散花

文字数 288文字

「もういいよ、ありがとう」

そう伝えると、あれだけ離れなかった握り拳の親指と人差し指がじんわりと離れ、花開くようにゆっくりとその拳は手を開いた。

その手の儚さを散らさぬよう、もう一度そっと手を重ね直そうとした瞬間、ハッと目が覚めた。


「……レン?!レン!」


聞き馴染みのある声。
うるさい姉ちゃんの声。
泣いてる顔。病院の匂い。機械の音。

「お母さーん!!レンが起きたー!!」

どこからか自分は帰ってきたのだと悟った。

ドタドタと騒がしく走り去って行く姉ちゃんの後ろ姿に、先程の青年を思い出す。

そっと握り締められていた自分の拳を開くと、掌は汗か水か涙か分からないものでまだじんわりと濡れていた。
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