1VS3

文字数 3,456文字

「魔王、様、も、人間になってしまったの、ですねっ。」



「マジ、かよ。それにしても、お前が、人間になっていたのにも、驚きだがショタ化なんて可能性、考えてもみなかった。もしかして、幻、覚か?もしかして人間に成ったのは悪い夢?」



「ご、冗談を。それならっ、この狼は、夢じゃないと。うわっ!」



二人で狼を相手しながら旧交をしたためていた。流石に戦闘しながら話をするととぎれとぎれになる。



話を聞いたところによると、バトラーも転移の後、ここに飛ばされたらしい。しかも弱体化(ショタ化)して。である。それからは俺と同じように村に辿り着き、村長の所に転がり込んだらしい。



「まるでコ〇ンくんの初期のストーリーそのままなぞったような…。」



「ストップ魔王。そこまでです。(正直私もそう思ったのであんまり強くは言えないのですが…。)」



 「で、解るか?この人間化の解除法。そしたら一瞬でコイツらビビらせて御仕舞。なんだがなぁ。」



 「王に出来ないのに私に出来る訳が無いでしょう。」



呆れながら、皮肉を込めてそう呟く、この右腕、辛辣…はぁ。



 だよなぁ、とガッカリしつつ狼を殴る。はぁ、じゃぁコイツら普通に相手しなきゃいかんのかぁ。て、あれ?



 「お前の魔法、なんで使えるんだ?俺なんか、弱体化して洒落に成らない弱さになっちまったってのに。」



チッチッチ、とやりつつバトラーは答えた。



 「私の糸魔法は普通の魔法を可視出来ないレベルで細くして扱うだけですので、弱体化してもほぼ遜色なく、コレだけは使えるんです。」



 糸魔法、バトラーの得意魔法であり、これを用いて攻撃、捕縛、罠作成…と前の世界では色々やって貰った。



 納得はいった。が、別の謎はまだ残っている。



 「コイツらこんなボロボロでなんで闘い続けていられるんだ?」



「いえいえ、私も迎撃中におかしいと思ってはいたんですが、流石に理由分析なんて出来る余裕は無かったんですよ。」



糸魔法で狼をグルグルにしつつ答える。



どういう事だ?謎が解けないままである。



仕方無いか。



残り少ない魔力を使い、飛び掛かってきた狼に魔法をかける。



分析(アナリシス)



