第1話 予兆
文字数 673文字
やがて全世界で生まれた子供の数が五桁を下回ったある年、計画は実行に移された。
人類は生物の食物連鎖の頂点まで上りつめていた。やがて彼らは増長し、地球上の生物はそのほとんどが人類の支配下に置かれた。
そしてある時、異変が起きた。まず最初は卵だった。口に入れると重篤なアレルギー症状を引き起こし、ひどいケースでは死に至ることもあった。年々その数は増え続け、その後牛乳、小麦など代表的なアレルゲンはもちろん肉や魚、野菜や果物に至るまで同様の現象は拡大し、ついに人々は綿や絹に触れることもできなくなる。
日光や自然のままの水すらも命を脅かすものとなった時、その問題はようやく全人類共通のものとして重く受け止められた。貧しい地域では人々が飢えはじめた。木々には果実が色づき、草原には羊や牛がのんびりと草を食んでいるのを横目に見ながら、人々は次々と死んでいった。
さらに人類には子供が生まれなくなり、母なる自然に背中を押されて絶滅への坂道を転がりはじめたのだった。その恐ろしい事実を目の当たりにした人類は全力で抵抗を始めたがそれも虚しく、出生率は年々下がる一方だった。
世界の国々では莫大な費用を投じ、治療法の確立と、今や人類を苛む脅威となった自然から逃れるためのシェルターの建設が急がれたが、多くの人々にその事実は知らされなかった。どんな強大な国であっても自国の国民のすべてをシェルターに収容し、その先何年かかるとも知れぬ収束の日まで彼らを養い続けることは不可能であったからだ。
人類の選別が行われるという事実を知る者はほんの一握りだった。