第13話

文字数 3,843文字

「ああ、ちょっだけあります。言われた事。二回ぐらい」
「似てる。似てる。絶対似てるって。私好きな顔だもん」
「何それウケる受けるんだけど」
隣の女が間髪を入れずにツッコミを入れる。俺は二人の女に囲まれている三井さんを見る。三井さんも俺に気付いたので、俺はウケてますとアイコンタクト。三井さんはその仕草は止めろよと手で俺に向けジェスチャー。俺は口パクで、似てますよみたいな仕草をして勝手にこのシュチュエーションを楽しんだ。女は二人組みで、この近くの会社のOLらしく、何回か見かけているが、いつもスーツ姿だ。今日の出で立ちは、一人はスカート。もう一人はパンツスーツ。二人共見た感じ三十路前ってとこだ。俺達よりは5,6歳上って感じ。その会話のあった日から、そのOLは結構この店に顔を出すようになった。またコンビニの引力に吸い寄せられた人間が増えた。ただ、このOLの目的は買い物ではなく、明らかに狙いは三井さんだ。この前だって
「あのリトルMに似てる男の子、今日はいないの」
「三井さんですか、今日はシフトには入ってませんけど」
「そう、あの子三井君て言うんだ。へえー。彼付き合ってる子とかいるのかなあ」
「さあ、どうでしょうかね、プライベートな事なんでそこまでは、分からないですね」
ちなみに俺は今、どフリーですけど。
「そうなんだ。彼ってシフト何曜日に入ってるの」
俺の事は完全無視かい。
「そこまではお教えする事は出来ません。規則なんで」
誰がお前らなんかに教えたりするかっての。
「いいじゃん。教えてよ」
「ホンとに何も知らないですよ。すいませんけど。直接本人に聞いて下さいよ」
「わかったわ、聞いてみる。じゃあ、また」
おいおい、何も買わないのかい。そんな規則なんてあるわけもないが、ストーカーとかもいるからな。お前らがそうだったら即効警察行くけど。それに三井さんばっかでちょっと俺だってジェラシー。そのOLはその後度々現れ、三井さんにさりげなくアプローチを開始していた。
「ねえ、今度どっか遊びに行こうよ」
「えーそれはちょっと」
「いいじゃない、さっき彼女いないっていったでしょ」
「ええ、でも俺卒論とかで忙しいんですよ。遊びたいんならあいつ暇ですよ、健太」
「ちょっと何言ってんすか、三井さん」
「あの子と行ってもしょうがないでしょ。私は三井君と行きたいの。だって彼、私の理想って感じなんだもん」
そんなはっきり言うなよ。少しは気を使いなさい。俺だってお前らなんかと行きたかねえよ。理想の彼?それって自分で考えに考えた上で理想?マスコミに踊らされてません?どっかから刷り込まれてません?そいつの表面だけを見ていませんか?仮面の下にはどんな顔が隠れているか分からないのに。必要以上に相手に対して理想を求め過ぎるのはどうかと思いますが。自分を棚に上げて置いて、それはないでしょ。理想って言葉は、ある意味怖いですよ。そこのお姉さん。こうなったら反撃してやる。
「ちなみにお姉さん達、こんな事女性に聞いて失礼ですけど、いくつ何ですか」
「いくつに見えますー」
出た女のつまらない質問返し。
「二十五ぐらいですか」
「やだあ、嬉しい」
嬉しいってだから一体いくつだよ。って必要な物買ったら、早く帰れよ。
「私は、33歳、ゾロ目彼女は私の二個上35歳」
「ちょっと私まで言わないでよ」
「ゴメンまきちゃん」
「もう」
もうって、そしてゾロ目って何すかお二人さん。それから結構年いってますね。三十路も過ぎてるでしよ。俺ら二十歳を過ぎたばかりですよ。三井さんをどうする気ですか。捕まえて、羽交い絞めにでもして、焼いては煮て、そして食べる気ですか、その自信は一体どこから来るのですか。それとも、ただ、遊びたいだけですか。三井さん、とんだ女に逆ナンされましたね。これ半分は嫉妬ですけど、後の半分は同情です。でもそんな簡単に落ちるかよ。普通。
「そうなんだ。じゃあ、いつ遊びに行きますか」
「うそーいいの、やったね。じゃあ、そうねえ、今度の…」
ってOKすんのかい。もしかして三井さんて年増な女性好み?更に熟女も有りだったりして。そう言えば、好きな女優って誰。みたいな話になった時、40過ぎの女優の名前を列挙していたっけ。やっぱ間違いないかも。俺は絶対ありえないけど。まあ一回くらいHしてもいいけど。綺麗な体のオバサンならね。でも俺の親の方に年が近かったりしたら、冷静になると思う。性欲。これは難しい。そんな状況にならないと実際は分からないけど。恋愛には、発展しづらいと思う。あくまで俺の場合だけど。刹那的な快楽。性的に奔放な女性。不倫相手ならいいが、彼女にはしたくない。

