第2話

文字数 2,078文字

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******************

「はい、グレートストーリー。

これをキミにあげよう」

そう言って息子に差し出した。

一瞬、時間が止まったような気がした。

母親は驚いて彼の顔を見た。

息子は信じられないような目つきで

僕と彼の母親の顔を交互に眺めた。

「はい、キミにプレゼント」

そう言って

雄太君は強引にそのゲームソフトを

息子の手に渡した。

きっと息子は

天にも昇る気持ちだったに違いない。

笑みを押し殺して僕の目を覗き込んだ。

「そんな大切なもの、いいんですか?」

僕は彼の母親に尋ねた。

「本人がそう言ってるんだから

もらってやってください」

母親はきっとすべてが分かっていたのだろう。

そう言うと、

お願いしますと言わんばかりに

僕の息子に頭を下げた。

そのとき検査の呼び出しがあったので

僕らは帰ることにした。

帰りがけ

息子はそのゲームソフトを

両手で大切に抱きかかえながら車に乗り

そのソフトがいかに貴重なものかを

興奮気味に僕に話してくれた。

それからというもの

息子のところにはひっきりなしに

大勢の友達が押しかけるようになった。

なにしろ

幻のゲームソフト

といわれているシロモノだ。

息子はちょっと王様気取りで

毎日そのソフトの使い心地を

友達に説明していた。

あのお見舞いから四ヶ月近くが過ぎた頃

雄太君は短い生涯を終えた。

ちょうど彼の同級生たちが

卒業式の準備をしている時だった。

それから一年が過ぎた。

ゲームソフトの進歩は速い。

さしもの幻のゲームソフトも

すっかり時代に取り残されてしまい

男の子たちの関心は

最新のレアものに向かっていた。

息子も例外ではなく

あのグレートストーリーには

見向きもしなくなった。

ある朝、息子の部屋に入ると

片隅にグレートストーリーが

置いてあるのを見つけた。

ほこりをかぶっていた。

僕はそっと手に取って

ほこりを丁寧に拭いてから仏壇に供えた。

「幸福な王子」という童話がある。

金箔に包まれた王子の立像が主人公なのだが

王子は貧しい人に

自分の金箔をみんな与えてしまい

むき出しの像になったあと天国に召される。

そういう話だったように記憶している。

僕はグレートストーリーを見るたびに

その話を思い出す。

きっと今ごろ雄太君は

天国で幸せに暮らしているに違いない。

そして、

地上よりもずっと凄いゲームソフトに

夢中になっているに違いない。

僕は仏壇に手を合わせるたびに

彼が楽しそうにゲームをしている姿を

思い浮かべるのだ。

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ここからは、パソコン向けです

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「はい、グレートストーリー。これをキミにあげよう」

そう言って息子に差し出した。

一瞬、時間が止まったような気がした。

母親は驚いて彼の顔を見た。

息子は信じられないような目つきで僕と彼の母親の顔を交互に眺めた。

「はい、キミにプレゼント」

そう言って雄太君は強引にそのゲームソフトを息子の手に渡した。

きっと息子は天にも昇る気持ちだったに違いない。

笑みを押し殺して僕の目を覗き込んだ。

「そんな大切なもの、いいんですか?」と僕は彼の母親に尋ねた。

「本人がそう言ってるんだから、もらってやってください」

母親はきっとすべてが分かっていたのだろう。

そう言うと、お願いしますと言わんばかりに僕の息子に頭を下げた。

そのとき検査の呼び出しがあったので僕らは帰ることにした。

帰りがけ息子はそのゲームソフトを両手で大切に抱きかかえながら車に乗り、

そのソフトがいかに貴重なものかを興奮気味に僕に話してくれた。

それからというもの、息子のところにはひっきりなしに

大勢の友達が押しかけるようになった。

なにしろ幻のゲームソフトといわれているシロモノだ。

息子はちょっと王様気取りで、毎日そのソフトの使い心地を友達に説明していた。

あのお見舞いから四ヶ月近くが過ぎた頃、

雄太君は短い生涯を終えた。

ちょうど彼の同級生たちが卒業式の準備をしている時だった。

それから一年が過ぎた。

ゲームソフトの進歩は速い。

さしもの幻のゲームソフトもすっかり時代に取り残されてしまい、

男の子たちの関心は最新のレアものに向かっていた。

息子も例外ではなくあのグレートストーリーには見向きもしなくなった。

ある朝、息子の部屋に入ると

片隅にグレートストーリーが置いてあるのを見つけた。

ほこりをかぶっていた。

僕はそっと手に取ってほこりを丁寧に拭いてから仏壇に供えた。

「幸福な王子」という童話がある。

金箔に包まれた王子の立像が主人公なのだが、

王子は貧しい人に自分の金箔をみんな与えてしまい、

むき出しの像になったあと天国に召される。

そういう話だったように記憶している。

僕はグレートストーリーを見るたびにその話を思い出す。

きっと今ごろ雄太君は天国で幸せに暮らしているに違いない。

そして、地上よりもずっと凄いゲームソフトに夢中になっているに違いない。

僕は仏壇に手を合わせるたびに、

彼が楽しそうにゲームをしている姿を思い浮かべるのだ。

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