第1話

文字数 1,139文字

 去る5月の連休明け、地元温泉の朝風呂の更衣室でのお話。
 朝風呂の常連のひとりが、
 「先生よぉ、おれ腸閉塞で入院して、昨日(きのう)退院したぁ~。」
 「それは大変でしたねぇ。孟宗(もうそう)でも食べ過ぎたんですか?」
 「んだんだ!」
 まさに図星だった。話によると、今年は孟宗竹(もうそうちく)が豊作で、朝から晩まで3日間孟宗汁(もうそうじる)を食べ続けたら、4日目の早朝、腹痛で救急搬送されたとのことだった。
 「鼻から腸まで届く、長くて細い管を入れられたでしょ?」
 「んだ、苦しかったぁ~。」
 「1週間くらいですか?」
 「んだ、6日間も入れられでやぁ~。」
 「よくなってきて、雲鼓(うんこ)が出た時は気持ちよかったでしょう?」
 「んだんだ。ホントすっきりしたけぇ。」
 「痩せてスマートになったでしょ?」
 「んだ、5㎏ も痩せた。それにしても先生は何でも分かるんだの。名医だのぅ。」
 かくして名医(?)が誕生した瞬間である。

 ここ山形県庄内地域は群生孟宗竹林の北限地とされ、庄内の人たちは皆、遅い春の訪れとともに(たけのこ)の旬の到来を待ちわびる。特に5月初旬~6月初旬の数週間は、食も話題も朝から晩まで、筍一色になる。
 中でも「孟宗汁」は、孟宗(孟宗筍(もうそうだけ))という孟宗竹のたけのこを使った山形県庄内地方の郷土料理である*。(*農林水産省>>うちの郷土料理>SEARCH&MENU>孟宗汁 山形県 から引用した)食べやすい大きさに切った茹でた孟宗筍、厚揚げ、椎茸、(+豚肉など)を酒粕を加えた味噌仕立てで煮込む。
 筍の旬の数週間は、庄内の至る所、朝から晩まで、孟宗汁のオンパレードである。スナックのお通しや締めにもママさん自慢の孟宗汁。寿司屋でも孟宗汁。居酒屋のメニューにも季節ものとして孟宗汁…。
 また、ネットにはそれぞれ工夫を凝らした孟宗汁のレシピ、作り方の動画が溢れている。

 この筍は 100g 当たり 27kcal と、低カロリーの割に蛋白質やカリウム、食物繊維を豊富に含む。特に食物繊維は水に溶け難い不溶性で、水を含むと膨張して便の量を増やす。ただし、”過ぎたるは及ばざるが(ごと)し”で食べ過ぎると腸が詰まる。
 朝風呂での話は、私があくまで自分の臨床経験を話したまでで、名医でも何でもない。ただ、これが話せるようになって、嗚呼、私は庄内の医者になったんだと少し誇りに感じている。
 んだんだ。

 さて写真は 2024年5月8日筍の旬の盛りの頃、地元居酒屋の季節メニュー「孟宗と牛ハラミのオイスターいため」\ 880- である。

 牛ハラミの肉汁とシャキシャキとした孟宗筍の歯応えがオイスターソースに(から)んで絶品だった。
 これに合わせて飲むハイボールの清涼感との対比が(たま)らなくいい。
 後で腹が痛くならないか心配だったが、大丈夫だった。
 んだ。
(2024年6月)
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