「健太、土曜の夜暇?この面子でメシ食いに行かない?」
「俺、無理っす。友達と約束が」
「そうか、じゃあ無理だな」
俺がこの話に乗る理由がどこにも見つかりません。ごめんなさい。
 それからしばらくしてバレンタインというイベントが近づいて来た。そしてあの三十路OL二人組みが、ニヤニヤしながら店にやって来た。
「みっちゃん、これチョコ、もうすぐバレンタインだから。はいプレゼント」
みっちゃんてどこまで親密になってるんですか三井さん。それに何かその丁寧にラッピングされたチョコ。本気っぽいんですけど。どうすんですか。そんな物を貰っちゃって。相手は三十路過ぎですよ。それも半ばを。結婚願望有り有りですよ。あなたまだ21歳でしょ。一回り近く年が離れてますよ。それって今まで、それこそ21年間で一番重たいチョコじゃないですか。
「ありがとう、嬉しいです」
ちょっとマジっすか。三井氏。ああ目がマジだ。
「何かそのお礼がしたいから、また連絡します」
「お礼なんてそんなのいいから。ホント、また、遊んでくれればいいから。じゃあね」
と言って、いい女風に去って行った。三井さん。これは俺からの忠告ですけど、ちゃんと断らないとまだ脈があるって思われますよ。
「なあ、健太。チョコのお礼って何あげたらいいんだろう。お前いつもお返しって何あげんの?ホワイトデー」
「俺っすか、ありきたりだけど、無難にクッキーっすかね」
モテナイんであんま貰った事も、返した事も数えるくらいしか無いっすけど。ふーんだ。
「クッキーか、でも彼女、大人の女だしな」
大人っていうか結構熟してますけどお兄さん。
「でも、一般的には、義理チョコには、クッキーか同じくチョコでのお返しですよ。それから、本命には、改めて食事に誘うとか、アクセ送るとかになってるらしいですよ」
一般ピーポー的には
「俺さあ、硬派だったから、あんま経験ないんだよ」
「そうなんすか。そうは見えませんけど」
俺の目には、いつもチャラ男に見えてましたけど。髪も言うまでもなく、明るい金髪だし。もっと色抑えろって。
「よし、食事とアクセ両方プレゼントしよう」
「それってマジで言ってるんですか」
「何だよ、当たり前だろ。そんなの。愛に年の差はない」
それはそうですけど、三井さん。私はあなたの将来が心配です。
だって俺らまだ、二十歳そこそこですよ。まだこの世界を20年くらいしか見えてませんから」
旗色は完璧にその色を変え、形成は逆転した。って言うかこの人、最初から乗り気じゃん。
 “宇宙を只、一人の者に縮め、ただ一人の者を神にまで拡げること、それが恋愛である”と19世紀の詩人。作家のユゴーがロマンチックに言っている。俺にはクサ過ぎで逆立ちしても言えない。ちなみに過剰な性欲は自分を好きなだけで、そこに愛はないと俺は思う。



昨今、コンビニでは様々な変化が起こっている。例えばATM。これ何かは、銀行以外では、普通お目にかからないものだったでしょ。ちょっと前まで、これも一つのコンビニ革命。でもこれって日本ていう国が比較的安全だからなせる業。色々な見方はあるが、これって結構画期的な事だと思う。我がコンビニにもこれに漏れる事無く、当然の如く置いてありまっせ。でもちょっと待って。これって不思議な事だ。考えようによっては。俺ら銀行員でもないのに、俺らたかがコンビニの店員に、ATMの使い方を必死で聞いてくる。たまにおばあちゃんとかパンチの効いたおっちゃんとかが、他にやる仕事があるのに、仕事の途中で捕まります。まあ、手が空いている時はいいけど、一回捕まると分かるまで開放してくれないから大変だ。銀行でATMの前とかで窓口が開いている時によく徘徊している常駐員にレクチャーを受けてる姿とか見るけど、あれって銀行だから有りな話。このコンビニでバイト店員がそこまでお世話するってのがどうも。これってちょっとやり過ぎじゃないってたまに思う。だから未だに慣れていない。金とかが絡んでるし、カードの暗証番号とか個人情報を簡単に他人に知られる事はなくても、この場合結構危うさを孕んでると思う。この男の子は安全だと信用してくれるのはいいけど。これはなるべく止めましょうと言いたいです。はい。
「すいません。これどうやるんでしょうかね。この通帳何ですけどね。これ」
って俺に預金残高見せてどうするのおばあちゃん。そういう警戒心ゼロのお年寄りもいる。俺が本当の悪人だったらどうすんのと一言言ってあげたくなるくらいだ。ここが日本で良かったですねと言ってもピンとこないだろうな、こういう平和ボケしてる人達は。まあ、それも悪い事ではないけど。だって人を心から信用するって誰でも出来る事じゃないですから。でも暗証番号って何?なんて聞いてくる人には大人しく帰って頂きます。
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