第5話 奇妙な絵画

文字数 7,499文字

 クレアは、そのだ、が見せた板の絵に動揺しながらも、水を飲み干した。
飲み終わった空の入れ物は布袋に大切にしまい、僕や、そのだ、に笑顔を見せつつも、
心ここにあらずの様子が見て取れた。

 そのだ、はクレアの様子に違和感を感じたらしい。それは僕にも伝わった。

(クレア、どうしたのかな。頭をかいていたのは別にしても、何で絵に驚くんだろう)

 クレアと僕は、そのだ、に誘われるまま、道を進み始めた。板の絵を見て以来、クレアは
これからの行動をじっくりと考える余裕はなくなったらしい。そのだ、に言われるがまま、だ。
 それで、僕たちの最初の目的地はどうやら『しぶやのひゃっかてん』になった。
 
 歩き始める前に、そのだ、は自分の布袋からあの白い布を一枚出し、それをクレアに渡した。
彼女に、その白い布を顔につけるよう勧めた。
 クレアは乗り気ではないようだったけれど、僕の強い助言に従い、それで顔を覆った。

(顔を半分隠すと感じは変わるなぁ。……異国からの訪問者と気づかれないかも)

 白い布は疫病のためか、僕にはまだ得心いかない。もっと調べる必要、ありそうだ。

 途中、そのだ、はあの独り言する板を幾度となく見て、何やら手でなぞったりしていた。
 
 クレアと僕、そのだ、は、やがて『しぶやのひゃっかてん』に着いた。そこはすごく大きな建物だった。
この建物に着く途中にも大きな建物ばかりが目についた。ここは豊かな国なのかもしれない。
 さらに、そのだ、は『えき』というものを僕たちに教えた。『えき』は、ヒトが多く集まるそうだ。
そこでは、大きな箱にたくさんのヒトが入り、すごい速さで動く乗り物が来るという。
 僕はすぐにでも見たい気持ちだったけれど、いまは我慢した。
 

 『しぶやのひゃっかてん』には、大勢のヒトが店で売り物が始まるのを待っていた。
 僕たちは、その入口らしいところで待った。
 それから、取り留めの無い話で時を過ごしたのち『ひゃっかてん』にクレアと僕は入ることになった。

 その後のことを、ここで簡単に説明するのは本当に難しい。

 まず、動く階段、だ。これを前にしてクレアは完全に固まってしまい、そのだ、の助けで、ようやく
これに乗ることができたものの、足が震え、彼女は危うく、動く階段から下方向に落ちそうになった。
 そのとき、僕もクレアの右肩から思わず飛び上がった。僕はすぐに戻ったものの、鼓動が収まらない。
そのだ、が半身に後ろを向き、クレアの手を掴んでいなければ、大変なことになっていただろう。

 動く階段で一層から上に行き、そこで僕は幼子と再会した。
僕は、このとき少しだけ、そのだ、の独り言を理解した。
 つまり、こうだ。
あの独り言をする板は、板へ話してるように見えても、実は話したい誰かと話してるわけだ。
そのだ、は幼子らしい相手に何か言ってるように聞こえた。そしていま、目の前に幼子はいる。
そのだ、や僕とクレアがここにいるのを知らないはずなのに、だ。謎は……解けてきた。
 
 ところで、僕は幼子の姿格好を見て、あっと思った。
幼子は腰辺りの短い服。太ももから下に両足を出していたが、その足は黒いモノで覆い隠されていた。

(この子は売春婦ではないはずだから、これはこういう服の着方なんだな)
 僕は少しずつ、この国の女の子の服を理解しだしていた。

 動く階段で上がったところは、服を売る店があった。店の中は見たことのない飾りで覆われていた。
売り場いっぱいの棒や台に、あるモノは吊るされ、あるモノは並べられ、その量は驚くほどの数だった。
 そこでクレアは、そのだ、や幼子の助けを借り、服や下着を数枚選んだ。代金はそのだ、が彼の服から
取り出した、小さな硬い紙に見えるモノで支払った。

