突発開催、お菓子争奪戦!【高嶺バシク】

文字数 2,592文字

【アート】柚にゃん ×【作家】高嶺バシク



 太陽照らす白の大地。今日もとある街角から、甘い香りが放たれ広がっています。
「ふーん、ふふふーんっ」
 今やその名を知らぬ者も珍しい、大人気パティシエのシュクレが様々なお菓子を作り、並べていきます。
「今日も街は平和ですね~」
 クッキー、チョコ、ケーキにエクレア。慣れた手つきで大量に。ただ今日はちょっぴり特別な雰囲気。
「先日はアスガルドエリア産の新素材を大量に頂きましたので、それらをふんだんに使った新商品の研究です!」
 色んなエリアから認知されてきて、たまに宣伝目的なのか食材を提供してくれる方々がいます。シュクレやお客さんが気に入ったら定番メニューになるので、ワクワクの瞬間です。
 バレンタインにチョコを食べに来て以来仲良くなったミューニがやってきました。竜の尻尾を振り回して、棚を叩いています。しかしご安心、以前同じ事をされてから対策として耐久性を上げていたようです。
「……チョコ……」
 ふらふら歩くミューニに、シュクレが駆け寄ります。
「ちょうど良い所に! 新作候補のお菓子が出来た所なんです、今日はなんと無料なので、試しに食べてみてください!」
 特別っぽく言っていますが、ミューニはいつも勝手に食べていきます。
 その辺の棚から勝手にチョコを取りそうになっていたミューニは、シュクレから差し出されたチョコを受け取り、すぐに食べました。
「……おいしい」
「良かったぁーっ!」
 喜ぶシュクレをよそに、ミューニは続けて手を伸ばします。
「おー! 確かに美味そうだなぁー!」
 しかし狙った次のお菓子は、先に別の手が掴み取りました。
「食べてもいいんだな⁉」
 一応確認にシュクレに尋ねた竜人の女の子はノイレ。甘い香りに誘われ、ミューニの後をつけてきたようです。
「はいっ。まだお試しですけど、きっとおいしいと思います!」
 シュクレが満面の笑みで返答すると、ノイレはすぐにケーキをぱくり。
「んん~っ! すごくうまいぞー! 次はこれと、あとこれも食べてみるかーっ」
 大喜びのノイレは両腕を竜の腕に変質させます。何倍にも大きくなったそれでお菓子をかき集め――
「いけ、骨三郎。最後の一球、投げましたー」
「俺様はボールかよォーー!」
 ノイレの大きな手の隙間を、小さな骸骨頭の骨三郎が一瞬で通り抜け、お菓子を奪っていきました。
「ぐっじょぶ」
 親指を立てた投手、アズリエルが小走りでお菓子を回収。口に運び、店から出ていきます。
「おいしかった。多分、また来るから」
「えっ、あ、ありがとうございました⁉」
 突然の試食ラッシュに混乱していたシュクレ、反射的にお礼だけ言えました。
「さっきの骨のおじさん、アタシのお菓子を取ったなー?」
「誰がオジサンだァい!」
「骨三郎、戦犯」
「見つけたぞ、待てーっ!」
 店の外でお菓子を食べていた二人は、突進するノイレから逃げていきます。
「飛んで逃げるなんてずるいぞー!」
「おかわり作戦失敗だよ。ね、骨三郎、ね」
「そんな目で見るなって、もう十分取れたろ! 俺様の成果を分けてやるから、勝手にプリンを食べた事はこれで許してくれよな、な?」
 店から遠ざかる少女達を眺め、音もなく降り立つ影がさらにひとつ。
「そう……これは任務のようなもの。私もあの子達のように、お菓子を手に入れてみせるわ」
 休暇中の暗殺者ヘイランが、真剣な眼差しでシュクレの店を狙います。
「ポチ、ラニちゃんの分も持ってくれて、すごく助かります」
「ごめんねクイルちゃん。わたしが何度言っても、うさぎちゃんが剣を手放さないの!」
 女の子二人組が仲良く店から出ると、開いたドアが閉じる前に影が侵入。お菓子はみるみるうちに減っていきます。
