木漏れ日の悪夢

文字数 1,098文字

大きく息を吸う度、肺が痛くなるほど空気は冷たく、うだつの上がらない日々にウンザリしながら吸った息を今度は吐き出した。息は白かったし、曇り空の中で震えながらイラつきを隠そうともせずに落ちていた空き缶を力任せに蹴った。

チッ

舌打ちをして、厭世主義ヨロシク目に入るもの全てに悪態を吐けるほどイラつく
さっき蹴った空き缶を今度は踏み潰した。
アルミ缶が潰れる音がまだ眠っている街に反響し、その音が思ったよりも不快で眉間にシワが寄ってしまう。
溜息を付きながらふと、右側にあるアパートメントを見上げると赤いレンガ張りの外壁にある非常階段近くの窓から少女がこちらを見ていた。
全て見られていたかもしれないと思うと気恥しくて少し睨んでしまったかもしれない。少女はすぐにカーテンの向こうに消えてしまったから、睨んだところまでは見てないだろうか...
また、溜息をもうひとつ付いて今日の食い扶持を探すためにその場を後にした。

それから、何となく気になりだした少女の家の前をあの日と同様に早朝は勿論、暇さえあれば日に数回と、毎日通るようになった。
初めて見かけた時は、早朝で薄暗かった為に、気が付かなかったが少女にはいつも顔や、服から出ている体のどこかしらに痣があり、心配になった俺はどうにか非常階段をよじ登って、顔を見るだけの関係だった少女と本当の意味でちゃんと出会った。
老夫婦と暮らしているらしいことを知ると同時にその痣が彼等から付けられたものだと知った
最初のうちは口数も少なく、笑うことすらしなった少女も、言葉を重ねる毎に小さく笑うようになって一緒にこの生活から抜け出して暮らしたいと思うようになるまでに時間はそうかからなかった。
俺の存在に気がついた老夫婦は箒で俺を叩いて追い払おうとしたが、それでも何度も何度も会いに行った

彼女の存在のお陰で初めて冷たい日々に明かりが差した。

守りたい。君を、これからの日々を。

ある晴れた日、やっとの思いで二人一緒に暮らせる家を見つけて、彼女を迎えに家の前まで足取り軽く、そして自分でも笑える程緩んだ顔をしてあの空き缶を蹴った道を歩く。
家の前にたどり着くとエントランスの前に木の箱が置いてあった。
なんだか嫌な予感がして、いつもなら放っておくであろうその箱の蓋をゆっくりと持ち上げた
じっとりと嫌な汗をかいて

本当、よく晴れていたんだ街路樹の隙間から差し込む木漏れ日が暖かくてさ、二人で笑いながら逃げ出すには最高の日。

箱の中には白猫が血にまみれ眠っていた。もう目は開けてくれないだろう、腹を裂かれていたから
白猫の横には、お腹にいたであろう子猫が同じように目を閉じていた。

俺は泣きながら、ニャーと鳴いた
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み