第2話 いざ出陣

文字数 1,338文字

3階建ての雑居ビル。一応各階に入っている会社の名称が書かれている札があった。2階「研修センター」。やはり間違いではないのだ。当然、エレベーターなんてない。1階に入っている小さな不動産屋さんの横に、上に上がる階段があった。上がっていこうとした瞬間、古びた臭いがした。築30年、40年はゆうに経っているだろう、独特の臭い。そして1段1段上がるにつれ、その臭いはきつくなっていく。

 やっぱり、帰ろうか・・・。全国に店舗があり、名前もよく知っているドラッグストアだったので信頼していたが、もしかしたらブラック企業なのかも・・。もしこのビルの中で人が死んでいても、きっと誰も気付かない。そんな雰囲気だった。でも、ここまで来て帰るのももったいない。電車賃だって、往復で千円くらいかかっている。面接をパスして、しばらく働きたいし。きっと、すぐ終わるだろう。5分か10分色々聞かれて、そしていつから来れますか?こんな流れだろう。
2階に到着し、これまたボロボロの扉。ノックして、この銀色のドアノブを回して、失礼します。数秒の流れを一人シミュレーションし、時計を確認。指定された時間の5分前。ちょうど良い。さっき確認した通りの流れで進み、「どうぞ」と言われたので中に入った。

 狭い・・・そして、うそ。私、一人じゃないんだ。4畳ほどだろうか。そのくらいのスペースにパイプ椅子が横一列に並べられ、すでに3人の人が座っていた。あの住宅街のドラッグストアの応募に、これだけの人が来るとは。想像していなかった。
 
「そこに置いてあるシートに記入お願いしまーす」
明らかに私の年齢の半分ほどの若い女の子に言われるがまま、バインダーに挟んであるシート眺めた。氏名や住所、パートに入る希望曜日や時間などを記入するようになっている。そして、就業希望店舗とあったので、なるほど、私が利用している店舗だけでなく、ここで全店舗の面接をやるわけね。でもまぁ、私が行きたいと思っているところはマイナーな駅の住宅街の中にあるお店だし、この人たちとかぶることはないだろう。

 程なくして、その面接官であろう女の子が、私たちの前に一人向かい合わせに座り、話し始めた。
「あれ〜、もう一人来るはずなんだけど、もう時間なので、始めますね」
全員が書いたバインダーを回収され、その女の子はハスキーボイスでハキハキと話し始めた。きっと高卒で就職して、店舗で何年か経験を積んだあと、本社の人事に異動になったんだろうな。販売での成績は良く、頑張ったが故の、ハスキーボイスだろうと一人想像していた。ハスキーボイス面接官と呼ぶことにした。
「皆様、今日は起こし頂き、ありがとうございます。まず自己紹介、自己アピールなどお願いします。希望店舗や、希望の勤務時間や曜日なども言ってください。うちの会社は元気がモットーなので、とにかく明るく大きな声で元気にお願いしますね。そちらも、採用基準となりますよ。どなたからでも結構です、どなたからいきますか??」
 元気な声で自己アピール?うわぁ、準備してないし、苦手・・・どうしよう。でもこういうのって、1番に手を挙げるのが有利だな、絶対。自己アピールどうするか・・、しかも42歳のおばさんが元気にとかって格好悪いし・・・
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