第15話 父の真実
文字数 1,514文字
私は父と深田のやり取りに混乱していた。
なにせ、今までずうっと父が働いたお金で暮らしていたと思っていたからだ。
もう十年も母一人の稼ぎで生活していただなんて――、とても信じられない。
目を丸くして父の顔をみつめると、あせりといらだちに口元がヒクヒクと動いていた。
そして声を張り上げてはげしく深田に抗議する。
「でもそれじゃ専業主婦はどうなるんですか!? 男だからお金を家に入れないと離婚だなんて、男女平等の社会なのに不公平でしょ!!?」
「あのですねェ。専業主婦または専業主夫は、お金を家に入れない代わりに料理や洗濯、掃除など色々と家庭を支える労働を行っています。あなたはお金は入れない家事もしない。この違い、お分りでしょうか?」
「……いや、だって。家事は女の仕事でしょう。男のぼくがするべきことじゃない」
父が強くそう言いきると、深田は目頭の辺りを揉みながら言う。
「では、率直に申し上げます。そのような個人のルールは法の下では認められおりません。ですから、あなたが夫 婦 の 義 務 を 放 棄 し た ことには変わりないのです」
「そんな………」
さらに深田は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「また、ここで有責者であるあなたが離婚を拒否しても、離婚調停をへて離婚裁判になると法定離婚事由の一つ”悪意の違棄”に当てはまりますので、判決離婚となった場合、あなたのサインが必要なく依頼者は離婚できます」
「待ってください! せめて、せめて妻と話をさせてくださいッ!! 十年以上連れ添った仲ですよ? 夫婦なんですから話し合えばお互い理解し合えるハズなんです!!!」
父はテーブルに両手をついて、真摯な瞳で深田をみつめた。
私もこのままじゃ父がカワイソウだと口をはさむ。
「そうですよ! ママだってホントは離婚したくないって思ってます。だってパパはあんなママでも優しくしてるんですよ!!」
鼻息を荒くして訴える私たちに、どこか冷めた表情を浮かべる深田は、バッグから新たなリングファイルを出す。
「こちらのファイルは、ケンジ様にだけお見せいたします」
「ええ、分かりましたよ!」
父は息を荒くしたまま、ファイルをペラペラとめくって確認する。
そしてだんだんと顔が土色に変わっていったのだった。
「……こんなの、プライバシーの侵害でしょう?」
口元をふるわせて怯えたよう声で父は言う。
だが、さらに深田は茶封筒の中の資料を父に手渡した。
「うそだろ………」
と父は顔面蒼白でつぶやく。
私は父の態度が大きく変化したのと、一人だけハブにされたことにイラだち、大きく身を乗り出して深田の手からファイルをひったくろうとした。
その拍子にファイルの留め具が開き、パラパラと写真が張られた資料が舞い落ちてテーブルの上に散乱する。
「ちょっ、お嬢様!」
「エリカ!見ないでくれ!!」
父も深田も、突然の私の行動にびっくりしたのか固まってしまった。
私はテーブルに落ちた写真に目を向けると、サキさんとホテルから出る父の写真を見つける。
別の写真は私の知らない女の人たちが、父とホテルに出入りしたり、キスしてたり――、どこかの温泉の露天風呂で撮られたと思われるいかがわしいものまであったのだ。
その瞬間。
私の中での愛に満ちた優しい父像が粉々に砕け散る。
父はサキさんという恋人のほかに、色々な女の人と付き合っていたんだ……。
というか、サキさんすら恋人だったか疑わしい。
さすがに冷静につとめていた深田もあせったらしく、テーブルにまかれた資料を素早くファイルに戻すと、ぬるくなったお茶をゴクゴクと飲み干した。
そして鳩が豆鉄砲を食ったような顔の私に問う。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……はい」
父の方はバツが悪いのか、顔も合わせようとはしなかった。
なにせ、今までずうっと父が働いたお金で暮らしていたと思っていたからだ。
もう十年も母一人の稼ぎで生活していただなんて――、とても信じられない。
目を丸くして父の顔をみつめると、あせりといらだちに口元がヒクヒクと動いていた。
そして声を張り上げてはげしく深田に抗議する。
「でもそれじゃ専業主婦はどうなるんですか!? 男だからお金を家に入れないと離婚だなんて、男女平等の社会なのに不公平でしょ!!?」
「あのですねェ。専業主婦または専業主夫は、お金を家に入れない代わりに料理や洗濯、掃除など色々と家庭を支える労働を行っています。あなたはお金は入れない家事もしない。この違い、お分りでしょうか?」
「……いや、だって。家事は女の仕事でしょう。男のぼくがするべきことじゃない」
父が強くそう言いきると、深田は目頭の辺りを揉みながら言う。
「では、率直に申し上げます。そのような個人のルールは法の下では認められおりません。ですから、あなたが
「そんな………」
さらに深田は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。
「また、ここで有責者であるあなたが離婚を拒否しても、離婚調停をへて離婚裁判になると法定離婚事由の一つ”悪意の違棄”に当てはまりますので、判決離婚となった場合、あなたのサインが必要なく依頼者は離婚できます」
「待ってください! せめて、せめて妻と話をさせてくださいッ!! 十年以上連れ添った仲ですよ? 夫婦なんですから話し合えばお互い理解し合えるハズなんです!!!」
父はテーブルに両手をついて、真摯な瞳で深田をみつめた。
私もこのままじゃ父がカワイソウだと口をはさむ。
「そうですよ! ママだってホントは離婚したくないって思ってます。だってパパはあんなママでも優しくしてるんですよ!!」
鼻息を荒くして訴える私たちに、どこか冷めた表情を浮かべる深田は、バッグから新たなリングファイルを出す。
「こちらのファイルは、ケンジ様にだけお見せいたします」
「ええ、分かりましたよ!」
父は息を荒くしたまま、ファイルをペラペラとめくって確認する。
そしてだんだんと顔が土色に変わっていったのだった。
「……こんなの、プライバシーの侵害でしょう?」
口元をふるわせて怯えたよう声で父は言う。
だが、さらに深田は茶封筒の中の資料を父に手渡した。
「うそだろ………」
と父は顔面蒼白でつぶやく。
私は父の態度が大きく変化したのと、一人だけハブにされたことにイラだち、大きく身を乗り出して深田の手からファイルをひったくろうとした。
その拍子にファイルの留め具が開き、パラパラと写真が張られた資料が舞い落ちてテーブルの上に散乱する。
「ちょっ、お嬢様!」
「エリカ!見ないでくれ!!」
父も深田も、突然の私の行動にびっくりしたのか固まってしまった。
私はテーブルに落ちた写真に目を向けると、サキさんとホテルから出る父の写真を見つける。
別の写真は私の知らない女の人たちが、父とホテルに出入りしたり、キスしてたり――、どこかの温泉の露天風呂で撮られたと思われるいかがわしいものまであったのだ。
その瞬間。
私の中での愛に満ちた優しい父像が粉々に砕け散る。
父はサキさんという恋人のほかに、色々な女の人と付き合っていたんだ……。
というか、サキさんすら恋人だったか疑わしい。
さすがに冷静につとめていた深田もあせったらしく、テーブルにまかれた資料を素早くファイルに戻すと、ぬるくなったお茶をゴクゴクと飲み干した。
そして鳩が豆鉄砲を食ったような顔の私に問う。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……はい」
父の方はバツが悪いのか、顔も合わせようとはしなかった。