机の下にあらぬモノ

文字数 943文字

 放課後、私が自分の席に戻ってくると、机の下にあらぬモノがいた。
「ちょっ、彩奈、なんでこんなところにいるのよ」

「シーッ…… お願い星良、わたしのこと、居ないことにしといて……!」

「彩奈、今年も追っかけられてるんだ」

「そういうこと」

 机の下が見えないようになんとかしようとしていると間もなくして、生徒たちが彩奈を探しに来た。
「彩奈さまはどこ? 彩奈さま〜!」
「アッ、清水さん、彩奈さまがどこにいらっしゃるか、ご存知ないですか?」
 そう尋ねるのも、私が彩奈と一緒にいることが多いのを知っているからこそだろう。勘のいい子たちだ。

「いえ、全然」
 私は答えた。
「ちっとも見かけてないですよ」
 そういう私の足もと、てゆーか、私の下半身の正面に、その彩奈さまがマヌケな姿で隠れているワケだが!

 彼女たちは、それには気づかないで、
「そうですか…」
 落胆を一瞬だけして、それももう忘れたかのように大慌てで去っていった。


 そんな嵐が去り、少しして静かになると、彩奈が机の下から顔を出してきた。
「もう大丈夫そうかな」

「彩奈、相変わらず女子からモテモテだね〜」
 私は半ばあきれている。

「ホント、まいっちゃうよ……」
 そう言う彩奈だが、
 さて、問題です。
「ところで、わざわざ私の机の下に隠れて君は、何をしようとしてたのかな? ひょっとして、ヘンタイさん?!」

「いや! 違うのよこれは! ただ、星良が来るのを待つのに、こうなっただけで!」
つい大きな声で否定する彩奈。

「そんな大きな声出したら、また見つかっちゃうよ?」

「あっ……」
 声をひそめて彩奈は、
「とにかくこれは、待ってたの」

「ふ〜ん……私に用事ですか、ア・ヤ・ナさ・ま」

「お願い、からかわないで。実はこれ、渡しに来たんだ。ハッピーバレンタイン。手づくりなんだからね……!」
 恥ずかしそうに、彩奈が差し出してくれた。

「あ、ありがと……」
 予感はしてたけど、いざもらうとなったら照れくさい。
 あー、一か月後にはお返ししなきゃだな〜。うれしい悩みだ。


 さて、いまも女子たちは彩奈を捜しているだろう。
 彩奈はいつになったら、私の机の下から脱出ができるのだろうか?

 今日は一緒に帰れそうにもないのが、悔しい。
 こんなコソコソせずに、いつか、オープンにできるといいな……
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