5 ✿ 此花、泣く

文字数 1,164文字

ジョンが発った日の午後二時。


咲良は土曜の部活動に参加せず、学校を出た。


向かった先は病院だ。

咲良! 来たよ~!!

理々、お見舞いに来てくれたの?

ありがとう。

部活は?

さぼったよ。

重要な任務があってさ。

これね、理々ちゃんが持ってきてくれたのよ
凪、賢武、泉の三人に【病気平癒】のお守りが配られていた。
氏神様のお守り。薬より効くって、うちのばーちゃんが言ってたからさ

おばあちゃんお墨付きなんだ。

ありがとう、おばあちゃんに、お礼を伝えてくれる?

うん、伝えておく。

早く良くなるといいね。

咲良と理々は、家族の身の回りの世話をしたり、おしゃべりをしながら過ごした。

ではではっ。私このへんでお暇します。

私も帰るわ。


が降ってきたけど、傘はある?

持っているよ
二人は共に病院を出て、駅へ向かった。
じゃぁ、また学校で。
理々、今日はありがとう。

理々に手を振り、駅のホームへ向かう。


間もなくやってきた電車に乗った。


ガタタン…ゴトトン…


咲良は電車に揺られるのが好きだ。

(もしこの電車に魔法がかかっていたら、次の駅は不思議の町だったりして)
幼い頃、そんな妄想をしていた。

(これが魔法の電車なら自分の行きたい場所へ連れて行ってくれるかな。

 自分が行きたい場所はどこだろう…)

次の駅の名がアナウンスされ、列車が停車する。


黒いコートを着たビジネスマンが電車へ乗り込むと…。

(今のジョン!? いや、違う。服装が似てる人か……)

ジョンは帰ってしまったのに、彼のいない街彼を探してしまうのだ。

(本当は気付いていたの、この気持ちに。彼へ、親愛以上の想いを抱いていることを )

その気持ちを認めたら、もっと苦しくなる。


咲良の住む町の名が呼ばれると、救われた心地がした。


この電車にはやはり魔法はかかっていなかった。

(あるべき日常へ戻るだけ

電車から下りる。


心なしか歩調は早まっていた。

(このつらい感情を早く、思い出に変えてしまいたい)

駅の玄関で、傘の留め紐を外した時、雨粒をまとった向かい風が中へ吹きこんだ。


玄関脇に植えられた桜が、風にあおられ、ハートの花びらを散らす。

花びらが泣いているみたい…

彼との別れに、切ない感情を抱いているからだ。


咲良にとって、ジョンはどんな存在だったろう。

ジョンのことが…
咲良は、言葉にしかけた想いを、そっと胸に秘めた。
好き、と告げることができずに、別れてしまった)

咲いた感情に花散らしの雨が降る。


それとも此花このはなは、咲良のかわりに泣いてくれているのだろうか。


咲良は傘で、涙の伝う頬をかくす。

(いつか教室で見たで、ジョンがを差してくれた…)
  夢の中のジョンは、泣いている咲良にこう言った。
 ” 泣かないで。僕はここにいますよ
夢でないといいと願った。けれど魔法はもう…)
魔法のさめた現実に、の下には咲良一人であった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色