プロローグと一章

文字数 1,245文字

人は関係の深い、長い間一緒にいるような人の足音を覚えることができる。例えば、母親が家の階段を上る音。覚えている人も多いだろう。覚えてなくても不思議なことに、一度聴けば思い出すと思う。これから描くのは、いくつかの「足音」の物語だ。


一章 友の足音
 今日は親友と会う、10年以上も昔、中学卒業を最後に会えなくなり、社会に出る頃には連絡すらつかなくなってしまった親友と会うのだ。
 ある日仕事を終え、家に帰ろうとすると電話がかかってきた、母からの電話だった実家を出てからあまり連絡を取っていなかったので、何かあったのかと少し緊張しながら電話に出た。すると母は元気な声で「元気にしてるかい?」と言った、安心した僕は「驚いたなぁ、急に電話なんかしてくるから、何かあったのかと思ったじゃないか。」と言った。少し最近について話した後、母は本題を話し始めた、「今朝ね、手紙が届いたのよ、家に。」
 母の話によると、朝、家のポストを確認したときに僕宛の手紙が入っていたそうで、その手紙は、僕が中学生の頃までずっと一緒で、それ以来10年以上の間連絡すら取れていない親友から送られてきたものだったそうだ。僕が一人暮らしを始めたのは20歳になる頃だったので、僕の住む家ではなく、実家に送られてきたのは当然だろう。けれど、なぜ突然手紙を送ってきたのだろう。友達伝いでなら、すぐに僕の連絡先も分かるはずなのに。いろいろ考えたが、ひとまず自分の目で手紙を読みたいと思った僕は、母に手紙の写真を送るよう言おうとしたが、母は、「気になるなら、取りに来なさい?最近ろくに帰ってきてもいないんだから。」確かにもう一年以上帰っていない。「分かったよ、今から行く」と母に伝え、僕は駅に向かった。
 電車を乗り継いで実家に着いた僕は、早速母に手紙を見せてもらった。手紙を見て、僕は懐かしくなった。幼い頃から側で見た、少し癖のある字。少し潤んだ目を拭って、僕は手紙を読み始める
 「久しぶり、もう中学の卒業から10年以上も経っちゃったよ。いい加減、同窓会の一つでも開いてくれればいいのにな。なあ、元気か?いや、手紙で答えなくてもいい、会って聞きたい。日曜に…」そのさきには、日曜日の正午に、昔よく遊んだ公園の前で待ってる、という内容の文が綴られていた。嬉しい、昔のことが頭の中に溢れ出してくる。相当分かりやすかったのか、母が「あら、随分と嬉しそうな顔してるじゃない?」と言ってきた。僕は「そうだね、嬉しいよ」と返した。その日は、実家で夕飯を食べて帰った。
 日曜日、11時50分、僕は例の公園の入口の横で、スマホを見ながら立っていた。すると、聞こえてきた。10年以上も経ったのに、分かる。響いてくる靴の音が、親友との思い出を蘇らせる。そう、いつもこの公園の前で待ち合わせてた。時間は向こうが決めるくせに、毎回僕のほうが早くつく。あの頃よりも低く、重くなった足音が、急ぐ気持ちを隠しきれないように少し早くなった。そして、僕のすぐ側で、足音が止まった。
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