第67話  竜王さん対策会議

エピソード文字数 4,949文字

よし。行くか
うん!

 本日は土曜日。今から喫茶店へのバイトに向かうのだが、華凛も一緒である。

 華凛を連れて行くというのは、前々からの約束だからな。


 でも正直言うと、ちょっと前までは「行きます」とは言ってたものの、行く気はなかった。



 理由は華凛が、華凛として……普通の女の子として人前で振舞えるかが心配なのだ。


 それに余計な繋がりはあまり見せたくないという、消極的な考えを持っていた。

 情報を露呈するだけ、俺達が追い詰められる事になりかねないからな。



 それなのに何故? と言われれば、やはり竜王さんの件で見せた魔樹の対応が決め手となった。


 あいつは信頼できる。

 魔樹は本当に良い奴だ。それに白竹さんだっているし、ママやじいじも優しいからな。


 それともう一つ。

 聖奈が言っていたが、華凛はもっと人との触れあいに慣れさせる必要があると。



 その結果、俺は華凛を出しても問題無いという結論に達した。

 ちょっとでも人前で喋れるようになれば、兄としても嬉しいし、何よりも華凛の為に良い経験になるだろう。


何食べようかな? ねぇどんなのが美味しいの?

どんなメニューでも満遍なく頼まれるからな。一概には言えんが……

まぁ何でもいい。全部タダって言ってくれたし、好きなだけ食べまくれ。

 ちなみに。今日の予定としては……


 飯をご馳走してもらってから、白竹ママが華凛の面倒を見てくれるらしい。そして俺のバイト終了時に一緒に帰ると、そういう段取りとなっていた。



 当然華凛はご機嫌だった。美味い飯にもありつけるし「華凛」として人に紹介する事になるのだから、嬉しくないハズがない。



 そう思ったが、玄関を閉めて階段を降りる時、華凛は少々弱気な声をだした。

でも……本当に大丈夫なのかな?

私。お姉ちゃんがいないと……

大丈夫だって。白竹さん家の人はみんな良い人だから

 ああ、きっと直前になって怖くなったのだろう。その気持ちは良く分かるぞ。

 

 確かに。華凛という立場で人の家にお世話になるのは初めてだからな。

バイトするとはいえ、近くに俺がいるんだ。心配ないだろ?
……うん!

 うん。いい返事だ!


 繋いでいた手を引き寄せて、華凛の腰辺りを持つ。

 そこから肩車をしてやると、一気に走り出した。

 

 ※



 喫茶店のドアを開けると、カランコロンという音と共に店内の人間がこちらを向いた。一番最初に気が付いたのは魔樹だった。


こんばんは。あの……今日はよろしくですっ!
楓蓮さん。あっ! 妹さんですね!
 魔樹が駆け寄ってくると、すぐに紫苑さんや白竹ママまで集まってくる。
この子が華凛ちゃん? んまっ! めっさ可愛いやんかもお!

初めまして華凛ちゃん。ようこそ白竹家へ。

私達はあなたをとぉ~~っても歓迎するわっ! 歓迎しまくるわよっ!

 その声を聞いたのか、白竹さんも厨房から出てくるとフライパンを持ったままクネクネしてやがる。
はにゃ~ん! やっぱり妹ちゃんも可愛すぎるのでし!

ほぅ~! お姉ちゃんが綺麗なら、妹ちゃんもかわいいのお。

よろしくの。華凛ちゃん。

 ついでにじいじまで出てくると、店の店員全員が集まる事態になっていた。

華凛ちゃん。何でもいいですからね。

お姉ちゃんがな~んでも作っちゃいます!

うぅ……

 華凛はみなの集中砲火により、俺の後ろに隠れてしまった。

 まぁ……こうなる事は分かってたけど。

華凛。みなに挨拶しよう
 背中を押して、俺の前に出すと、緊張してる華凛の頭をぽんぽんと撫でる。
白峰華凛です。あの……初めまして

 よし。よく挨拶できたな。偉いぞ。



 何を挨拶くらいで喜んでるんだと思われそうだが、華凛は本当に内気すぎて、ろくに挨拶すら出来なかったんだ。


 聖奈が来てから、こいつはこいつでとても頑張ってる。

 今までの内気な自分を変えようとしている。


 ならば兄である俺はしっかりサポートしてやらなければ。

 

じゃあ華凛ちゃん。あそこに座ってもらって……好きなメニューを頼んでね。何でもいいからね

 魔樹はしゃがんで華凛に笑顔を見せてくれる。


 くっそ優しい笑顔にも驚いたが、こいつの本当の姿って……今目の前に見えてる姿なのだろう。




 蓮に見せる無愛想はただの外面だ。そう割り切ればどうって事はない。

 どちらも知ってる俺からすれば、ツンデレっぽく見えてしまい好感度は右肩上がりであった。


 

 さて。後はみんなに任せても良さそうだな。

 俺が付きっ切りでは華凛に経験値は入らんし、バイトせねばならん。

じゃあすみませんが、華凛をお願いします

私に任せなさい! 任されなさい!

私がワンツーマンでしっかりと華凛ちゃんを見てあげるわっ!

