第40話  第五章ラスト

文字数 3,320文字


 挑発するコックローチを眺めていた一色が、恒河沙に言った。
「出番よ、恒河沙『ご都合的な戦闘空間』発生」
「はい、ご都合的な戦闘空間発生!」
 恒河沙が、体にあるレバーを下げると、空が割れて牧歌的な別空間が割れた空の向こう側に現れた。
 その風景の中にこちらに背中を向けて、丸太を担いだ人物の後ろ姿を見た桜菓が呟く。
「コチの世界だ」
 小バカにしたように鼻で笑うコックローチ。
「『ご都合的な戦闘空間』か……怪人の力が1・5倍になるんだろう。誰がそんな不利な空間に入るか!」
 頭の上でメッキを振り回すコックローチ。
「何をしてもムダだ、オレは入らないからな。河骨を爆発させて、辺り一帯を炎の海に変えてやる! ははははっ!」
 その時、今まで沈黙を続けていた河骨が、前方に立つコックローチに気づかれないように口を開ける。
 河骨の口の中には、巨大な送風ファンがあった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……あ゙ぁ」
 ファンが回転して生臭い風が、コックローチを空中に舞い上げる。
「うわぁぁぁ!?」
 コックローチは、メッキをつかんだまま、ご都合的な戦闘空間のコチの世界に吸い込まれていった。

 コックローチの「河骨を爆発させる」の発言を聞いて、身の危険を感じた河骨は、一か八かの賭けに出てコックローチを戦闘空間に吹き飛ばす選択をした。
 コックローチの後方から突進して、コックローチを異空間に弾き飛ばす選択肢もあったのだが。

 起爆スイッチが腹の中あるため、作動する危険を回避するために臭い息で、コックローチを吹き飛ばした。
 河骨は、コックローチの身勝手な感情で、春髷市民に迷惑をかけたくはなかった。

 意外な展開に、一瞬唖然としたヒーローたちだったが。我に返った狂介がモリブデンに言った。
「行けモリブデン、おまえなら戦闘空間でゴキブリの、大食いヒーローを倒せる」
「でも、オレ……ヒーローですよ。ヒーローがあのご都合的な空間に入っても」
「いいから、行け……おまえが一番の適任者なんだよ」
「なんだか、よくわからないけれど。わかりました、トウゥゥ」
 怪人のモリブデンは、空高くジャンブして戦闘空間に入った。

【ご都合的な戦闘空間】〔コチの世界〕──のどかな牧草地と山並みの風景が目前に広がる小高い丘の上で、丸太を担いだ盗賊の娘『バイオレット・フィズ』は、牧草地に突如現れた。
 奇妙な建造物を眺めていた。
 鉄アレイがクロスして十字架になったようなモノの片側だけのモノが、牧草に突き刺さる形で立っていた。
「あれは、いったい何?」
 フィズは知らなかったが、牧草地に出現した物体は、巨大宇宙要塞の片側だった。

 ふっと、背後に人の気配を感じて振り返ったフィズは、割れたような空間から太った男が飛び込んできたのを見た。
 フィズは、男の手に気絶した勇者メッキが握られているのを見て声をかける。
「あれぇ? メッキ久しぶり……しばらく見ないうちに、ずいぶんと老けちゃったね?」
 太った男に続いて、今度はオレンジ色とグリーン色の斑模様の怪物が、割れた空間から飛び込んできた。
 その怪物を見てフィズが呟く。
「今度は、魔物が?」
 勇者メッキを振り回す赤い男と、背ビレを立てた不気味な魔物との戦闘がはじまった。