(この国には金貨や銀貨でないモノ、いろいろとあるなぁ)
 僕はこの最果ての地で、人々がどのようにモノを売り買いするのか、強い関心をもった。
 
 クレアは自分の布袋から金貨を一枚取り出し、これをそのだ、に差し出した。そのだ、は受け取らないと
意思表示したが、最後には大事そうに手に取り、それを服にしまった。
 それから、その場から幼子だけ離れ、別のところへと買い物に行ったらしかった。
幼子はしばらくするとクレアや、そのだ、の元に帰ってきて、手に持っていたモノを彼に渡した。

 
 クレアと僕、そのだ、幼子は『しぶやのひゃっかてん』を出て、『こうえん』と言う場所へ向かった。
それは歩いてすぐのところで、開かれた土地に座れる椅子があり、誰でも自由に使っていた。
 
 置かれていた椅子にクレアと幼子は座り、その前で、そのだ、はクレアに櫛らしいモノを見せた。
「これはコーム。梳き櫛です。これでご自分の髪の毛を根元から毛先に向け、とかしてください」

 クレアはそのだ、の言う意味を理解したらしく、修道衣の被りモノを取り、長い彼女の毛に櫛を当てた。

(クレア、髪の毛、長いなぁ。肩より下まである)

 ここで、幼子は急に次から次へと、そのだ、に問いかけを始めた。

「叔父さん。私、気になること訊くよ」
 幼子はクレアの右隣に座っていたので、クレアの右肩にとまる僕は、彼女の表情がよく見えた。
 いくぶん、幼子の目はきつい感じだ。いまは何か、面白くない状況のようだ。

「いいよ。何だい?」
「一つ目。何でシスターへの買い物したわけ? 二つ目。シスターは青山墓地で倒れてた人だよね?
昨日倒れてて、もう元気なわけ? 三つ目。こんなとこで、なぜ、髪とかせ、とか言ってんの?
四つ目。シスター、外国人だよね。会話できてんの? 五つ目。本物のシスターだったら、修道院とかに
戻ってるはずじゃん。叔父さんといるのは、めっちゃ変。六つ目。今日、何で私を呼び出してるわけ?」

(よくしゃべる子だなぁ)

 そのだ、は幼子を見て笑いながら
「優乃の質問に、いますべて答えるのはムリかな。……とりあえず、髪の毛の話」

 そのだ、はクレアを見て、次に幼子に向き直り
「シスターを、うん。そうだね……いまホテルとか、スパとか、ネカフェに連れて行けない。
それは、シスター、たぶんパニクると思うから。……まあ、僕のマンションで洗髪かな」
「何言ってんの。叔父さん。シスターに洗髪ぅ? ……めっちゃ、変じゃん。何それ?」
「シスターには洗髪して、体もしっかり洗ってもらったほうがいいから」
「意味不明。……お母さんが聞いたら……」
「姉さんには秘密だよ。別に……それだけだから」
「叔父さんのこと……お母さんも呆れるね。100パ」

 僕には二人が話したことの半分だけ理解できた。残りは、仲間内だけで通じる言葉だと感じた。

 クレアは、そのだ、が渡した櫛らしいモノで、髪をとかしながら、ときどき指で髪の毛の先を掴み、
それを見た。クレアは髪を触った後で、何かを払うしぐさもした。何か、地面に捨ててるようだ。
 そのだ、はクレアが一通り髪をとかした後、櫛らしいモノを受け取り、これを透き通った袋に入れ、
袋の開いた口を強く縛った。

 クレア、幼子、そして僕は、そのだ、の家に行くことになった。
 僕はクレアが何の疑問も持たずに、そのだ、の招きに応じるのは不思議だった。
 でもたぶん、あの板の絵と関係があるのだろう。それに、髪の毛の話と。

 少し後でわかったことだったが、そのだ、の家は、クレアが倒れてた墓地のはずれ、北側すぐにあった。
彼の家は、五層の建物だった。
 僕は、クレアが病とケガの者たちを助ける建物へ運ばれたとき、経験済みのことがあった。
それは、ヒトが入った後で上と下に動く箱、のことだ。
 箱の戸が開き、閉じ、次に開いたとき、目の前の様子が変わったことに、僕は強い怖さを感じた。
そのとき、自分が迷宮に入り込んだ気がしたからだ。