相手の分析を行う魔法。これにより対象の状態を読み取ることが出来る。



「あれれー?こいつぁ、どーゆーこった?」



『洗脳』



そういう状態が付与されていた。この状態は他者により強制的に操られている状態を示す。つまり。



「誰かがあの村を故意に襲わせてやがる。」



「どういうことですか?それは。」



「そのままだ。この軍団、おそらく全部が誰かに操られてあの村を襲わされている。」



「一体誰が。」



そう、この事態を作り出すのは非常に面倒な筈、にも関わらず、わざわざやってのける意味。



解析の応用で一応、術者の場所は大体割り出せた。



「しゃぁ、行っくぞ!」



大体の見当は付くが、先ず行くのが先決だ。



「え?ちょいとお待ちを。だいたい意味は解りましたが、え?え?私、もしかして一人でやるんですか?」



戸惑いつつ自分を指差す。何か不味いことでもあるように。



「あと一寸で熊殺し村長が来るんだろ?それ迄ガンバ!」



キラッキラの笑顔で親指を突き出す。



「え?あー…。」



如何しよう。魔王様を見極めるために村長を思いっきり眠らせちゃった………。



頑張るしかないか………………………………………………………………………ハァ⤵。



諦めと覚悟を入り混じらせながら少年は大群に向かっていった。







魔王は激怒した。かの(どの?)邪知暴虐なる襲撃犯の黒幕を除かねば。と野原を疾走した。



「クッソー!痛い痛い痛い!」







魔王の速歩をギリギリ血だらけにならない様に使用。逆探知をした結果、川上に反応があった。成程、ここなら万が一があっても自分達は無事って訳だ。



確かに賢くはある。が、気に食わない。



「コッンノヤロォォォォォォ」



ブチブチプチプチ。何か細いものが千切れる音が体から鳴る。何の音かは知らない。が、コレは体から鳴ってはいけない音であることだけは確かだ。









薪が燃える。夜の闇の中、木がまばらに生える草原で馬車が一つ。その横でメラメラ真っ赤な光が揺れている。



明りの近くに男が一人、脂ぎった巨大な肉団子が二つくっ付いたようなチョビヒゲの男だ。その眼は見えない狸の皮で得た儲けを数えている。



その近くを囲むように黒いローブが10人程度。顔も体も黒いローブで覆っていて性別も年齢も判別できない。微動だにしない黒の塊達。その光景は不気味以外の何物でもない。



更にその周りには筋肉が大主張した大男、華奢なタレ目の優男、紫色のローブの唇の真っ赤な女が座っていた。この三人だけ、この集団に居て、異常に浮いていた。



最初に気付いたのは紫ローブの女だった。



「ん~。誰か。来たわねぇ~。」



「「敵襲ですか(い)?」」



連れの二人が声を重ねてそう尋ねる。女は笑ってゆっくりと首を振る。けだるそうに首を振るその仕草にはそれだけで艶がある。



「さぁ~ねぇ。たぁだぁ、ただの人やぁ獣達の速さじゃぁないことは確かねぇ。それにぃ、一直線にコッチに来てるしぃ、橋の方から来てるしぃ、急ぎの買い物客って訳じゃぁ、ないわよねぇ。」



「「行きましょう。」」



「私たちが引き止めとくから。あなたたちはぁ先に村へ行きなさい。」



女の声に少し緊張が見えた。これから来る相手は少なくとも口調がけだるくなくなる程に強い。ということだ。



女の発言を聞き、肉瓢箪が馬車を用意する。黒ローブも黙々と焚き火を消し、馬車に乗り込む。



「解りました。あなた達もお気をつけて。」



「「任せろ。姉さんは俺が守る。」」



また声が重なった。











いやな風が吹いた。真っ暗な闇の中にそれ以上に真っ黒な『何か』が蠢いている。気配を探ることや索敵能力の高い者で無くとも、そこに不吉や恐怖を感じ、忌避することを強制させる。



「こんばんは。良い夜ですね。」



男がいつの間にかそこに居た。商人も、黒ローブも、三人も、そこに居たにもかかわらず、油断など何処にも無かった筈なのに、何処からともなくその男は現れていた。



「行きなさぁい。」



鋭さを増した声が男の正体を物語っていた。



「頑張って下さい。」



肉瓢箪はそう言って馬車を走らせた。





「すいませーん。買い物をしたいのですがー。ってなんで逃げんの?」



追いかけようと手を挙げる。が、無駄だと解るといじけた様に男は小石を蹴った。が、馬車を追いかける様子が無い。こちらを警戒しての事だろう。徹底的に警戒し、油断しない、隙の無い姿勢。



「たぁだのぉ、異性だったら、惚れるのにねぇ。残念だわぁ。」



軽口をたたいてみるものの3人とも体が震える。



当然だ。さっきから漂っていた得体のしれないモノの元凶。根源なのだ。



見た目は細腕の優男。魔力はある程度あるというレベル。持っている木刀擬きにも特別な力は感じられない。先程の悪寒の正体。そうは思えない。それでも、隙は無い。



「さぁて…悪いけど、馬車を追わせてもらえないかな?彼らに御用が有るんだけど。」



「「「させない(わぁ)(ぜ)(ぜ)」」」



三人が構える。思いっきし臨戦態勢。やるしかないか…。



「じゃあぁ…力ずくで通させて貰おうかな。」



こちらも竹刀を構え、臨戦態勢をとった。体力はすでに大群との連戦、魔法も数える程度しか使えない。が、やるしかない。







相手は三人、華奢な男と村長位の体躯の大男、それに紫色のローブに身を包んだ女だ。



男たちの獲物は両刃の剣と二本の短剣、女は杖。剣士2:魔法使い1のパーティー。十把一絡げの冒険者とは言え、今の俺には3対1はかなり厳しい。



 戦略は…よし、決まった。









月の光に照らされる三人と一人。



 一人は地面を蹴って突進していった。
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