第104話  お互いの初めて 8

エピソード文字数 5,097文字

 ※


 部屋に入るなり、俺と美優ちゃんは正座で向かい合っていた。お互いがお互いの視線を合わせた、その二秒後に美優ちゃんが「うぇっ」とか漏らすと速攻涙が溢れ返っていた。

ごめんなさい! 本当にごめんなさい!
もういいですって! ね? これは自業自得なんだってば
 落ち着いて下さい。 俺は全然気にしてないんですって。
おにゃのこの顔が……楓蓮さんが……うぇっぐ。うぅっ

 顔面ボコボコだからな。


 美優ちゃんはまずそれをどうにかしなければと叫びまわる。今からコンビニに走るやら、外へ出たくてたまらんらしいが、まずは落ち着いてお話しないと。

待って。まず……ちゃんとお話。しよう

 そう言って、美優ちゃんの手を取ると、その手が激しく震えていた。

 思わず両手で押さえるように持つと、その震えが止まるように力を込める。

ご、ごめんなさい。わたひが、わたひが説明、下手で……

楓蓮さんが……

 ダメだ。全然落ち着いてくれない。


 どれだけ手を握り締めても、震えは止まらず、とめどなく流れる涙が止まらない。ひたすら俺に謝り続けるだけで、まとも話せる状態じゃない。

すいません。ちょっと失礼しますよ
 一応断りを入れてから、美優ちゃんを引き寄せると、そのまま胸に抱き、その身体をギュっと抱きしめていた。
大丈夫です……俺に任せてください

 これが美優ちゃんの女の姿なら出来なかっただろうな。


 今は喫茶店で見かけるクネクネするあの男の子だからこそ、俺はこんな暴挙に出れたのだろう。

大丈夫。大丈夫だから……
ごめんなさい……
美優ちゃん。ごめんね。本当に……ごめんなさい
ううん……わたひもごめんなさひ!
 大分落ち着いてきた。身体の震えが次第になくなっていくと、向こうからもキュっと抱きしめてくれた。
じゃあこのまま……聞いて下さい

 俺は美優ちゃんを抱きながら、今回の件を洗いざらい話して謝罪した。


 入れ替わり体質を暴露され、頭が真っ白になったこと。

 どういった経緯で美優ちゃんを襲いかかり、気絶させようとしたか。その時の心境を詰まりながら正直に告白した。



【全部。正直に言うから……だから……】



 あれで俺はクラッシュしたのだ。

 そう聞いた時、俺は自分達の秘密を全部暴露されると認識したのだろう。


 馬鹿だ。俺は。


 ちょっと考えれば分かる言動なのに、次々と衝撃発言が語られる中、完全に頭がパニくって、冷静な行動が取れなかった。その結果、防衛本能が働き、この状況をどうにかしなければ……そして俺は……美優ちゃんに手を掛けてしまった。




 あの時。本当に絞め落とすつもりだった。

 

 親父が言ってた。バレたらとにかく捕まえろって。


 それで連絡して来いと言うが、あいつと連絡取れないんじゃ意味がねぇ。

私のせい。私がもっと上手く説明すれば……誤解を生まなかったのに
 そう言って再び泣き出す美優ちゃんの頭を撫でまくる。

いや。違う。俺が……馬鹿すぎただけです

美優ちゃんがそんなことをする訳ないのに……

 本当にそう思う。

 くそっ。どこでどうなって……あんな思考に行き着いたのか。


 話の流れ的にも美優ちゃんは、俺に歩み寄ろうとしているのなんて、分かりきってた事じゃないか!


 それなのに……何故分からなかったのだ。

マジで俺は馬鹿野郎だ……
ううん。蓮くんは悪くないよ。ご、ごめんなさい
 少しづつお互いの誤解が解かれてゆくと、抱きしめる力も次第に緩まって、寄り添うような形になった。
蓮くん。楓蓮さん。お友達。仲良く、仲良くしたい……
はい! もちろんです。美優ちゃん。仲良く……

 




 ん? あれ……



な、なんで……
楓蓮さん……

ごめん……急に……

うっ、あっ……あぐっ

ごめん。俺……男だけど、わりと泣き虫だから……
私ももう……ダメだって思った……です

今になって急に……気がついた。

な、仲直りできたって。そう思ったら……

楓蓮さぁん……うう~~~ええっ!