 僕の予想通り、そのだ、の家にもあったこの箱へ、クレアはすぐに入れなかった。
まるで、フランクで知っている拷問部屋、狭い部屋に閉じ込められる感覚だったのだろう。
 そのだ、幼子も入り、ようやく入ることはできたが、体が上に浮く感じの後で、戸は開き、目の前の
光景も変わったとき、クレアは声を出せず、簡単には次の一歩を踏み出せなかった。
 
 そこは五層目だった。そのだ、の家は、最も高いところにある部屋だった。
 後でクレアは、あの上と下に動く箱について自分なりの考えを僕に言った。
『あの箱は大勢の奴隷が動かしてるのかしら』

 まったく、この最果ての地は、頭を悩まし続けさせる材料に事欠かない。

 五層の廊下に並んだ、動く箱から二つ目の戸を開けると、そこが、そのだ、の家だった。
 彼の家に入ったところで、すぐ、そのだ、はクレアに靴を脱ぐように言った。
 そのだ、の家は靴のまま入れないところだった。靴を脱ぎ、そのだ、が出した『すりっぱ』と言う
モノをクレアは履いた。
 そのだ、は顔につけた白い布を外すよう、クレアに言い、外した布を、戸のそば、木の台上にのせて
あった透き通った小さな袋に自分や幼子の布と共に入れ、開いた口をやはり縛った。
 その直後、そのだ、は幼子に矢継ぎ早に説明した。

「優乃。シスターとお風呂に入って。二人で浴室に入ったら、すぐ優乃は服を脱いで、袋へ脱いだ服を全部
入れ、口を縛って。シスターにも同じように服を脱いでもらって、脱いだ後の服は、すぐに僕が渡す袋へ
入れ、口を強く縛って。それを浴室戸の隙間から僕に手渡して。後で別に洗うから。洗髪を優乃が先にして
シスターにやり方見せて。その後で、ゴシゴシとシスターの髪の毛を優乃が助けて、三度洗いしてあげて。
体は、優乃がシスターの背中とかも、よく洗ってあげて。最後にお風呂から出たら、さっき買った下着と
ルームウエアをシスターに着てもらって。……それと、今日は浴槽には入っちゃダメだよ、絶対に。
優乃もシスターも。シャワーだけ。それと。中で、うがいも。シスターにも言って。……いいね?」

 そのだ、が細かく指示したことに幼子は、あれこれと文句言ったり、反論したりしたが、最後は従い、
二人で体を洗う場所に入って行った。
 
 僕は、そのだ、と外で待つことになったので、髪の毛や体をどうやってクレアと幼子が洗ったのか、
詳しいことは何もわからない。
 ただ、すべて終わってクレアが出てきたときは、汚れをすべて洗い流したようで、クレアの顔や体全てに
温かな表情がみなぎっていた。
 それに『るーむうえあ』と言うモノは、クレアの体にピタリと張り付いた服のように見えた。

(初めて見る変わった服だなぁ。でもクレアは気持ちよさそう)

 そのだ、は幼子に
「お昼にピザを注文したから。もうすぐ配達されると思うよ」

(『ぴざ』……それは何だろう?)

 最果ての地は、新しい言葉の連続で、それを記憶の引き出しに追加するのは大変だ。

 クレアと幼子は、そのだ、の家の『りびんぐ』という部屋に置かれた『こたつ』と言うモノの前に
足を折るように曲げて座り、そのだ、が出した水を飲みながら『ぴざ』を待った。
 僕はクレアの右肩が定位置。もうクレアは気にしてない様子だ。僕は体が小さいフクロウだし。

