第2話 白鳥くんとブレザー

文字数 1,557文字

入学してから2週間が経った。
クラスではもうグループが形に成りつつあり、休み時間には大小様々な島ができている。
「5時間目は部活紹介タイムだけどさ、小春はもう入る部活決めた?」
ポッキーをくわえながら話すのは、ちーちゃんこと、駒原ちひろちゃんだ。
クラスに同中の子が一人もいないつながりで話し始めたけれど、今ではすっかり仲良しだ。
「見てから決めるけど、一応剣道部に入るつもり。」
警察官の父の影響もあり、私は物心ついたときから剣道一筋だ。
「ちーちゃんはどうするの?」
「イケメンの先輩がいる部活に入るつもり!」
清々しいその理由に、思わずずっこけそうになる。
「体操部とかだったらどうするの。いちから身に着けるのしんどそうだよ。」
「それは大丈夫。私運動神経だけはピカイチだからさ。」
あまりにも堂々としている。でもちーちゃんならなんとかやっていけそうな気がするから不思議だ。
「って、話してる間にもう私たちしかいないよ。」
気づくと周りがシンとしていた。話すのに夢中になりすぎて、5時間目が始まるまであと5分だ。
部活紹介が行われる格技場は、この教室と間反対の位置にある。
「やばい、急がないと。」
教室を後にしようとすると、乱雑に机の上に置かれているブレザーが目に入った。
手に取ると、背中に手首が通るほどの穴が開いている。
これはきっと、白鳥くんのブレザーだ。
白鳥くんを含めた何人かの男子たちは昼休みに運動場でサッカーをしているから、暑くなるのを見越して脱いでいったのかもしれない。
部活紹介には、生活指導の怖い先生が来るはずだ。
ブレザーを着てないことがばれたら、こっぴどく怒られるに決まっている。
「小春!早く行くよ!」
ちーちゃんに声をかけられ、思わずブレザーを手に取り急いで教室を出る。
格技場から教室までは1本しか道がない。
取りに戻った白鳥くんとすれ違うことはないはずだ。
長い渡り廊下を走り、外につながる角を曲がろうとすると、誰かと思いっきりぶつかった。
「いてて…。」
「ごめん、大丈夫?」
衝撃でしりもちをついていると、目の前に白鳥くんの顔があった。
あまりの距離の近さに思わず顔を背ける。
「だ、大丈夫。ちゃんと前見てなくてこっちこそごめんね。」
竹刀で打たれる日々を送っている身からしたら、こんなの痛くもかゆくもない。
「それより、これ。」
手に持っていたブレザーを差し出す。
「持ってきてくれたんだ。取りに戻ってたら5時間目に間に合わないし、まじであせってたんだ。ほんと助かる!ありがとう。」
緊張が解けたのか、白鳥くんが地面にへたりこむ。
普段は爽やかなのに、泣きそうな顔をしていてかわいい。
「二人とも!いちゃついてるところ悪いけどとりあえず入るよ!」
ちーちゃんが険しい顔で私たちを立たせて格技室へと引きずり込む。
クラスごとの列はもうほとんど出来上がっていた。
二人でサ行の列に入ると、白鳥くんはブレザーを着始めた。
右腕を通したあと、そのまま羽を少し広げ、穴へと通す。見た感じ、穴はそこまで大きくなかったけど、羽がちゃんと入るように伸縮性になっているようだ。
続いて左腕を通すと、同じように羽に手をかける…。
「…相馬さん、見すぎ。」
白鳥くんが少し目を細めてこっちを見た。
「ごごごごごめん。私また気持ち悪いことを。」
ブレザーを羽織るところを凝視するなんて、また変態チックなことをしてしまった。
「いいけど別に。このブレザーめずらしいからでしょ。終わったら見せてあげるよ。」
返事しようとすると、5時間目が始まるチャイムが鳴り、白鳥くんが前を向く。
興味があるのがブレザーだと思われたみたいだ。
ほんとは、白鳥くんだから見ていたなんてことは言えない。
剣道部を含め、たくさんの部活が紹介をしている。
なのに、私はぶつかったときのあの顔が、感触しか考えることができなかった。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み