さっきまで……もうダメだって思ってた。

終わりだって、何もかも全て壊れちまったって。


俺のせいで、みんなが……美優ちゃんが……うぅ……


ごめんなさい。ごめんね。美優ちゃん……

そこからは暫く美優ちゃんと一緒に泣きまくってきた。ありったけの感情をぶつけ合い、その気持ちを相手に分かってもらうべく、思った事を全て曝け出していた。


よかった。本当に良かった。

また……美優ちゃんと仲良くやれる。そう思うと無限に力が沸きあがるようだ。



 しかし。泣いてばかりじゃいられない。

 今度は美優ちゃんが何故、俺を入れ替わり体質だと見抜いたのか、ちゃんと説明してもらわないと。


 魔樹も待たせてあるんだ。まだ……まだ終わっちゃいない。


 ※


 一体どうやって俺の正体を見破ったのか。

 それは俺は一番知りたい話である。美優ちゃんに爆弾発言を投下されてからずっとその理由を考えていたが、全く手がかりも無ければヒントも無かった。


 そう思ったのに……


 俺の頭からすっぽ抜けてたのは、美優ちゃんのママの存在であった。単刀直入に言うと、ママから教えてもらったのだという。



私のママが、蓮くんのお父さんの知り合いらしくて……それで

 参ったぜ。親父との知り合いなら……

 その線も考えられる。と言うかド本命じゃないか!

ママはまだ知らないの。それにこの話は絶対内緒にしなさいって言われてたのに。


でも……でも……

そこまで言うと、美優ちゃんは再び視線を落とし、とても小さな声で「我慢できなかった」とこぼした
初めてなの。家族以外に入れ替わる人を見たのは。だから……
俺だって初めてです。他にもそういう人がいるのは聞いてましたが……

それが蓮くんだったから。だ、だって学校でも喋ってくれるし、仲良くしてくれるし……


それにその。小説書きさんだし。だから……大丈夫だ。って……

そ、それはまた、とんでもなく冒険でしたね
だって私。その……どうしても聞きたくて、抑えきれなくなって……ご、ごめんなさい

 しかし。俺には腑に落ちない部分がある。

 俺ならば……


 絶対に入れ替わり体質の事は暴露しないだろう。

 俺がもし美優ちゃんの立場に立たされた場合でも、俺ならきっと親の言う事を聞くはずだ。


 そう思ったが……

この話は絶対内緒にしなければならない。それはママからもきつく言われた。

だけどね……同じ入れ替わり体質だったら、秘密にしないといけない気持ちも分かってくれる。


私たちの悩みも分かってくれる。だから絶対大丈夫って。

それに……蓮くんならきっと……分かってくれると思った

 あぁそうか……分かってきたぞ。

 美優ちゃんに言われて、ようやくその気持ちが分かった。


 美優ちゃんの立場からすれば……親からそう言われたのなら、その人間は百パーセント確定の入れ替わり 体質だと思ったのだろう。



 実際俺でもそう思うし、この話に嘘をつく意味など何のメリットも無いしな。

 流れ的には。こんな感じだろうか。


 あの子は入れ替わり体質だ。俺もそうだ。


 なら。本当のことを喋っても、秘密にしなければならない事も分かってるし、ドン引きされる心配も無い。


 ただ。その秘密を共有するだけ。二人の内緒にすればいい。


 後一押し。こちらから入れ替わり体質を暴露するだけで……


 もっと仲良くなれる。


 絶対に……間違いない!


 と、そんな感じになっちゃったんだろう。



 そりゃ俺も……冒険したくなる。

 俺の場合、入れ替わり体質を理解してくれるような、そんな友達を欲しがっているのだから、この誘惑には絶対勝てない自信がある。

で、でも……怖かったよぉ
あっ……ごめんね美優ちゃん
ううん。違うよ。告白する時……だよ?

あっ。そっちですか。確かに……その気持ちも分かります

人にこの身体の事を告白するなんて……俺だって怖いですよ

わかる。ですか?
もちろんですよ。美優ちゃん

 同じ入れ替わる人間なら……その気持ちが手に取るように分かる。

 なんだろう。何故かそんな気がするんだ。

嬉しい……

 そうポツリと呟いた彼女は、男の姿なのに…… 高校や喫茶店で見かける美優ちゃんの笑顔に見えた。


 そんな時、美優ちゃんが「あっ」と漏らすと、ゆっくりゆっくり俺から離れていくと、またもや「ごめんなさい」を連発する。

どうしました?
ち、違うの。その……私。お、男の人にその……家族以外の男の人に抱きしめられたの。は、初めてだったから

 うぅっ。し、しまった。やっちまった!

 外見は男の子だが、中身は女の子なのだ。

 

 話の流れで、思いっきり抱きついてしまい……不覚である!

