第5話 おまけ「大樹の活躍」

文字数 2,769文字


日陰に咲く花
おまけ「大樹の活躍」

 おまけ【大樹の活躍】



























 庵道たちが生活していた家に男たちが乱入してきたときの話である。

 この乱入よりも前に、庵道は大樹と順一にこんな話をしていた。

 「は?俺に死ねって?」

 「そう」

 「どういうことだ、啓志?」

 いきなり大樹に向かって死ぬ指示を出した庵道に、大樹は当然のことながら、順一も怪訝そうな顔をしていた。

 「何も、本当に死ねって言ってるわけじゃない」

 庵道の話によると、薫は警察が極秘で行っている研究で産み出された人間ではない何かであって、ショートして爆発する恐れがあるということだった。

 横崎が持ってきた沢山の資料の中から、たった一枚だけを取り出してソレを大樹と順一に見せる。

 なぜその一枚だけを見せるのかは分からないが、庵道曰く、他の資料に意味はないとのことだった。

 そして庵道が言っていた通り、翌日には男たちによって銃撃戦が始まってしまったため、大樹は薫を巻きこんだ。

 思った通り薫はショートして爆発し、その瞬間、大樹は男の1人を自分の身代わりとして家の中に残した。

 もちろん、身ぐるみを剥がして。

 上手く男たちに紛れこむことができた大樹は、横崎から受け取っておいたIDを使って色んな場所に入りこむことができた。

 まずは一警官が使えるパソコン部屋に入ると、持ってきておいたハッキング用のUSBメモリをセットし、そこからGPSなどで使われている衛星の内部に入り込み、座標の位置を変えた。

 あまりに大幅に動かすと人為的なものとして捜査される可能性があったため、微妙に異なるものにした。

 それと警察内部の情報を探った。

 これは順一に任せることも出来たのだが、一応、警察からのスパイとして庵道のもとへ送られている順一にリスクを背負わす必要もないと、大樹が買って出た役目だ。

 「よし」







 庵道たちがバラバラに行動を始めた頃、襾大樹は時計の針を見た。

 事前に庵道に言われていた日時と場所を確認すると、そこの公衆電話の近くへと向かい、周りに誰もいないことを確かめる。

 時間通りに公衆電話が鳴ると、すぐに取る。

 『俺だ。周りは大丈夫か?』

 「ああ、誰もいねぇよ。衛星の方は無事完了したぜ。そっちも順調だろ?」

 『ああ、そうだな』

 「それにしても、マジで死ぬかと思ったんだぜ」

『だから悪かったって』

「間一髪だ。で、俺はこれから何準備しておけばいいんだ?あるんだろ?」

『ああ、これからのことで話しておくことがある。ちゃんと聞いておけよ』

 そして庵道たちが捕まり、潜入捜査ということになっている順一が、血のりを装着していた庵道の身体に仮死状態を作りだす特注の銃弾を撃ち込む。

 血のりが出て来て死んだように見える庵道を、順一と晋平が遺体安置所まで運ぶ。

 遺体安置所から2人がいなくなると、大樹が中に入り、入れられたばかりの庵道の身体を救出。

 「おい、おい」

 ぺちぺちと数回叩いてみたものの、仮死状態になっているからかなかなか起きなかったため、すぐに仮死状態が解ける、これもまた特注の薬を打つ。

 すると庵道は少しして起きたため、大樹と庵道は資料集めを開始した。

 この頃、布瀬と共に研究所へと向かっていた順一は、帰り道の途中で布瀬を呼びとめると、気絶させた。

 もとから研究所近くにある、古びた倉庫のようなところは使われていなかったため、そこに布瀬を縛って放置。

 変装が得意な順一は、布瀬の格好になり、顔も変装して、堂々と杉原たちのもとへと戻って行く。

 煙草の臭いがしていたのか、杉原にバレそうになったが、大丈夫だった。

 矢岡のいる監視ルームに、重要な部屋の鍵が保管してあることも知っていたため、うろうろしながら鍵の型を取った。

 櫻井と共に気絶させた布瀬、布瀬は今順一が変装しているためいないのは順一ということになっているから茜を探してこいと言われ、探しにいった。

 そこで廊下の向こうから大樹が歩いてきたため、ぶつかるふりをして型をとっておいた鍵を渡した。

 櫻井も気絶させた順一は、本来の自分である茜に戻り、櫻井と布瀬は夜まで戻らないと言う。

 鍵を受け取った大樹は、待機していた庵道と秘密の部屋に入りこみ、そこに大量に隠されている国家の存亡にもかかわるほどの秘密を入手した。

 夜になるよりも前に順一と合流すると、順一に布瀬と櫻井に変装させてもらう。

 無事に杉原に会うと、翌日に向けての横崎輸送の計画を聞く。

 「俺は運転手に化ければいいんだろ?」

 「横崎を連れて避難すればいいのか」

 「ああ。俺は、大金を手に入れてくる」

 それぞれの役割を確認すると、車の方の確認を任されていた順一は、自分達の身代りとなる遺体を、遺体安置所から3体運んできて、車に積んでおいた。

 煙が出るように細工もすると、異常はなかったと報告した。

 そして横崎輸送計画が始まると、櫻井に変装していた大樹は運転席で車を動かし、順一は後ろに座る。

 車に異常があるように見せてほんの少しだけ時間をあけ、バックミラーで合図を送ると、順一は隣に居る横崎の手首をぐっと掴む。

 そのタイミングがきたとき、百合澤と遺体だけを残し、大樹たちは車から脱出した。

 車の中から発見された遺体は丸焦げで、誰だかまったく判別出来ないだろうことを報道していた。







 庵道と待ち合わせをしていた喫茶店で待っていると、平然と現れた。

 大樹と順一、そして横崎は別々に座っていたが、会話が聞こえるくらい近くには座っていた。

 庵道は分厚い不当を横崎に渡すと、横崎は至極満足そうに笑っていた。

 「確かに。いやぁ、助かったよ。マジで」

 「約束通り、逃走資金を渡した。変装もさせた。あとは堂々とその偽造身分証で逃げ切るんだな」

 「充分だ。それにしても、サツの動きを察知して俺をあいつらよりさきに買収するなんてな。ほんと、さすがの読みだぜ、あんた」

 「お前の顔の広さがなければ、警察のIDを手に入れられなかった。それだけだ。じゃあ、ここまでだな」

 「ああ。本当に助かったよ。これで別人として悪さが出来る」

 「ほどほどにしろよ」

 横崎が警察に買収されることを予想していた庵道は、それよりも先に横崎に会いに行き、買収交渉をしていた。

 警察が買収しに来ると思うが、買収されたふりをしてくれと。

 その代わり、こちらの買収に乗ってくれれば、警察よりも高い報酬を払うし、二度と、警察に追われない生活を送らせてやると。

 それから、逃走するための手助けも。

 警察など信用していなかった横崎は、この庵道の話に乗った。

 大樹はつくづく思う。

 庵道という男は、酷く恐ろしいと。

 「大樹」

 「なんだ」

 「お前、もう少し目立つキャラ作れ。じゃないと、詐欺師になれないぞ」

 「詐欺師になるつもりはない」

 生き抜くために、誰でも騙すのだから。


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