第1話

文字数 1,103文字

 ほっぺたが熱い。きっとホカロンみたいになってるんじゃないかな? あたしは手で自分のほっぺたに触ってみた。でも手も熱いから、よくわからなかった。
 重たい腕を持ち上げてみると、パジャマからにょきっとはみ出た腕が、いつもよりも赤い気がする。
 ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴ。
「ママぁ……」って呼んだけど、ヘナヘナにか細い自分の声にびっくりしちゃった。
 ママは、「38度7分ね」って体温を教えてくれたけど、38度7分がどのくらい高いのかよくわからない。でもたぶん、はぁはぁ苦しいし、熱いのに寒いような変な感じもするから、きっとすごーく高いと思う! 今日はクリスマスイブなのに、ついてないな。
 ママがおでこに手を当てた。ひんやり冷たくて気持ちがいい。それで少し息が楽になって、あたしは不思議の国のアリスがウサギの穴に落っこちたみたいに、眠りの穴に落っこちた。
 まっくらな穴の中をどんどん落っこちていく。穴には底がないみたい。どんどん落ちる。ぐるぐるめまいがして怖くなる。だけど目をつむっているのに、目が回るのっておかしくない?
 もうだめ! と思ったら、水色の鳥がヒューンと飛んできた。あたしをスプーンですくうみたいに背中に乗せて、そのまま上昇する。同時にすうっと体が軽くなった。
 それであたしは目を開けた。あれ? 真っ暗だ。目を開けたはずなのに。どういうこと? 耳をすましたけれど、何も聞こえない。
 あ、そうか。今は夜なんだ。緑色に光っている掛け時計は、もう一時を過ぎていた。
 ……ということは、もうクリスマス!
 あたしはベッドを抜け出して居間に向かった。プレゼントがもうクリスマスツリーの下にあるかもしれない! 
 ドアに手をかけると、灯りがもれてきた。まだパパとママが起きているみたい。私は二人をおどろかそうとドアを少しだけあけて、体を横にしてすり抜けた。
 パパとママがクリスマスツリーに何か飾っている。見覚えがあるあの水色の鳥はもしかして……!
「この折り鶴、どうしたの?」パパがママに聞いた。
「お友達のみくちゃんが作ってきてくれたのよ」
「鶴はツリーに飾るものじゃないと思うよ」
「だって、早くインフルエンザが治りますように、って作ってきてくれたから」
「願い事をつるすのは、七夕だろ」
 もう、ママったら! 思わず吹き出しそうになったけど、グッとガマン! ……したのに、かわりに「くしゃん!」と、盛大なクシャミが出てしまった。パパとママがスゴイ勢いで振りかえったから、あたしは首をすくめて言った。
「MaryXmas! クリスマスの願い事って、即効性があるみたい」

※山本彩さま。どうぞゆっくり休んで、お元気になられますように…。
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み