え? いや。まって下さい。

この前、美優ちゃんをおんぶしたり、抱きつかれたり……

あっ! あれはその……


か、楓蓮さんがおにゃのこだと思って。あ、ううん。あれ?

え? え?
で、でもぉ。今は男の子で、楓蓮さんが……女の子で、あれ?
そ、そうじゃないっすか! だ、だから、だ、大丈夫っすよ!
 などと無責任発言をすると、美優ちゃんは「ふわぁ~!」と漏らすと急に赤くなってしまう。その様子を見た俺はある事に気が付いた。
あれ? こういう場合って、俺が照れないといけないんですかね?

そ、そうですよぉ! だ、だって楓蓮さんなんだもん!

お、女の子でし!

とは言いましても、俺。男ですし。むしろ美優ちゃんに申し訳なく……
 と、言い訳してると、キョトンとした目に変わってしまう美優ちゃんは俺を指差しながら、こう言った。
楓蓮さんは、本当に、お、男の子なの?
そうですよ。今は女の身体だけど、心の中は男だと思ってます。本当の自分は……蓮だと思ってますから

 この辺は定義が難しいよな。なんせどっちでも名乗る事が出来るから。

 別にさ、心の中は女だ。そう言いきっても、差し支えない訳で。

私は。女の子だと……そう思ってます。

こんな身体でも、お、女の子。

うんうん。美優ちゃんは絶対そうですよ

 ここで男だと言われても、信じられません。

 あなたは十分すぎるほど、女の子です。

楓蓮さんは、男の子?
はいっ。男です
私。女の子
ですよね
 そこから美優ちゃんは、俺を可愛く指差しながら、そんなやりとりを繰り返した。次第にえへへ顔になり顔が赤くなるので、こちらも赤くなってしまう。
男の子……わ、私。男の子見るの初めてなの
俺も、入れ替わる女の子は初めてですよ
はじめて?
はい。男ばかりの家系なんで

 女性の心を持つ、入れ替わり体質の人間は初めてだ。


 ってか家族以外に、俺達と同じ体質の人間を見た事がないだけに、未知との遭遇にえらく興奮しているのが分かる。あ、性的に。とかつまらん意味ではないぞ。

男の子。は、初めての男の子……
あっ、でも……美優ちゃん? 魔樹は男の子でしょ?
ううん。魔樹は女の子だよ
え? いやいや。アレは絶対男ですよ

ちがいまし。 魔樹だって。中学校まで女の子で過ごしていたんです。

本当なのです。私と一緒で女の子なのですっ。

 そうなのか? いや。完全に男だと思うんですけど。

 そんな時、美優ちゃんは思い出したように手のひらに拳をポンと当てると、

もうそろそろ入れ替われると思う

 そういえば言ってましたよね。

 ここに来る前ちょっと待ってって。四時間の制限が解除されたのかもしれない。

入れ替わるね。

やっぱり……その。私は……女の子だと思ってるし、お洋服が……おにゃのこだし


分かりました。じゃあ俺はちょっとジュースでも淹れてきます

 部屋を出てドリンクバーでジュースを入れると、ふと魔樹の事を思い出していた。


 あいつの為にも、そろそろ戻らないと。

 ちゃんと説明しないと、あいつ。待ちすぎて爆ぜるかもしれないし。


 五分ほど店内をウロウロしてから、部屋のドアをノックする。

もう入っても大丈夫ですか?
うん。いいよ。楓蓮さん
そこには…… 学校でも喫茶店でもお馴染であるピンクのロングヘアーの彼女がいた。
美優ちゃん。顔上げてください。あなたはそちらの方が素敵です
恥ずかしいよ……
 いやいや。本当にそう思うんですって

あのね。楓蓮さん。それと……男の子の時は【美樹】って言います。

だけどね。美樹は家族内だけの秘密なんです。


外では「魔樹」として、喫茶店で働いてますから

そっか。そういう事になるんですね。

うんうん。分かりましたよ。

 美優ちゃんの男の姿。それはつまり闇の部分。


 魔樹に成りすまし、魔樹として表舞台に立っているのだから、この名前で呼ぶのは、白竹家に限られるのだ。

そろそろ帰りましょう。魔樹が待ってるはずです。きっと心配してますよ
待って。コンビニ行って、楓蓮さんのお顔を……
あいつに話してからでいいですよ。行きましょう
 こうして俺と美優ちゃんは喫茶店へと向かうのだった。



――――――――――


次回。守るべき人達。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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