第14話

文字数 3,838文字

 それから、こんな奴もいる。やたらキョロキョロする。明らかに挙動不審の人。お前何キョドってんだよ。今日もキョドりに来たの、このキョドり男、キョドり女。みんなキョドり星から来た異星人だ。何もそこまで警戒しなくてもってぐらいキョドる。私の特技はキョドる事です。みたいな。ちょっと隠す仕草なら俺もしますよ。それぐらいだったら世の中の人なら誰でもすると思う。がこのキョドり星の人々はあまりにも普通とは違う。常軌を逸している。コンビニで大金を下ろす人なんている筈はない。限度額だって設定されているし、下ろす金だってたかが知れてる。お金は大切だって認識は誰にでもあるけど、あのキョドり方ってちょっとパッと見危ない奴に見えますよ。キョドり星のみなさん。そこんとこ自覚しましょう。
 もう一つ事例を挙げましょう。それは写真。フォト。DPS。コンビニで現像、プリントを頼む人ってかなり前から行なわれてる業務だ。誰もマジマジと見ませんてあなたの写真なんか。お客さん。何か勘違いをなされてるようで、あなたはスターでもなく、有名人、セレブレティでもありません。あなたはただのコンビニの客です。非常に遺憾ではございますが、それが現実です。
「すいません。中身見てませんよね」
「はい、見ておりません」
「ほんとに」
しつこいですね。こういう客は自意識過剰。何で俺があなた様の写真に興味を持たんとアカンのですか。俺は人のプライベートを覗くなんて事を趣味にはしておりません。だから何なんですか。そのう。人を犯人みたいに、疑うその目は。ウチのコンビニにはそんな奴はいません。って一人いるかな弱冠危ない奴が。あっでも見張ってますから大丈夫です。ウチのお客様にはトラブル回避の為、その場で確認をして頂いております。お客様、そんなに慎重にこっち(店員)に見られまいと警戒しなくても。まるでテストで周りに見られないように隠してる奴みたいですよ。そんなに俺らって信用無いですか?俺はその意味が分かりません。やり過ぎると逆に俺、笑ってしまいます。こういう人ってナルシスト。または何かの恐怖症なのかなって一瞬思ってしまう。それから受付の時から警戒バリアを張って来る人もいる。
「これって、現像して、プリントされてから、店員さんも確かめるんですか」
「いえ、このコンビニの人間は中身を確かめる事はしません」
「ホンとですか」
「ええ、勿論です。ご心配なさらないで下さい」
「ホンとかなー」
横柄な態度。無礼千万な客だ。だからするかよそんな事。信用ないなー。世の中、そんな悪い人ばかりじゃありませんよ。皆さん過剰な心配は人生の幅を狭めますよ。押さえるとこだけをしっかり押さえて、残りは肩の力を抜いてリラックスして人生を楽しみましょう。それでは、全国の心配症子、症太郎にぴったりの言葉を送ります。16世紀から17世紀のイギリスの劇作家の言葉です。“思慮分別が最上の勇気である”と。まず、心を落ち着かせ。そして物事を見定めましょう。幸せな奴は混乱しない。自分の中で秩序を築く事が出来るから。



