第102話  お互いの初めて 6

エピソード文字数 3,075文字

 


 ※


 ~~~~

 気がつけば偉く懐かしい光景が広がっている。

 高校ではなく、こりゃ中学の頃の廊下か。


 そこには俺を睨む男子生徒や、煙たがる女子生徒が一斉にこちらを見ている。

あ、白峰じゃね?
本当だ。よくもまぁ学校に来れたよな?
 どこぞの誰かが俺を見るなり、気持ち悪い目で見てやがる。

 俺は……俺は何も、悪いことをした覚えはない。

 なのに何故、こんなに寄ってたかって俺を攻めるのか理解出来ない。



 あの事件から3ヵ月後。


 久しぶりに学校に来たというのに、俺の机には――

 そりゃーもう酷い文字が彫られ、人を非難するような文字がギッシリだった。


 男からは気持ち悪い目線で追われ、女からは憎しみと憎悪が入り混じった視線を受けると、俺はあっさりと教室を出る。 



 その時、廊下で見かけたのは……中学の時の友達だ。

 いや、こんな奴ら友達じゃねぇ。ただの強姦未遂野郎だ。



 俺が睨むと、即座に逃げやがる。

 どうせ学校であらぬ噂を吹きまくったのはお前らだろ?



 こんな状態で勉強しろというのがまず無理だ。

  

 やはり家に帰ろう。そう思い校門を潜ると、そこには頭の悪い連中がたむろしていた。


お、こいつこいつ。この女ですよ
マジ? くっそ可愛いじゃん。ねぇ君。誰でもヤラせてくれるって本当?
相当なヤリマンらしいぜ
 人の噂ってものは、恐ろしい。

 全く身に覚えもない話を、あたかも真実のように言いやがって!

 俺に、俺に胸糞悪い視線を送ってくるな! 気持ち悪いんだよっ!

 

 男が見せる下心満載の目は、この世で一番嫌いなんだ!

うお、でけーな。何カップ?

 知らん男に肩をポンと叩かれると、俺は一気にキレた。


 そこからはあまり覚えてなくて、ヤンキー達を全滅させたあと、追いかけてくる学校の教諭を撒いて、家に帰った。





 家に帰ると、親父は居なかった。なので電話を掛けていた。

 この時はすぐに電話に出てくれた。

母さんごめん。

もう学校行くの。やっぱ無理だった……

 詳細を親父に告げると、親父はもう学校へ行かなくて良いと言ってくれた。

 

 そして、近いうちに黒澤家は都会へ引っ越すというのも、この時聞いた。

本当? 引っ越すの?
ああ、もっと都会に引っ越そうと思ってる

 朗報だった。

 それなら……こんなクソな街ともお別れだ。

ねぇ母さん。俺……やっぱり。女じゃダメみたいだ。


最初はすげー上手くいったと思ったのに……

最悪だった

もう一度。小学生の時のように、男として……やり直したい

分かった。それは楓蓮の好きにすればいい。それで手続きしておいてやる。

だけどな、引っ越してから高校にいくのなら……中学校へは登校しろ。

教室には入らなくていいから。俺が学校にちゃんと言っておいてやる

うん。分かった

 そこまで話すと、俺は俄然やる気になっていた。


 こんな街からオサラバ出来るし、もう一度……男として生まれ変われる事に喜んでいると、そんなタイミングで凛が家に帰って来た。



 だが、凛は泥まみれで、顔には複数のアザが見える。


どうした? またあいつらか!
ち、違うよお姉ちゃん。ぼ、ぼく……
凛……俺はお前を傷つける奴は誰であっても許せないんだよ!

もういい! お姉ちゃん。もういいから!


僕がいじめられてもいいからっ!

離せっ! 今度こそ……あの家族もろとも破壊してやる!
やめて……お姉ちゃん! お願い……

 俺にしがみ付く凛を突き放すと、後ろから凛の泣き声交じりの叫び声が聞こえてくる。


 その時だった――


 後ろに振り返った時に見えたのは、凛じゃなくて……




 美優ちゃんが泣き叫び、前かがみに倒れそうになっている。そんなシーンが映っていた。


 息が止まるか。そう思った瞬間、俺は目を覚ましていた。

 

 ~~~~~

……くそったれが!


