九月29日

文字数 433文字

日差しでキラキラした緑の丘を自転車に乗ろうとしてる君のところまで走はった。空が青くて、足下の絡んだ草が温かかった。黄色のカーディガンが溶けそうで、白のプリーツスカートが飛んでゆきそうだった。
走り出そうとしたあなたは私の声に気づいて、足を止めた。息が弾んで、私はあなたの前で膝に手をついた。あなたは目に光を溜めて私を見ていた。
「あの、一緒に居た時、」
随分と前髪が伸びていた
「ありがとう」
「あと、」
「あの時はごめんなさい」
目は見れなかった。
足元を見ながら思ったのは、もう大人になったということだった。
「こちらこそ」
声が耳に染み込んだ。懐かしかった。
それから私たちは自転車を投げ出して、原っぱに寝っ転がった。お互い少し困ったように最近の話をした。日々の生活のこと、少し先のこと、友人や新しい恋人のこと。普通に笑い合えて、鼻先に、髪に、脚に光を浴びて確かに幸せだった。お互いに部門別の最優秀賞を与え合って、わたしは、内心でずっと、あなたのことをどう忘れるかずっと考えていた。

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