第7話 本物と偽物

文字数 641文字

 大学1年の夏あたりから、良からぬ連中ともつるみだし、服に金をかけるようになった。

 言葉遣いも荒く、ピアスも開けた。
 今まで興味すらなかった香水をつけ、あれほど嫌っていた煙草を咥え、今じゃ一丁前のヤンキーだ。

 駅前にあるコンビニの前で座り込むタカシの姿が、俺の知る最後のタカシであった。

 風の噂ではホストをやっていると聞くが、今となっては確かめようもない。
 
「自分の事なんだからちゃんと覚えてろよ。つーか、記憶飛ぶまで酒を飲むな、それも2日連続で。一応聞くけど、まさか手に持ってるソレも覚えてないとか言わないよな?」

 「ソレ?」と尋ねると、カンタは「携帯」と指さした。

「お前の持ってる携帯、人のだぞ。机にあるのがお前の」

 確かに同じ機種がガラステーブルに置かれていた。

「え、じゃあさっきの間違い電話って?」

「間違い電話? その電話にかかって来たなら、間違ってたのはお前の方だろ」

 ……そう言うわけか。
 にしても、そんなことってあるのか。

 携帯を落として失くした経験ならある。
 凄く焦ったし、半身でも失ったような、生きた心地がしなかった。

 だがまさか2つに増える日が来るとは……。

「んで、どうすんの? やっぱ交番?」

「これ拾ったんだよな?」

「そう言ってたぞ。それとも本当は盗んだのか?」

「流石に盗んではない……と思いたい。でも被害届出されたら面倒だし、コンビニのゴミ箱にでも――」

「やっぱお前って酷い奴だよな」
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