 コックローチのメッキ攻撃を、体を軟質ゲル化させて防ぐモリブデン。
 モリブデンの体に突き刺さったメッキの頭が、半透明なスライム状の体にめり込む。
 モリブデンは、体を液体化や軟質状やミスト状や粉末化させて、コックローチの攻撃を防ぐ。
 哄笑しながら、武器に成り下がった勇者を振り回すコックローチ。
「はははは、思った通り防戦一方か! その優しさがモリブデン、おまえの弱点だ! おまえはオレには絶対に勝てない。オレのような非情にならない限りはなぁ」
 コックローチが言うようの、メッキを人質にとられているような状況のモリブデンには、防戦するだけで反撃はできない。
(いったい、どうすればいい…なぜか、戦闘空間に入ってから力がみなぎっているけれど?)
 腰のベルトに差している『カプセル怪人』第一号【オレンジ・ペコ】は、体力回復中になっていて使えない。
(新しいカプセル怪人が必要だ、二体目のカプセル怪人がゲットできれば)
 コックローチが勇者を、上段に振りかぶって哄笑する。
「あはははは! くたばれぇ、モリブデン!」
 振り下ろされる勇者。乱入してきたフィズがメッキを丸太で受け止めて言った。 
「事情はさっぱりわからないけれど、魔物に対して一方的な攻撃はひどすぎるんじゃない……悪党のおっさん」
 悪党呼ばわれされてキレる、ジャアク・コックローチは飛び下がりフィズとモリブデンとの距離を開ける。
「引っ込んでいろ、小娘!」
「小娘じゃない! バイオレット・フィズだ!」
 モリブデンのヘルメット頭に直感が煌めく。
「君、カプセル怪人になってみないか?」
「んっ? なんか良くわからないけれど、なってもいいよ」
 片手をフィズは差し出すモリブデン。
「戦闘空間でオレと握手だ……それでカプセル怪人の契約が完了する」
 フィズが片手に空の怪人カプセルを持ったモリブデンと握手をすると、フィズの姿が空のカプセルに吸い込まれて消えた。
 モリブデンは、フィズの吸い込まれたカプセルを、コックローチの方に向かって投げつけて言った。
「頼むぞ、バイオレット・フィズ!」
 光りの螺旋渦の中に、丸太を担いで片膝をついた、カプセル怪人二号バイオレット・フィズが現れる。
「がってん、承知!」
 丸太を振り回して、コックローチを攻撃するフィズ。
 その強さに動揺するコックローチ。
「なんだ、こいつさっきより強くなって!?」
 フィズの丸太の一撃がコックローチの腹に炸裂する、腹から吐き出される起爆スイッチ。
「げぼっ!!」
 フィズは丸太をバットのように振り回して、起爆スイッチを吐き出したコックローチをメッキと一緒に割れた空から、アチの世界に叩き跳ばした。
 コックローチを戦闘空間から、場外ホームランにしたフィズは、額の汗を手の甲で拭う。
「ふーっ、カプセル怪人になるのって、気持ちいいぃ」
 フィズの姿がカプセルにもどり、モリブデンの手に自動で帰ってきた怪人カプセルをモリブデンは、腰のベルトに収納する。
 モリブデンの口から吐き出されたゲル状の物質が、吐き出された起爆スイッチを包み硬質化させた。
「これでいい、石の中で起爆スイッチは酸化して使えなくなるだろう」
 ジャンブしたモリブデンが、アチの世界にもどると、ご都合的な戦闘空間は閉じた。

 戦闘空間から、帰ってきたモリブデンが仲間に報告する。
「ただいま、起爆スイッチも始末してきたよ」
 地面では倒れてピクピクしている、コックローチの姿があった。
 緋色がモリブデンを労う。
「ごくろうさま、モリブデンに戦闘空間に入ってもらって正解だった」

 コックローチが倒されて、起爆スイッチが腹から吐き出され自爆から解放された河骨は、嬉しそうに沼へと帰って行った。
 去っていく河骨の後ろ姿を見送ってから、モリブデンが仲間に言った。
「勝利を祝って、おやっさんの喫茶店で軽く交流会でもしませんか……初顔合わせの人もいますから」
「賛成」
「口角あげていこう」
「戦闘空間発生マシンのわたくしも、お邪魔してもいいですか? 交流会の雰囲気だけでも味わいたいので」
「もちろん、おやっさんにはオレから話しを通しますよ」
「その通す話しの中に、銅色をしたロボット三体も加えてくれ」
「たまには緋色軒、以外の店に行って、くつろいでみるのもいいかもな」
 わきあいあいとした雰囲気中──戦慄戦隊ジャアクマンと、勇者メッキを残して。
 亜区野組織を一部加えたヒーローたちは、談笑しながら改造人間のおやっさんが経営する喫茶店へと向かった。

 マオマオくんの世界は、今日もすこぶる平和です。

第五章【ご都合的な戦闘空間とド根性の銅色ロボットと姿が少し怖い怪人ヒーロー】~おわり~

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登場人物紹介

【魔王真緒】〔まおうまお〕主人公・男子高校生。

この世界の平和征服を達成した【亜区野組織】〔あくのそしき〕の魔王の息子で後継者。

軟弱男(優しいすぎる)アニメ『閃光王女狐狸姫』の大ファン


愛称はマオマオ『イケメンでヲタク』なのが残念な奴だと、暗闇果実からは思われている


野球で消える魔球を投げるとボールではなく、投げた本人の真緒の方が消えるという特技を持つ


怒りで覚醒すると、後方に伸びるヤギ角が頭に生える〔13月13日生まれ〕


魔王城住所・春髷市〔はるまげし〕ラグナ六区弥勒666


父親の魔王は水牛の角が頭から生えている〔現在長期散歩中〕


母親は元、コチの王女でおっとりした性格。未確認生物の保護活動家

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