 そのだ、は奥の別の部屋に入り、そこから何やら木の箱を手にしてきた。

「これです。スマホ画面でシスターが見たモノは」

 そう言って、左右に開く木の箱の扉を開け、クレアに見せた。
 その瞬間、クレアは思わず身を乗り出して
「なぜ! ……何でここにあるの!」

 それは、鎖で小さな本を手に持つ聖母像だった。
 僕は目を凝らして見たが、手に持つ、でなく、手につながっている、が正解だ。つまり説明すれば、
聖母の両手、掌に穴があり、そこに鎖は通っている。鎖の一部は、本の背の板金にもついている。
 本は小さい。ヒトの掌に収まるほど。羊皮紙らしい紙でまとめられた本だ。

「どうぞ。本を手に取り、ご覧になってください。中の文字はラテン語です」

 そのだ、の言葉に反応したクレアは、羊皮紙本を手に取り、紙を繰った。
 食い入るように、紙に書かれた文字を読むクレア。
 僕は、あることが頭に浮かんだ。

(これは……領主館で聞いた『叡智の書』かもしれない)

 クレアの真剣さに、そのだ、と幼子は顔を見合わせ、少し笑みをこぼし、静寂な時を持った。
 突然、そのだ、の部屋に、何かの音が鳴り響いた。
「ピザ。来たらしいね」

 そのだ、は家の戸に行き、その後、大きく平べったい箱を手に、部屋に戻ってきた。
その中に『ぴざ』が入っていた。
 僕が知る白パンの上に、野菜や魚や刻んだ肉が混じって、それを焼いたような食べ物だ。
 クレアは、そのだ、や幼子と、その『ぴざ』を食べた。

(僕は見てるだけが多いなぁ……後で外に出て、水でも飲みに行こう)

 クレアは『ぴざ』を食べながら、そのだ、と幼子の会話に耳を傾けていた。
 『ぴざ』を食べ終わったクレアは、自分の布袋から金貨を三枚取り、掌に載せ、両手で差し出し
「今日はいろいろと、ありがとう。助けてもらったお礼も遅くなり、ごめんなさい。これは
少ないけれど、私の気持ちです」

 そのだ、は服の時同様に、受け取りを躊躇したが、少し考え、最後は金貨を手にした後、クレアに
「ご丁寧にありがとうございます。……そうですね、失礼な言い方かもしれませんが、この金貨は
僕が買い取ります。明日にでも、この国の貨幣で、あなたにお支払いします」

 クレアは、そのだ、の言葉を理解したのか、すごく嬉しそうな顔で答えた。

 『ぴざ』のときは過ぎ、そのだ、は幼子に、クレアの髪の毛や体を洗う理由を話し出した。

「今日は、優乃に助けてもらって良かったよ」
「そうだよ。完璧、意味不明だし」
「シスターね……たぶん、虱だと思ったから」
「シラミぃ!?
「うん。それと蚤」
「ノミぃ!?
「シスター、ほとんど体を洗ってない人、そう感じたから。髪の毛かくの見て」
「何それ? 体洗ってない、って。めっちゃ不潔じゃん」
「まあ、中世の人は君主や領主以外、お風呂なんて入らないから」
「中世の人、って何?」
「シスターのことだよ」
「シスター、中世の人、って? 叔父さん、何言ってんの」
「本当だよ」
「叔父さん、二次元ガチ勢、超えちゃって……もうヤバくない?」

 そのだ、は幼子の言葉に笑ってかわす、その繰り返しだ。
 僕がトロワの市で見た見世物に、集まった人たちを笑わす芝居もあったけど、それと似たような
おかしさがあった。二人の話は嚙み合わない。それでも最後は、何となく双方が引き際を知る。

(いい感じではあるなぁ。この二人)

 クレアは目の前の聖母像に釘付けだ。聖母像の前に顔を出したり、羊皮紙本を何度も手に取ったりした。
 
 時も少し過ぎたとき、あの『ぴざ』を、そのだ、が取りに行く前に鳴った音が再びした。
 そのだ、は部屋の壁にあった飾り物を見上げ、何か急に思い出したように

「あ、そうだ。八木くんが来るんだった。取り込んでて忘れてたよ」

 幼子は、そのだ、に
「八木くんって、大学院生の?」
「そうだよ。パリの蚤の市で買った絵を持って来る、そう言ってた」

 そのだ、は立ち上がって、部屋の壁に突き出た箱を触り、その箱に向かって声を出した。
「あ、八木くん。どうぞ入って。エレベータも動かせるよ」

 それから、そのだ、は部屋の入口、戸に向かった。やがて、痩せた背の高い男を連れ、部屋に戻った。

(誰だ? この男は)

