第6話外の世界へ

文字数 1,318文字

 冒険者の四人とわたしは、コアが出したシチューと野菜サラダの夕食を食べながら色々な話をした。
 
 彼らはアルが自己紹介した通り、Aランクの上級冒険者で、ダンジョンを探索して、魔物から採れる素材や珍しいドロップ品を売って生活しているのだという。

「アンズくらい戦えれば冒険者としてやって行けるよ」
 エストが言った。

「そうね。じゅうぶんだわ。すでにDランクくらいの実力はありそうよ」
「そうだな、あとは経験だけだな」
 
 食事の後、彼らは簡易テントを張り一泊した。
 ベッドを出してもらおうかと言ったのだが、馴れているからと手早く設置したテントへ潜り込んだ。
 
 コアルームが明るくなって、コアに願って出してもらったパンとスープの朝食を食べると、彼らはこれから戻ると言った。

 「アンズも行くでしょう?」
 マリルが心配そうに聞いてきた。
 
 子どもひとり、ダンジョンの奥に残して戻る気はないらしい。当然、私が一緒に行くと確信している言葉だった。
 
「ここはダンジョンの地下五一階だ。数時間歩けば五十階に着く。十階ごとに入口へ戻る魔方陣があるから、そこから外へ出られる」
 アルが説明してくれた。

「あのデカブツを瀕死に追い込めたんだ。魔物との戦闘は問題ないだろ」
 エストが笑った。

「オレたちと一緒なら確実に外へ出られる」
 アルが解体した簡易テントをまとめると、寡黙なザイルがそれを背負った。
 
「行く」
 わたしはうなずいた。
 
 突然のことだったが、この機会をのがす理由は無かった。
 ただ、長年世話になってきたコアと別れるのが名残惜しいと思った。

 何の言葉も交わせない相手だったが、わたしを育て、支え、強くしてくれた。
 気まぐれで助けてくれたのか、それとも理由があるのかわからないが、母親のように大きな存在だったことには間違いなかった。

 わたしは、コアに両手を回して抱きついた。いつの間にかわたしは、コアを両手で抱えられるほどに育っていたようだ。
宝石のようにカットされた表面はゴツゴツしていて冷たかった。

「コア、わたし行くね。ありがとう。とても感謝してる」
 抱きしめているうちに、奥のほうから温かいものが体にしみ込んでくるような気がした。

「またいつか会いに来る。必ず来る」

 わたしがそっとコアから離れると、左腕に見慣れない金色の腕輪がはまっているのに気がついた。
インベントリ(アイテム庫)〉コアから言葉が伝わって来た。

「インベントリ?」
 なんのことかわからなかったが、コアが最後に贈ってくれた記念の品なのかもしれないと思った。

 そしてさらに、足下に十本あまりのポーションが転がり出て来た。
「うわあ」
 遠目で見ていたエストが叫び声を上げた。

「アンズ、いいか? そろそろ行こう」
 アルが声をかけて来た。

「アンズ、いらっしゃい、行きましょう」
 マリルが手招いた。

「ありがとう、コア」
 わたしは最後にもう一度コアを抱きしめると、ポーションを拾い集めて、四人の冒険者のもとへ走り寄った。


 ※※※※※※

 その後、ダンジョンを出たわたしは彼らのアジト(共同宿舎)に転がりこんで世話になりながら、新しい生活に慣れていった。

 やがて町の学校へ通い、冒険者になり成長して行くのだが、それはまた別のお話。

 (終)

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