「だいにんき、だった……」
「そうですねー。今後もこのレシピは続けていいかもしれないです」
 結果的に一番落ち着いていたミューニは、その場から動かず最後のお菓子を食べ終えました。シュクレが確かな手ごたえを感じながら、休憩に外の空気を吸いに行きます。
「な、なんですかこれはー⁉」
 店を出てすぐの驚きの声は、別の大きな音によって、ほとんど掻き消されました。
「うさぎちゃんがんばれー!」
「小さいのに強いなー、アタシも燃えてくるぞー!」
 ラニの護衛うさぎが、集まってノイレの腕を受け止めます。
「ほねさぶ、最後の一球」
「さぁて本日何回目のラストでしょうかァ!」
「ポチ、返り討ちにしますよ」
「ガゥゥゥウ!」
 アズリエルが再び骨三郎を投げます。
 その他様々な種族、様々な客、偶然やってきたバトル好きや見物人まで混じって、お菓子の争奪戦が起こっていました。ノイレなどは、途中からバトルが目的になってしまっています。
 そして空から降り注ぐ天使の羽。戦場ど真ん中を駆け抜け、氷の壁を生成します。
「騒ぎを聞きつけ出向いてみれば――」
 ついには天軍のガブリエルが現れました。ただ――
「シュクレの新作がそれほどまでに傑作だったという事ですか⁉」
 彼女もお菓子を求めた一人に過ぎません。シュクレのもとに降り立ち、お菓子の在庫を確認します。
「もし。噂の試作品というのは、まだ作れますかしら。あと、原材料の出産地などを伺っても?」
 目の前が大騒ぎの中、シュクレは落ち着いていられません。
「あ、あのガブリエル様っ? 食材はまだ残ってます。でもその前に助けてください、街が大変な事に……!」
「あぁ、それなら問題はありません」
「え?」
 平和や治安を守る天軍の将が、この状況でむしろ少々笑みを漏らしています。
「よく御覧なさい、貴女の菓子を愛する民の姿を」
 言われるがまま、シュクレはガブリエルの促す視線に合わせます。氷の壁で多少落ち着いたとはいえ、相変わらずのバトル風景ではありますが――
「皆さん、笑顔です。とっても楽しそうですね」
 何も困ったことはない、オセロニア界の姿です。
「チョコ……もっと……」
 待ちかねたミューニがシュクレの服を引っ張ります。あまりの力に破れそうになったので従って後退します。
「はい、ミューニさんだけじゃなく、ガブリエル様や皆さんの為にも。人気の新作をどんどん作っていきますね! それでは!」
 厨房に戻っていくシュクレの顔に、もう焦りはありません。今日もお店は大繁盛、いつもと変わらない、平和な白の大地の朝。
 気合を入れて拳を握ります。同時に、外では爆発音が鳴り響きました。
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登場人物紹介

【エイル】

シリアスが得意な方かと思いきや、バトルが面白い!

怒涛の展開から目が離せない!

【冬厳@主夫ロニア】

オセロニアの短編を一番書いている方。

多種多様なキャラクターを書き分ける技量はさすがの一言!

【ちゃん猫】

ハラハラドキドキ、ハートウォーミングな物語は、読んでいてホッコリします♪

【高嶺バシク】

様々なジャンルを書きこなす作家さんですが、やっぱりオススメはキュン♡とくるお話です♪

【嵐山林檎】

キャラクターを深く掘り下げた、まさに二次創作の書き手。

独自の世界観に酔いしれてください♪

【白こにー】

Twitterでは知らぬ人のいない、一途なおこんさん愛!

初参加のアンソロジーでも存分に見せてくれます♪

【山岸マロニィ】

推しネタになるとやる気が出るから、基本推ししか書きません。

推しは至高。

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