 手に抱えた大きな包み。横はクレアの腕、指先から肩まで、縦はクレアの肘から指先までの長さ。
 『やぎくん』が、これを開けると、中から一枚の絵が姿を現した。
 
 そのだ、幼子、クレア、そして僕も、その絵を見た。
 聖母と騎士が並んだ絵のようだ。騎士は赤、青、白、黒で色分けされていた。
 この絵は、左に、聖母一人、右に、騎士六人、が並んだ不思議な絵だ。
それが上から順に、七列も描かれていた。合計で聖母は七人。騎士は四十二人いるわけだ。
 そして、聖母の左腕には鎖で小さな本もぶら下がっている。本はクレアが熱心に読み続ける、あの
羊皮紙本にそっくりだ。

 『やぎくん』は、クレアを見て、軽く頭を下げ、そのだ、に
「先生。この外国人の方、どなたですか?」
「まあ、訳ありなんだよ」
「訳あり、ですか」
 そこで、幼子が口を出す。
「この人、シスターだよ」
『やぎくん』は不思議そうにクレアを見て
「シスターにしては、ラフな格好ですよね」
 幼子は得意げな顔をして
「そうだよ。私がシスターの髪や体を洗って、いまこの姿」

『やぎくん』は、何とも言えない顔で幼子とクレアを見たが、そのだ、に
「先生。そういえば、エントランスに変な男がうろついてましたよ」
 そのだ、は『やぎくん』の言葉に
「背の低い、髪の毛は全体に薄く、黒のショルダーバッグを肩から下げてる若い男?」
「そうです。先生、知ってるんですか?」
「たぶん、サツ担、だと思う。昨晩も来たよ」
「『さつたん』って、何です?」
「警察担当記者。サツ回り、とも言うね」
「それが何の用なんですか?」
「まあ、いろいろと……」
 そのだ、は、クレアを横目で見た。

『やぎくん』が、聖母と騎士が描かれた絵の説明を始めると、また、あの音は鳴った。
 そのだ、は部屋の壁についている箱に向かい、
「はい。どなた……あ! えぇ!?

クレア、幼子、『やぎくん』は、突然大声を出した、そのだ、を見た。
そのだ、は、壁から離れ、なぜかクレアをジッと見た。それから
「ちょっと、下に行ってくる」
と言い、急いで部屋から出て行った。

 しばらくして、そのだ、は小さな紙片を手に、部屋に戻ってきた。
それを『やぎくん』や幼子の前で広げ、クレアにも見せ
「これが郵便ポストに入ってたよ」
 そう言って、何やら文字らしいモノが書かれた小さな紙を見せた。
どうやら、この国で使われる文字や数字で、何か書かれたモノらしい。

 それを、のぞき込んで見た『やぎくん』は
「なんか稚拙な字ですね。……みなとく……もとあざぶ……一ちょうめ……。あ、ああ。
 先生、これって、あの廃病院じゃないですか」
「そう思う?」
「有名ですよね、ここ」

 そのだ、は、ふと『やぎくん』に
「八木くん。……この部屋に誰がいる?」
「誰って……先生と優乃ちゃんと、この外国人の方ですよね? あと、僕もいますけど」
「他には?」
「他に、って。え? 誰かいるんですか。……やだなぁ。先生、幽霊とか、じゃないですよね?」

(この男は僕が見えないらしい)

 そのだ、と幼子はまず『やぎくん』を、それから僕も見て、少し笑っている。
 それから、そのだ、は『やぎくん』や幼子、クレアに、紙片の謎を解くために出かける、と言った。

 投げ込まれた紙片の答えを探るため、僕たちは『はいびょういん』へ行くことになった。
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