なんて夢を見せやがるんだ……



 ※



 スマホを見ると午後十時。いつの間にか華凛も横で寝てやがる。


 起きてしまったのならしょうがない。

 仕方が無いのでこれからの事を考えていた。本当はあまり考えたくないんだが。



 というのも……

 結論から言わせて貰うが、この事件は俺のただの独りよがりから始まったのだ。


 全て俺の責任である。




 美優ちゃんに「俺も入れ替わり人間です」と正直に答えるだけでこんな騒動にはならなかったんじゃないのか?


 しかしそれは、俺たち黒澤家にとっては非常にハードルの高い告白であり、そう易々と認める訳にはいかない。



 美優ちゃんの告白は突然だった。

 何も準備出来てなかったし、もっと彼女のことを知っていれば、こちらからも歩み寄ることが出来たと思うが、その結果、彼女の言動に過敏に反応した俺は、狂人と化していた。



 だけど彼女はラインで送ってきたじゃないか。

 「二人だけの秘密にする」と。

 あの時何故……歩み寄れなかったのか。



 それだけが悔やまれる。あれが最後のチャンスだったのかもしれない。


 しかし、その考えに到るまでに、考えの纏まらない内に魔樹が現れ、俺に考える時間を与えなかった。

 あいつの一方的な敵意を見た時、こいつは全部知っていると悟った。


 尋常じゃない怒り。それは俺が美優ちゃんにやった事を全て知っているかのように……




 魔樹の怒りを全身に感じた俺は、考える事をやめた。

 そしてフクロにされ、今に到る。

 あぁそうだ。近年稀に見る最悪のパターンだ。


ふはっ。ひでー話だ

 中学時代を髣髴とさせる状況に、全然変わってねぇと思うと妙な笑いが出てしまった。


 入れ替わり体質っていうのは、ここまで人を不幸にさせるのかよ……


 こんなつまらん能力のせいで、俺や凛がどれほど酷い目に遭ってきたか、数え上げりゃキリがねぇ。

俺は……男でも。女でも。ダメなのかよ……

 思わず口に出していた。

 その時、急に俺のスマホが着弾すると、画面に注目する。

魔樹……

 スマホに表示されたのは、登録したばかりの魔樹の電話番号。


 当然……電話に出るという選択肢は無い。

 着信が切れるのをぼーっと見ていると、その内に着信が切れた。

 すると留守電に切り替わる訳だが、急にでかい音量で叫び声が聞こえてきたのだ。

おい! 黒澤っ! いるんだろ? 電話にでろよ!

 スマホの向こうで、魔樹が怒り狂ってる顔が安易に想像できる。


 その声で隣に眠る華凛がうぅ~んと漏らすので、俺はベッドから飛び上がった。

 こんな時間に華凛を起こすとまずい。




 俺は部屋を出ると、魔樹の留守電を聞いていた。

 最初は俺への文句を散々ぶちまけていたが、急に態度が変わったのだ。


 そして……

み、美優が……いなくなった
え?

美、美優を知らないか?

美優が……家に居ない。何処かに出かけたのかもしれないけど、まだ帰ってこない

……なんだと?

知ってるなら教えてくれ!

お、お願いだ。こ、こんな事。美優が出て行くなんて……初めてなんだ!

美優ちゃん……

もし美優に何かあったら、全部お前の責任だ!

僕は絶対に……許さない!今度こそ殺してやる!

 支離滅裂と言うべきか。

 泣きが入ったり、怒り狂う声は完全に冷静さを失っているようだった。

だからさっさと連絡を寄こせ! 黒澤ぁ!
 と、そこで留守電が切れると、すぐに掛けなおした。
今すぐいく。喫茶店前で待ってろ
 一方的に電話を切り、いつもの外行きの準備をする。

 シャツと短めの短パンを履いて、髪の毛を一括りにしてすぐに玄関に向かう。



 ひっきりなしに着信する魔樹の番号は無視して、俺はさっさと家を飛び出していた。



 まずいぞ。こんな時間に美優ちゃん一人で……


 もし、彼女が竜王兄妹に見つかってしまえば……

だ、誰なの?  今の声は黒澤じゃ……なかった。
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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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