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文字数 1,056文字

 何度も何度も何度も練習試合をやらされた。
 全て僕の勝ちだった。
 そして、そのほとんどで、試合時間の半分も過ぎない内の一本勝ちだった。
 けれど……教官や研究者達は、ずっと僕の頭に装着された簡易式の脳波計のモニタを見ていた。
 審判役の教官以外は……誰も、練習試合の結果や内容には関心を持っていない。
「あくまでパターンの一致です。状況証拠以上のものではない」
「だが、一致はしているのだろう?」
「だから、私は『パターンの一致』と言っている。喩えるなら、数字でも何でも無いものが数字の『1』に見える事も有るようなものだ」
「そっちの見解は?」
「微弱すぎるか……受動(パッシブ)系だ。判断が付かん」
「何の為に高い給料でお前らを雇ってるんだ? 科学者も『魔法使い』も役立たずか? 大体、何で、異能力が無い者同士の遺伝子を組合せたのに、異能力らしきものが発現した?」
「発現したと決った訳ではない。大体、彼等は第一世代だ。言うなれば最初の試作品だ。仮に彼が異能力持ちだとしても、後天的な要因か、いわゆる『遺伝子特徴(ジーン・パターン)』……複数の遺伝子が揃っていて、かつ、ある特定の条件を満した場合に発現するタイプのものかも知れん」
「後天的って、どういう事だ? こいつ以外にも不良品が出るって事か? あと、そのジーン・パターンとやらを、どうして見落した?」
「だから、彼等は試作品だと言ってるだろ。これから問題点を洗い出し……」
「あ……あの……」
 僕の対戦相手の1人が手を挙げた。
「何だ? 大人の話に口を出すな」
「すいません……ですが……そちらの研究者の方が……何か変な事を言われたので……」
「私か?」
「は……はい」
「ああ、君達が試作品という話か……」
 正確に言おう。
 この日、地獄に堕とされたのは、僕だけでは無かった。
 箝口令は敷かれたが、この研究者の回答は一両日中に僕の「同期」達の間に広まったらしい。
「その通りだ。君達は、まだ、実用段階には無い。君達の中で、マモトに『出荷』出来るのは1割居ればマシな方だろう。まぁ、不良品率が5割を切るのは……早くて三〇年後と言った所だな」
「聞いてないぞ、どうなってる? 折角、オリンピック選手を我が組織が生み出した『ピュア・ブラッド・ヒューマン』に置き換えるチャンスなのに……不良品率9割以上だと? 人数が全然足りんぞ」
「おや、すばらしい、君の知性を過小評価していた事を謝罪しよう。君が1桁の引き算を暗算で行なえる可能性に気付いていなかったのは、私の不覚としか言い様が無い」
「ふざけている場合か? この役立たずどもがッ‼」
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