隣の王子君

文字数 688文字

 貧しいことは、誰よりもわかってる。
 私の父は電設会社の平社員で、社員寮のボロアパートに、両親と姉、妹の5人で暮らしている。
 好きなおもちゃも、ゲームも諦めた。服だってろくに買えない。勉強道具だってお下がり。
 とりわけ嫌だったのは、隣の家のこと。
 うちのボロアパートのボロさを際立たせるみたいに、大きくて新しい家。しかも住んでるのはうちと同じ5人。こんな大きな家にたった五人なんて、土地の無駄遣いなんじゃない? 全く同じ面積のうちのアパートは、うちみたいな家族が6世帯(1階×2階)入る。単純計算で30人住んでるんだぞ。お前らが5人で住んでいる土地に。
 さらに嫌なのは、その家の一人息子。私と同い年なのだ。そりゃ、子供の頃は確かにいろいろ遊んだ。うちのベランダとそいつの部屋のバルコニー(二階)が向かい合ってるから、ジャンプして行き来して怒られたりもした。だけど小学生くらいから、あいつの言動がいちいち癪に触って、あたしのほうから絶交した。向こうはいまだにあたしを見つけると寄ってくるが、それも撒いていると、最近ではそれもなくなった。泣きそうな目でこちらを見ながら。
 なんであんたがショック受けてんの? ――そうだよ。いつだって辛いのはこっちだよ。
 貧乏でさえなければ、あんたの隣に並んでたよ。声変わりも済んで、かっこよくなりやがってなんて揶揄いながら、同じ学校に通学して、バレンタインにチョコ作ったり、彼女になった人にちょっぴり嫉妬したり…。
「幼馴染み」の「お隣さん」って、普通そうやろ? でも、うちらはそうならなかった。
 全てはあたしが貧乏で、あんたが金持ちだったから。
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