6 ✿ いけ! からあげ玉!

文字数 2,222文字

四月二十六日、土曜日、晴れ。


クジで「1番」になった旭メンバー。


合戦フィールドへ、ワナや武器の補充ポイントを設置するため、朝5時に塾で待ち合わせをした。


萌栄が塾に来ると・・・。

おはよう
おはよう! 発が1番ね。

僕たちの手でつくったカラクリを、今から仕掛けにいくんだな、って思ったらさ。


なんだかそわそわして、早く来ちゃったよ。

この一週間…がんばったわね。


穴掘りの練習したり、実際に落とし穴にはまってみたりずぶ濡れになったり…。


ワナを作るのと、試作の実験だけで、何回ゲームオーバーになったか分からないわ。

でも、僕は楽しかったよ。こんな風に、落とし穴やカラクリをつくるんだな、って。


あえて、自分のつくったワナにはまってみたのも良い経験だった。


鋼が全部教えてくれたおかげだ。…あっ、鋼が来たよ!

おはよう、鋼!
おはよう! 晴れて良かったなぁ! 今日は絶好のカラクリ日和や!

おはよう。


二人とも来たし、僕から渡すものがあるんだ。


これ、おじいちゃんが使って、って。

これは? 指輪?

おじいちゃんが合戦に参加するときに、いつも使っていたものと同じ。


ここの小さなスイッチを、親指で押すと…

リングライターね!

いかに早く火をつけられるか、種火コンパクトに、かつ安全に携帯できるか。

これも忍者のスキルだからね


思わぬところで着火しないように、使わない時は横のツマミで「HOLD」にしてね。


これが萌栄の、これが鋼の。サイズは、この前測ったから、合ってると思うけど 

つい先日のこと。


塾の帰り、発が「萌栄と鋼の指のサイズをはからせて」と唐突にたのんできたのだ。

指のサイズを測ったのは、これをつくるためだったのね。


ありがとう、発! あとでヤスジィにもお礼を言わなくちゃ。

ありがとう! 

どういたしまして。


――さて、と。話は変わるんだけど。


ここに完成したばかりの「僕の試作品」があります。

発は、卵より小さな、コロコロとした玉を取り出した。


「か」と文字の入れられたその玉からは、短い導火線がのびている。


誰も見ていないか、発は辺りを見回すと、ファイヤーリングで玉に火を点けた。




いけ! からあげ玉!!

ン!!


大きな爆発音がし、白い煙が辺りにただよう。




くんくんっ……なんだかおいしそうな香り。


んん? これは!! 揚げたてカリッカリの、カラアゲの香り!?

レモンだれが欲しくなる~。よ、よだれが…

現代版〝とり〟。いわゆるスモークボールだよ。 

おじいちゃんの知恵を借りて、ついに完成したんだ。


ラーメン玉、たこやき玉、ハンバーガー玉、プリン玉、ケーキ玉もつくったよ。


玉に名前を印字してるから、使う時には確認してね

このスモークボールで、ライバルの胃袋を刺激するんだ。
発は他の玉にも順に着火し、匂いがその食べ物と分かるか、二人に確認してもらった。
これ、すっごく良い! さっすが発! 

敵の注意をそらすのはもちろん、これなら媛の「香遁こうとん 」にも立ち向かえる!

うん。媛さんの「香遁」に立ち向かえる策はないか考えて、こうなったんだ。


 …あ、そろそろ時間だね。

それじゃ、行くか

三人は、合戦フィールドのある森の奥へと急ぐ。


現在、午前五時半。合戦フィールドへの「仕掛け」は六時から、クジの順番で始まる。


合戦フィールドへ「仕掛け」が行われるのは二日間で、「1チーム1時間半」という制限つきだ。

次のチームとの交替まで、一時間半。一分も無駄にできないね。


…ところで、鋼。そのリュック重そうだけど、大丈夫?

平気! 術使っちょるから。


そういや二人とも、風遁の調子はどう?

八割がた完成! ……身体はすごく軽くなったけど
僕も、いま一つ…って感じ
身体が軽くなってきたんなら、もうすぐやわ! おれん時もそうやったよ

二人とも体力に自信はあり、武器のあつかいもサマになった。


風をまとう感覚も身に付けた。ただ鋼のように高く跳ぶようなことはできない。


鋼が一度ジャンプする時、二人はその半分までしか跳べない。

風をものにしたら、枝をわたって樹のてっぺんまでのぼれるかしら?

萌栄は高い杉の樹を見上げる。


幹を軸に、らせん階段のように何本もの枝がのびていた。

のぼれるよ。その上へも行けるさ。


よぉし、手ぇかして。発もこっち握って

萌栄が鋼の右手を、発が彼の左手を取って、走り出す。
一緒に、とぼうや

つないだ手が力を入れずとも固くひっつく。


磁石のような強い力が手の中にある。

跳んで、風にのれぇ――!!

三人は足元に意識を集中させた。


右足を大きく出す。

一つ、二つと足場をかさねて地上から遠ざかる。


はじめての高さに萌栄と発は感動しているが、鋼はまだ先の光景を見せたいようで、上へ上へと二人をいざなった。

てっぺん、超えるよぉ!
三人の身体がポーンッと空へ打ち出され、眼下に 木々の絨毯 が広がった。
飛べたぁ――!!

三人は大きな歓声を上げた。


風をまとったまま、放物線をえがき、地上をめざす。


トン、トン、と枝を渡り、くるっと一回転、同時に着地した。

夢じゃないよね。今、飛んだっ、飛んだよね!?

うん、間違いなく飛んだよ! すごく気持ち良かった…!!

忘れないうちに、もう一回飛ぼう! 行くよ―――!!

三人はふたたび手をつなぎ、風を味方につけて森を翔ける。


初夏へ移りゆく森で、若葉はいきいきと(さか)え出していた。

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登場人物紹介

日高萌栄 (ひだか・もえ


中学2年生、13才の少女。

カピバラをこよなく愛する。

重黒木 鋼じゅうくろぎ・はがね


中学2年生、13才の少年。機械いじりが得意。

椎葉 発(しいば はつ)


中学2年生、13才。

萌栄の友達。花火師の孫。

黒木 殿下(くろき でんか)


萌栄のライバル

那須 雨音(なす あまね)


殿下の友達。

黒木 媛(くろき ひめ)


殿下の妹

日高 結芽(ひだか ゆめ)


萌栄のお母さん

日高 地平(ひだか ちへい)


萌栄のお父さん

日高 雲水(ひだか うんすい)


萌栄の祖父

重黒木 功(じゅうくろぎ こう)


鋼のお父さん

重黒木 理玖 (じゅうくろぎ りく)


鋼のお母さん

椎葉 康次(しいば やすじ)


発の祖父。花火師

黒木 智子(くろき ともこ)


殿下、媛のお母さん。

黒木 未夏 (くろき みか)


クラスメイト

中武 陽(なかたけ はる)


クラスメイト

那須 貴也(なす たかや)


クラスメイト

那須 由子(なす ゆうこ)


クラスメイト

お殿様。


西方の里を治める、お殿様。

南朝の忠臣、その子孫。

忠平(ただひら)


お殿様が助けた忍者。

加藤清正に仕えていたが、毒殺の濡れ衣をかけられ、逃げてきた。

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