でも、別々になったらあり得る話じゃん!僕、ミユとはずっと一緒にいたいんだよ……」
「なら、一度ちゃんと話し合ってみたらどうかな?」

 そうユトはアドバイスをくれたが、離れたくないという感情が優先してしまい、まともに話し合いができていない状況だ。
 そんなこんなでの『家に来て』だから、別れ話しかもしれない……。

 僕はいてもたってもいられなくなって時間はまだ早いが、ミユの家に行くことにした。

 ピンポーン……。

 インターフォンを鳴らすと、ミユが玄関から顔を出す。

「……えらい早くない?」

 ミユはそう言って、明らかに困った顔をしている。

「取り合えず、上がって。リビングで待っててよ」

 僕は家に上がり、リビングにお邪魔する。
 今までは部屋に行っていたのに……。
 やっぱり別れ話なんかな……。

 僕の頭に『バイバイ』の文字が浮かぶ……。

「もうちょっと、待ってて……」

 ミユはそう言ってリビングを出る。
 
 部屋には誰かいるのだろうか?
 
 もしかして、新しい彼氏……? 

 いやな考えが頭の中を駆け巡る……。

 僕はそのことを否定したくて、ミユの部屋の前に行く。

「ミユ!部屋に入れてくれ!!」

「アキラ?!もうちょっと待ってっていったじゃない?!」

「なんでだよ!部屋に誰か連れ込んでいるのか?!」

「ち……違うよ!その、部屋の中散らかってぐちゃぐちゃだから!!」

 ミユが部屋の中から驚きの声を上げる。
 整理整頓が得意なミユに限って部屋がぐちゃぐちゃなんてことはあり得ない!
 それに、部屋の中から何か音が聞こえる感じがある。

(やっぱり他の男が……?!)

 僕はミユを取られたくなくて、気が焦り、扉を勢いよく開けた。

 
 そこには……。


 色とりどりの風船が部屋中を敷き詰めていた。

「……え?」

 予想していなかった光景に僕は固まる。

「もうちょっと待ってって言ったのに……」

 風船を膨らましていたのか、ミユの手には風船が握られている。

 その目には涙が溜まっている。

「完成してから、部屋に入ってもらおうと思っていたのに……」

「これ……ミユが……?」

 僕の言葉にミユが頷く……。

「もう少しで完成するから、部屋の外で待ってて……」

 僕はそう言われて大人しく廊下に出た。


 数十分後……。

 ミユに「入って」と言われて僕は部屋に入った。

 部屋にはカラフルな風船たちが床を埋め尽くしている。

「アキラ、ゲームだよ!この風船の中から文字が書いてあるのを四つ見つけて、言葉を作ってください!!」

 突然のゲームスタート。
 僕は部屋を敷き詰めている風船を一つ一つ確認して文字の入った風船を見つけていく。
 かなりの数の風船だ……。これを一人で全部息を吹き込んで膨らましたのだろうか……?
 
 僕は文字の書いてある風船を探し出す。

 一つ目……。

 二つ目……。

 三つ目……。

 そして、やっと最後の一つを見つけ出した。

 それを一つの言葉にする。


「あ……」

 

 僕は思わず声を上げた。


『ゴ』・『メ』・『ン』・『ネ』


 不意に涙が零れた……。

 ミユが僕にあるものを差し出す。

「初めて渡したお菓子覚えてる?」

「チョコのクッキー……」

「あのね……、今日は仲直りしたかったのと伝えたいことがあったから来てもらったの。私ね、高校はアキラと同じ高校に行ってその後で専門学校に行くよ……。それなら、一緒にいられるし……」

「ミユ……」

「だから、前みたいに仲よくしよ?ダメ……?」

 ミユが不安そうな顔をしながら上目遣いで僕を見る。
 
「うん……」

 僕はミユを力強く抱き締めた。

「く……苦しいよ、アキラ……」


 僕はこんなミユが可愛くて可愛くて大好きだ……!!

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