かの日をもって世界の歴史が揺り動かん

文字数 961文字

 時に中世。欧州は十字軍を結成し、第一回派遣でエルサレム王国を建国。その後、イスラム教世界の大英雄サラディンと相まみえる定めとなる病王が産まれる。
 時の王が十六歳から十七歳に迎えし時、世界の歴史が大きくうねりをあげようとしていた。

「ボードゥアン四世陛下、この度は真におめでたきことで」

 家臣らが細やかながらも決して繁栄しているとは言えない王国で祝賀を持とうとしたことから王の気質がうかがわれる。善なる王であるという証明だ。
 王も家臣らの気持ちを汲み取り、仮面の下で細やかな喜びを噛みしめていた。

「王は! 国王陛下は居られるか?」

 細やかな祝日においていきなり扉を開けて闖入者は王の御前で慌ただしく平伏した。

「申すが善い」
「ハッ! かのアイユーブ朝の大英雄サラディンが万の兵を率いて進軍したとのこと」

 家臣らに動揺が走る。

「遂に来たか……」

 王の言葉に家臣らも動揺を隠せない。

 遂に来たのか。王と同じ意味だったのか。そういった声も漏れた。この時代に知らぬ者などいない。大英雄サラディンが遂にエルサレム王国に本格的に侵攻するという意味を知らない者などいない。熱狂的な信徒を除いて理知的な信徒達はこの暗闇に抗する手段を持たない。

 その意味するところ、即ちエルサレム王国の滅亡である。

「騎士達を集めよ。急ぎ、出立する」

 結果は誰もが予想しえるもの。
 本来なら敗北の決まった戦争である。

 しかし、誰が予想しえたであろうか。この時、歴史は既に動いていたのである。
 実にかの王が十六歳を終えて齢十七の時に移ろうとせらん時、歴史は、世界の歴史は大きく変わろうとしていた。

 後世の歴史家らを終始悩ませた出来事。モンジザール。何故を以てあの戦はかような結果に結びついたのか? 
 その答えを知る者は誰一人としていない。ただ独り天上におわす神を除いては。

 知略と争いに明け暮れたこの時代に熾きた出来事。後にかの王達にある想いを抱かせる戦いにもなる。

 遂に始まったのだ。ボードゥアン王とサラディン王の壮大にして叶うかまことではなかった神の夢なる理想郷の為の戦いが。

 多くの命が失われるであろう。しかし、その果てに王達は見出せるのか? 

 誰も見ぬ果てなき神の夢を。

           「モンジザール 偉大なる病王と無敗の英雄王の邂逅 完全版」に続く
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