最終話嫌われている陰キャ

文字数 2,803文字

私はあの頃からそうだったっけ。少し優しくされたり、その人のいいところを見せられただけで好きになっちゃう。私の悪いところ...

「だけど、告白は断ったから」

「ごめんね。奈古」

「いいよ大丈夫。それでも伝えたいことは変わらないから」

奈古からそんな言葉が聞こえてから突然、電話が切れた


─大学2号館屋上─

ガチャッドンッ

私はドアを開けて周りを確認した

そこにいたのは誰かと電話をしながらしゃがんでいた、釜崎くんだった

「うわっ、びびった、ごめん切るわ」

「釜崎くん。」

「...どうした?奈古」

「告白したんでしょ?釜崎くん」

「結果は、ダメだった。惨敗」

屋上の柵に腕を乗せながらそう言った

「ところで、その呼び方違和感あるな。」

「釜崎って。」

「後、ピアス...」

もういい、私の変化なんて─────今は

「釜崎くん。好きです」

「ごめん。俺は奈古と付き合うってことは考えられない、このまま友達でいたいって思ってる」

やたら落ち着いていたから私は察した

「やっぱり聞いてたんだね、告白のこと」

「うん、聞いてた。付き合ってってそう言われたよ。だけど、俺はあいにく妄想中毒でさ、諦められなくて。どこかでまだ柚乃と付き合ってる妄想が残ってた」

「だから•••奈古、ごめん」

気まずくなったのか釜崎くんは屋上から屋内へと続くドアを開けた

「でも、奈古」

入る前に少し止まって言った

「俺は、今の奈古の方がずっと可愛いと思う」

ドアが閉まった

「やっぱりダメか...」

私は静かにその場にしゃがんだ

「可愛い。か...」

「もう、この髪の色も黒に戻そうかな。そろそろ陰キャに戻ろうかな」

こんなこと何回も考えた、だが、戻せばまた、嫌われちゃうかも。中学校の時の記憶が蘇って結局戻せないままだった──────

「うっわ!くっさ!近寄んなよ!」
「クラス1番の地味陰キャ!ウイルスなんだよ。邪魔なんだよ」

先生に見つからないように放課後の空き教室で私は毎日いじめられていた

最初はただの陰口程度だったが、段々とそれがエスカレートしていった

特に私をやたらと嫌っていたのはクラスで1番の陽キャのギャルの吉原だった

金髪で、ネイルもつけててピアスも...校則なんてフル無視だ

なのに可愛いからって理由だけで学校の先生にも友達にも好かれている

それに比べて私はどうだ?クラスの隅っこで毎日妄想してるキモい嫌われものの陰キャ

そんな私を毎日放課後に呼び出して、そいつは毎日、私の心を見透かしたように言ってくる

「どうせキモいこと考えてんだろ?いっつも机に突っ伏せてさ授業中もいっつも真面目でつまんない。極めつけはこの臭いw」

もう嫌だ...学校なんて行きたくない。それでも、行かないと。行かないと親に迷惑がかかる...

でも、やっぱりもう耐えられないよ

「奈古ちゃんだよね?文化祭の準備一緒に頑張ろうね!」

文化祭でたまたま同じ係になった、吉田くん

私をウイルスと呼ばずに話しかけてくれたのは吉田くんが初めてだった

きっと、文化祭が終わればもう関われないんだろうな。

どうせ。どうせ。ネガティブなことばかりを考えてしまう

だが、そんな妄想とは裏腹に吉田くんは文化祭が終わっても私に話しかけてくれた

「おはよう!」

そんな明るい挨拶だけで私は笑顔になれた

ポジティブになれた

あのいじめにも耐えられるようになった

「好きです!付き合ってください!」

誰にも見つからないようにこっそりと学校の隅っこで私は告白した

「うん!俺も好きだよ!」

私は嫌われてなかった、やっと誰かにとっての必要な存在になれた

放課後の空き教室、告白してから1週間後の日、また呼ばれた

すぐに気付くことができた、いつもとなんだか様子が違かった

「あんたさ、クラスの吉田くんと付き合ってるよね。」

「え...」

「図星w」

「単刀直入で悪いんだけどさ、振ってよ。」

「は?」

初めて声が出た

「何反抗してんの?ウイルスがさ、調子のんなよ!」

「別に勝手にしたらいいよ?吉田だってキモいド陰キャだしwだけど、生意気だからさ、ウイルスの癖に」

「にしても、吉田は優しくてさwあいつ、お前の前で言ってないだけで、陰でお前みたいなウイルス、ド陰キャは大っ嫌い!って言ってたからw本当は私みたいな陽キャの方がみんな好きなんだよ?w」

「嘘だ...そんなの言わないよ。」

あんなに優しいのに、そんなこと言わないよね?

それから私は毎日、別れろ別れろと言われるようになった。

そして、卒業間近。

「ほらみてwこれ、クラスのグループチャットw毎日みんなであんたの悪口言ってんのはもうわかってると思うけど、ほら。吉田もずっとキモいキモいって言ってるよw」

「ねえ、なんで私に、そんなに執着するの?」

「これはね、吉田のためになるんだよ?あんたのためにもね。」

まるで洗脳のようだった、今日もこの前と同じ答えを...

「なんでかそろそろ教えてあげよっか。お前はとにかく消えてくれればいい、遠い高校に行ってくれればいいから。それに、お前みたいなウイルスと付き合ってると高校では吉田がいじめられるかもしれないんだよ?w」

「普通に考えればわかるよね?w」

今まで言われたことは全て嘘だと断定できた。でも、これは断定できない、今からでも起きる可能性のあるものだから。

私が、守んないと───────

「別れよ。もう、無理だから」

「えっ...なんで?なんでだよ!」

私はその疑問に答えることもせず、もはや、会話もすることもないまま卒業を迎えた

結局、高校は誰にも見つからないように遠い女子高に行くことにした

女子高なら男子もいないし、もうトラブルを招くこともないと思った

女子高初日、私は金髪に染めた髪をクシで整えた、さらに、ピアスもつけて、ネイルもして。

もう、いじめられたくないから。また、吉田くんに会えた時に迷惑をかけないように

はあ...深くため息をついた

しゃがんでたつもりだった足はもう体育座りに変わっていた。

「そういえば、吉田くんにまだ何があったかとか相談してなかったな。そのまま告白しちゃった。」

私は立ち上がって屋上から屋内へ続くドアを開けた

─1週間後の大学の授業─

俺は横の席に座っていた奈古に言った

「なあ奈古、吉田に聞いたぞ?心読めるって、あれ嘘だったんだろ!」

「え、ああそうだよ!」

「もう、見透かしたこと言うんじゃねえよーw」

「ごめんね、釜崎くん」

「てか、今日まだ柚乃も吉田も来てないな」

「そうだね」

「うわ!待って待って!俺、ルーズリーフ忘れたわ!」

俺は持ってきていたバックの中を何回も探すが、やはり見つからなかった

「奈古!ルーズリーフ貸してくんね?」

奈古はルーズリーフを切り取って俺に渡してくれた

「ありがとな!」

「うん!全然!大丈夫!」



私はルーズリーフに今日の日付を書き込んだ

今日も頑張ろ。誰かにとっての必要な存在になれるように。

誰か、私を好きって思ってくれてる人がいたらいいな、いや、いるよねきっと。

はあ、今日も妄想が止まらない─────
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