第1話 一話完結

文字数 1,047文字

【ギュイッ、ギュイッ、ギュイッ、地震です。ギュイッ、ギュイッ、ギュイッ、地震です】
 スマホの緊急地震速報の警告音で目を覚ました途端、ガタガタと揺れ出し、直ぐに大きな揺れが襲ってきた。
 ドン、ガシャン、ガラガラガラ。真っ暗な部屋の中に、物が落ちる音が響く。
 身を縮めて、揺れが収まるのを待っていると、地震は一分程で止んだ。ベッドから抜け出して部屋の明かりをつける。積み重ねていた段ボール箱が床に転がり、棚や本棚にあった物が散乱していた。まるで、テレビで見たゴミ屋敷のようだ。
 地震情報を確認しようと思い、スマホを置いていた場所を見た。でも、そこにスマホは無かった。散らばっている物の中に紛れ込んでしまったのだろう。
 後で捜すことにし、テレビをつけた。零時五十分と表示されている下に、テロップが流れている。大きな地震ではなかったけれど、震源地が近くだったために強く揺れたらしい。避難する必要もなさそうなので、取りあえずベッドの周りだけでも片付けることにした。
 床に落ちた本を本棚に戻していると、小学生の時に使っていた地図帳が出てきた。手に取ると、同級生で幼馴染みの(あや)の言葉が思い浮かんだ。
 高校生の時に、この部屋に遊びに来た彩は地図帳を見つけて「まだ持ってるんか。こんなんほかしー」と言ったのだ。
 彩は即断即決の性格で、使う予定のない物は迷わず処分するタイプだ。私は捨てられない性格で、何でも取っておく癖がある。だから、綺麗な包装紙なんかを捨てずにいると、彩から「断捨離、断捨離」とよく言われた。「もったいないし、いつか使うかもしれないから」と反論しても、「いつかなんて()えへん。ほかしー」と一刀両断されるだけだった。
 一度、彩に「思い出の詰まった物は捨てられないでしょう?」と訊いたことがある。彩は平然と「使わへん物やったら捨てられる」と言い切った。信じられないので食い下がったら、「思い出は振り返るものちゃう。作るもんや。後ばっかり見とったら、前に進まれへんで」とキッパリ言われた。
 考えてみたら、彩はその言葉通りに生きている。一人で上京して働き、振り返ることもなく、夢に向かって前進している。色んなものを引きずり、やりたいことを諦めている私とは正反対だ。人生を比べても仕様がないけれど、私の人生にも断捨離が必要なのかもしれない。
 そう思ったら、急に心が軽くなった。
「紙飛行機のように、風の中を自由に進むぞー」
 そう叫んで地図帳をゴミ箱に捨てた。なんだか、新しい人生が始まる気がした。

<終わり>
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