耳なし芳一
文字数 727文字
新宿で働いていた頃、会社の先輩にゴールデン街へ連れて行かれたことがある。
昭和らしい雰囲気が色濃く残る……なんてイメージでいたけれど、最近は若いオーナーが面白い店をやっていたりもして、ずいぶんと様変わりしているのだとか。
何軒かハシゴして、最後に案内された店がすごかった。
マンガに出てきそうなゴッツイ筋肉質のオネェがママをやっている店。
話の十一割が下ネタなんだけれど、どれもすごく笑える話ばっかり。あと間の取り方が絶妙で、そこらの芸人なんかよりずっと上手。でも少しボディタッチが多いような気がしたのが玉にキズ。あ、少し伝染ったかな。
そんな中、ママが突然はじめた昔話。
「アタシ、耳なし芳一経験したことあるのヨ」
「どういうことっすか?」
「若い頃アマレスやってたのヨ、アタシ。ある夏のことネ、合宿で広島の方に行ったのヨ。その合宿所ネ、昔は小学校だったところなんだけど見るからにボロい木造でネ。初めて見たときから胸がこうざわつくっていうか……」
「じゃあ、出たんですか?」
「んもう。せっかちね。早くて喜ばれるのは嫌われている時だけヨ」
「すんません」
「でネ、夕飯の買い出しの途中にそこ、落ち武者の霊が出るんだなんて話聞いちゃって!」
「えぇぇ」
「……夜中にネ……ふと、目が覚めたのヨ。そしたら周囲が怪しい雰囲気でネ……アタシ、怖くなっちゃって。だからみんなに筆でカいてもらったのヨ。おかげで命は助かったんだけどサ、アタシ……大事なモノを持ってイかされちゃって!」
ママのガッシリとした手が僕の肩にぽんと乗る……あれ、今度は触れたままつかんで離さない。トイレに行っていたはずの先輩、いつの間にか女装しているし。おまけにいつの間にか周囲にたくさんの……。
<終>
昭和らしい雰囲気が色濃く残る……なんてイメージでいたけれど、最近は若いオーナーが面白い店をやっていたりもして、ずいぶんと様変わりしているのだとか。
何軒かハシゴして、最後に案内された店がすごかった。
マンガに出てきそうなゴッツイ筋肉質のオネェがママをやっている店。
話の十一割が下ネタなんだけれど、どれもすごく笑える話ばっかり。あと間の取り方が絶妙で、そこらの芸人なんかよりずっと上手。でも少しボディタッチが多いような気がしたのが玉にキズ。あ、少し伝染ったかな。
そんな中、ママが突然はじめた昔話。
「アタシ、耳なし芳一経験したことあるのヨ」
「どういうことっすか?」
「若い頃アマレスやってたのヨ、アタシ。ある夏のことネ、合宿で広島の方に行ったのヨ。その合宿所ネ、昔は小学校だったところなんだけど見るからにボロい木造でネ。初めて見たときから胸がこうざわつくっていうか……」
「じゃあ、出たんですか?」
「んもう。せっかちね。早くて喜ばれるのは嫌われている時だけヨ」
「すんません」
「でネ、夕飯の買い出しの途中にそこ、落ち武者の霊が出るんだなんて話聞いちゃって!」
「えぇぇ」
「……夜中にネ……ふと、目が覚めたのヨ。そしたら周囲が怪しい雰囲気でネ……アタシ、怖くなっちゃって。だからみんなに筆でカいてもらったのヨ。おかげで命は助かったんだけどサ、アタシ……大事なモノを持ってイかされちゃって!」
ママのガッシリとした手が僕の肩にぽんと乗る……あれ、今度は触れたままつかんで離さない。トイレに行っていたはずの先輩、いつの間にか女装しているし。おまけにいつの間にか周囲にたくさんの……。
<終>