第1話

文字数 923文字

今から少しだけ先の未来。
異世界への転生が現実の物となった。
T大学の哲学科と物理科が共同研究した結果を、S社が製品化した。
人々が転生に殺到した結果、「あちら側」からクレームが来た。
むやみやたらに、人を送られても困るというのだ。
政府は対応策として、転生を法律化、管理のための異世界転生相談所を国内各地に設立した。ハローワークの異世界転生版のような存在だ。
この相談所は“ハロリン”と人々から呼ばれた。ハローリインカーネーションの略称だ。

**********

僕はK県S市のハロリンに勤務している。
窓口に来る顧客の要望や所持スキルなどを聞き、それにマッチした異世界を紹介するのが仕事だ。
「031の番号札をお持ちの方、こちらにお越しください!」
カウンターの前で自分の順番を待つ人々に声をかけた。
太り気味の三十代後半の男性がやって来た。
「お待たせ致しました。どんな異世界がご希望でしょうか?」
「敵やドラゴンが無茶弱くて、幼女がたくさんいる所」
僕は一瞬怯んだが、笑顔は崩さなかった。
「弊所のホームページをご覧になった事ございますでしょうか?」
「面倒だから見てない」
「え~とですね、現在、選択可能な異世界は五百くらいになります。しかし、その中でも人気の異世界がありまして、そういった所は枠が少なく…」
「だから、何?分かりにくいよ」
「お客様は何かスキルをお持ちでしょうか?」
「ない」
「そうであればですね、弊所でスキル養成講座を用意しております。剣の使い方コースや魔法初心者コース、サバイバル基本コースなどです。抽選制ですが、申し込みをして頂ければ…」
「めんどいなあ。俺はさあ、転生したら勇者になって大成出来んの。そんなの無くても」
笑顔が少しだけ引き攣った。

**********

「お疲れ様」
「あ、課長」
「横から見てたよ。ああいう輩がいるから異世界側が来るな!って言うんだよなあ」
「はは…」
「君、今日、最後の日だろ?」
「はい、色々お世話になりました」
「いや~、残念だよ!君みたいな人材が抜けるのは!真面目だし、顧客とのコミュニケーション能力高いし、真摯に相談に乗るしね」
「ありがとうございます」
「異世界でも頑張ってね」
「はい!」
 そう、僕自身も異世界転生を決意したのだ。
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