第1話 1の島バアルその1

文字数 2,178文字

とある大陸の魔女学校。そこの校長室に二人の生徒の姿があった。


……えーとその、お話というのは何ですか、校長先生?
……
……呆れたものですね。自分達が何故ここに呼ばれたのか理解していらっしゃらないとは。
あ、あはは。すみません。
……
……まったく、卒業試験のことについてです!あなた方二人だけなのですよ、不合格だったのは!
ううっ!
……
実技試験は学年トップ、なのに筆記試験は空欄の雨あられのレドさん!
はっ、はい!
筆記試験は満点、なのに実技試験は初心者以下の成績のブルさん!
……はい。
あなた方二人には特例として追試験を受けて頂きます。見事それに合格したなら卒業を認めましょう。
うっそぉ、やったぁ! 流石校長先生! 太っ腹ぁ!
……
……但し、試験内容は同じものではありません!
ええっ!(そんなぁ、答えだけ覚えとけば楽勝だと思ったのにぃ)
……
試験内容は……ずばり、島巡りです!あなた方二人にはこの大陸の外に点在する72の島を回り、各島の名産の水晶をそれぞれ72種類集めて来て頂きます!


……はっ、はいぃぃぃ!?
……
翌日、旅の支度を済ませた二人は港へやって来ていた。
……
……
……ええと、確かブブちゃんだっけ?
……違うわよ、ブルよ、ブル。あとちゃん付けはやめてくれるかしら。
っ!?
な、何よ?
ああ、ごめん、思ってた口調と違ったから、ついびっくり……。
な、何よ失礼しちゃうわね!
だって、昨日の校長室じゃほとんど口を開いてなかったからさ、てっきりおとなしい感じの子かと思って。
あのねぇ、校長先生の前なのよ、口数だって少なくなるわよ。むしろ、へらへらしていたあんたの方が異常なのよ。
そ、そうかな?
そうよ。
すると二人の間の気まずい空気を、到着した船の汽笛が遮った。

二人は船に乗り込んだ。

……ちょっと、何であなたも乗るのよ。
え、何で?

二人旅なんだから当たり前じゃん?

ふ、二人旅ぃ!? あなたと!? 冗談じゃないわ! 
何言ってんのさ、私達二人で島巡りするのが試験なんだよ?
……あのねぇ、確かに校長先生は言ったわ、私達に島巡りをして来いって。けどね二人一緒にとは一言も言ってないわよ!
そうだっけ? まあでも、不合格だったの私達二人だけだし、二人一緒に行動するのが自然な流れじゃない?
そんな自然な流れがあってたまるもんか!あんたみたいな楽観的な体力馬鹿が私は大嫌いなのよ!
なんだとぉ!? そっちだってお勉強大好きの頭でっかちのくせに!
なんですって!
何さ!
そう大声でいがみ合う二人の姿は他の乗客達の注目の的になっていた。
……と、とにかく、私はあなたと一緒には行かないから、ついてこないでくれるかしら。
あ、当たり前だ、誰がついていったりするもんか! ベーだっ!
二人は互いに背を向け会うと別れた。

そして数時間後、二人を乗せた船はとある島へと到着した。

(ここが1の島「バアル」。自然豊かな平穏な島。いよいよ卒業試験の始まりね、絶対合格してやるんだから!)
いやっほぉう! 久しぶりの陸だぁ!
……ちょっと。
ん?何?
何であなたがいるのよ。私、言ったはずよね、ついてくるなって。
別についていくつもりはないよ。けど、目的が一緒なんだから、どうしたって同じ道を歩くことになっちゃうんだよ。
……はぁ、まったく私もついてないわ、こんな奴と一緒の試験だなんて。
それはこっちの台詞だよ……と、言いたい所なんだけど……。
ん? 何よ?
あのさ、私達が集めなきゃならない水晶ってのはどこにあるのかな?
……はぁ、あんたそんなことも知らずにこの試験に臨んだわけ?
ああ、そうさ!
何を誇らしげに……まったく、この島の水晶ならすぐそこの土産屋にでも売っているわよ。
み、土産屋ぁ!? ……意外だな、私てっきり島の遺跡かなんかに眠る宝箱に入っているものかと。
いやいや、そんな大層な物を72個も集めるなんてどんな試験よ。卒業する頃には老婆にでもなっているわ。
それもそうか……ってことは、お金を払ってそいつを買う必要があるんだよな。
そうなるわね、それがどうかした?
困ったなぁ、私、今一銭も持ってないんだよ。
……笑えない冗談ね。
冗談じゃないさ、実は船出の日に寝坊してさ、急いで家を飛び出したから財布持ってきてないんだよね。
……どこからつっこめばいいのかしら。ま、そういうことなら水晶を買えない時点で、この試験、あなたは不合格決定ね、お気の毒。
ちょちょちょ、そりゃあちょっと冷たいんじゃないの? 同じ不合格のよしみなんだしさぁ、ね?
よしみって、あんたまさか!
レドは体の前で両手を合わせると、深々と頭を下げた。
私にあんたの分の水晶の代金を払えっていうの!? 百科事典並みの面の皮の厚さね!
そこをなんとかお願いします! ブブ様! 護衛でも何でもしますから!
ブルだっつてんでしょ! それに護衛なんてこっちから願い下げだわ!
ううう、こうなったら仕方ないかくなる上は……。
そういうとレドはその場に膝をつき、両手を前に出した。
どわぁぁぁ! あんたこんな公衆の面前で土下座するつもり!? 恥ずかしいから止めて!
しかし、私にはもうこれしか手段はない!
冗談じゃないわ、いいから体をお越しなさいぃぃぃ!
ぐぬぬぬ、負けるかぁ!
きゃあああ!!
突然の女性の叫び声にレドたブルの二人は体を押し合うのをやめた。
な、なんだぁ?
大変よ! 町が、町が魔物に襲われているわ!
ま、魔物ぉ!?
つづく。
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