クックックック、クエスチョン。古っ。人生はQ&A。質問には答えがある。出ないものもあるけど、それは置いといて。コンビニでこの禅問答をやる事はある意味正解ですか?それともやり過ぎには注意ですか?コンビニはレギュラー店員二名ですから、ムチャブリとKY行為にはお答えしかねますのであしからず。商品について質問する。それは分かりますけど。根掘り葉掘りは止めて欲しいです。俺らってただのバイトですから。
「これ、ラベル貼ってないんですけど、おいくらですか」
これは正解。俺が客でもこれはさすがに聞きます。その商品が欲しければ、当然の行為。じゃあ、これは、
「○○ジャンプって今日発売じゃないんですか。見あたらないんですけど」
「すいません。売り切れました」
これも正解。発売日。置いてあるはずのものが置いてないなんて、俺が客でもがっかりする。その店になく、どうしても欲しい時は他の店をハシゴしても探し出すけど。でこれはちょっと疑問。
「この商品て何が入ってるんですか」
「ラベル見て頂いて」
「この科学調味料。そう、ここんとこです。具体的には何なんですか」
知るか、そんなもの。俺はただのバイト店員。そんなマニアックなとこまでは知識を持ち合わせていません。あなた様はバイトの私達にそこまで求めますか。ちょっとこれはKY的質問です。それとも天然ですか。それなら、まあいいです。でも、まっまさか、それって俺らに対する軽いイジメではないですよね。初対面なのに。コンビニであなたのSっ気を見せつけないで下さい。お願いします。マダム。もしくわムッシュ。
 そしてこれもKYおばちゃんに多いのですが、FAXやコピー。自分でも使えるというような仕草をしておきながら、一方でそこのお兄さんちょっとあなた力を貸してと光線をビシビシ送ってくる輩達。勿論、分からない人には使い方をお教えしますが、私はあなたの執事ではございません。どうなさいましたか奥様なんて口が腐っても言う気は更々ございません。これだけは覚えておいて下さい。私はあなたの下僕でないのです。おばちゃんだから許されるというわけでもありません。最近、しばしば品格なるものを問われている日本人ですが、もう一度私も勿論ですが、そこの奥様もここは一つご一緒に見つめ直して参りましょう。私もコンビニ店員の品格たるものを持つように努力します。そもそも、コンビニ店員の品格の定義付けですが、基準が分かりませんで途方に暮れています。販売業、小売業の心得を誰か私に伝授して下さい。それくらいは自分で身に付けなさい。だあ・よお・ねえー。
「すいません。そこのお兄さん。私機械って弱いのよね。これ、FAXよね。私がしたいのはコピーなのよね。娘が学校で使うのよ。お母さんコピーして来てって言われちゃって。悪いけど、やってもらえないかしら」
これをこうしてこうで、スタートを押して下さい。わかりましたか。とりあえず紳士的対応。レジが混んできて、司さんに呼ばれる。
「大変すみませんお客様。レジが混み合って参りましたので、すぐ戻りますがとりあえず、ご自分でトライして見て下さい」
「ねえ、ちょっとお兄さん」
だから、この人の列を見なさいって。ここは、マダム。あなただけのコンビニではないのです。いいですか、コンビニは万人に平等でなくてはならないので、常識ある善良なお客様ならいつでも歓迎致しますです。はいい。客商売は一人一人のお客様を大事にするのは当たり前ですから。でもわがままばかり言っておられるお客様は、自分が恥ずかしいだけですよ。そんな事を思ってる私は家で
「ちょっと健太聞いてよ。さっき、お母さんコンビニ行って来たんだけど、コピーしようと思ってさあ。バイトのお兄ちゃんに聞いたのよ。分かんなくて、それなのに素っ気ないのよ。コピーたった一枚よ。それくらいやってくれてもいいと思わない。あんたんとこのコンビニはそんな事しないわよね。もっと親切でしょ。そうよね。接客があんなんじゃダメ、絶対ダメよ」
いた。いた。いました。ここにも、KYが、残念な実の母親です。女性は年を取るとこうも図々しくなるのだろうか。どこかに本物の淑女っていうのはいませんでしょうか。そういう方は是非、コンビニで買い物して見ませんか。待ってまーす。
「あら、ごきげんよう。今日は暑いわねえ。これ頂くわ。アイス」
「あっはい」
「あら、赤くなっちゃってかわいい」
「すいません」
なんて妄想中。いいなあ、こういうの。すると
「ちょっと、お兄ちゃん。何ボウっとしてんのよ。ちょっと早くしてよ。さっきから呼んでるでしょ。これどうやってやるのよ。エフエーエックスって」
ファックスだろ、おばちゃん。あーあ。残念ながら、これが現実かあ。



「僕のお菓子シリーズのホットチリポテト。棚にないんですけど、売り切れなんですか」
「はい、お客様。ホットチリは申しわけございませんが、売り切れでございます」
「そうなんですか。じゃあ、僕のイチゴチョコは」
「僕のイチゴチョコですか。まだあったかな、今、在庫調べて来ますので少々お待ち下さいませ」
「ウソですよ、店員さん。それって明日発売ですよ」
「はっ」
「お兄さん、店員なのに自分の店の新商品ぐらいチェックしとかないと。いつ発売か知らないんですか」
何なんだこのガキは。上から目線だぞ。この目と口調は。
「すいません、勉強不足で」
「ちなみに僕はこの“僕のお菓子シリーズ”は全部言えますよ。さっきのホットチリでしょ。僕のイチゴでしょ。僕のドーナツでしょ。それにあと僕の…」
「あの、お客さん。もう結構です。それにしても凄くお詳しいですね。そんなのどこのコンビニ店員でも言えませんよ。特にこの店のバイトは大雑把な奴が多いですから」
この俺を筆頭に
「本当?マジで?。だってこれPBですよね」
「はあ、そうですけど」
これくらいはさすがに俺でも知っている。PBとはプライベートブランドの略。ちなみにコンビニで販売されている商品は大別するとPBともう一つNB(ナショナルブランド)がある。PBはコンビニチェーンのオリジナル商品でNBは各メーカーの商品だ。PBはメーカーに製造を委託しても、企画の段階からコンビニの企業として参加する。用は製造と販売元が違う。商品ラベルを見れば一目瞭然。これは非常に合理的なビジネスだ。両方にメリットがある。
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