 うぉっ! すげークルクル回ってる。

 今までにない尋常な速さに、魔樹や紫苑さんまでも顔が引きつってやがる。



 さて、ここからはちゃんと仕事しないとな。


 ※


 本日も喫茶店エスペランザは超満員であった。

 土曜日というのもあり、客足は途絶えることなく、次から次へと入ってくる。


 しかし今日はフルメンバーなので、各々がしっかりと仕事をこなす事により、大した混乱もなかった。




 そして華凛がご飯を食べたあと、白竹ママに連れられて厨房の奥に消える。


 ちょっと変わってるママだからな。

 少しばかり心配ではあったが、これも……華凛の為だ。心の中で頑張れよと応援するのであった。

あぁ、行ってしまわれたか。それにしても妹ちゃん可愛すぎるでしょ

 龍子さんはずっとこの調子だ。俺より遅く出勤した彼女だったが、華凛を見るなり、とてもハイテンションになってたからな。



 わりと龍子さんも小さい子が好きなのか、やたら華凛に優しく接していたのは意外だった。意外。とか言うと怒られそうだが。

さて、ここから頑張らないとですね
押忍楓蓮さん! さっさと終わらせましょう

 こういうノリで喋りかけてくる龍子さんは、俺にとって一番気を使わなくて済む。 



 とりあえず。竜王さんの話は店が終わってからだな。


 これは魔樹と事前に打ち合わせしてあったので、さっさと業務を終わらせてしまおう。

 

 

 ※

 

 さて、あのストーカーな竜王さんなのだが、次の日から学校を休んでいた。

 ついでに王二朗くんも休んでいたので、彼女の事を聞けないまま土曜日となっていた。



 もしかして喫茶店に現れるかも。

 そう思ったが木曜日も金曜日も現れず……そして今日も喫茶店には現れなかった。




 最後の客を送り出すと、魔樹はレジ前にみんなを呼び寄せると、クールな表情で口を開いた。


みなさん。ちょっと今日は重大な話があります。

できれば掃除の作業もささっと終わらせてくれると助かります

分かっていないのは龍子さんと紫苑さんだな。


俺は魔樹に言われたとおり、掃除の作業をささっと始めると、白竹さんも魔樹も急ぎだした。

どしたん? 店になんかあったん?
ちょっとみんなにお話があるの。魔樹くんの言う通りにしましょ

 そう言うと龍子さんは暫く考えてから「分かりました」と訳も聞かずに動き出した。



 そして十五分ほど。いつもの掃除を終わらせると、みんなが一つの丸いテーブルを囲むように座ってから、魔樹が立ち上がる。

この前の水曜日の事なんだけど。みんなに聞いて欲しい
 魔樹はこの前の竜王さんの件をみなに説明していくと、すぐに顔色を変えたのは龍子さんだった。

なんだと? 楓蓮さんが?


魔樹! どういうことだよ。

待って龍子さん。最後まで魔樹くんの話を聞いて下さい

 説明の最中にも関わらず、マジキレ顔をぶつけてくる龍子さん。既に爆発寸前だった。


 それでも我慢しながら聞いてくれる龍子さんに、魔樹は分かりやすく説明する。

 

という訳なんです。


だけど、どれだけ危険なのかは実被害が無いだけに何とも言えないけど……

僕には彼女が……とても危険に感じたんです。

いあ。それはヤバい。

見たその日に尾行するとか、しらばっくれる神経の図太さとか、ありえねーだろ。

つーか。楓蓮さんに危険が及ぶようなら……

どんな相手でも俺が真っ先にぶっ殺してやる。

 完全にキレッキレモードに移行した龍子さんだったが、黙っていないのは紫苑さんもだった。

楓蓮さん。それやったらウチにも言ってくれたらよかったのに
 やたらエキサイトする二人に、俺と魔樹は今後どういう対応を取るのかを説明すると、ここでも反論したのは紫苑さんである。
そんなん危なすぎる! 楓蓮さんがあの子の気を引くなんて
大丈夫です。こういうのは慣れてるし、襲われても対応出来る人間の方が良いでしょ?
紫苑さん。僕も再三楓蓮さんには忠告したのですが……
 おいおい魔樹。お前はどっちの味方なんだよ。


 まぁそれがお前の本音なのだろうが……

心配いらない。大丈夫だから

 ここは絶対に納得してもらわなきゃ困る。

 どう考えてもこの方法が一番安全なんだよ。

はぁ……

 溜息を漏らすのは龍子さんだ。みんな彼女がどういう意見を出すのか待っている。

 一番気象が荒いイメージがあるからな。


 

 反論されてもここは絶対に引けない。

 そう思っていたが龍子さんはあっさりと「それがいいな」と納得してくれたのだ。

だって楓蓮さん。その顔見てると、どうせ……何を言っても無駄でしょ?
はい。何を言われようと考えを改めるつもりはありません
すると龍子さんは、ニヤ顔をお見舞いしてくると、こちらも同じようにニヤけ返していた。
こりゃ龍子では説得できない。俺がいくら意見を出したとて、楓蓮さんは考えを変えるつもりは無いだろう。ここは彼女の意見に従った方が良さそうだ

紫苑。魔樹。それに白竹さん。みんなは知らねーとは思うけども、楓蓮さんの強さは本物だ。俺がよく知ってる。

その辺のヤンキーが束になっても絶対に負けねーから。

 まさか龍子さんが俺の意見に賛同してくれるとは思わなかった。

 

 そのおかげで、俺の提案に反対する者は誰もいなくなる。

いや~流石楓蓮さんだ。俺だってその立場になりゃ同じことを考えたでしょう。

強い奴が最前線に立つのはどの世界でも一緒だからな

本当は俺が変わりたいんだが……

そのストーカー女が楓蓮さんから俺に鞍替えす可能性なんてゼロだろ。

 一人で笑う龍子さん。他のみんなは何も言えない空気となった。

 俺も何て言ったらいいか分からん。

だけど、油断だけは禁物ですよ。って。そんな事言わなくても分かってるでしょうし
うんうん! 全然大丈夫だから。私に任せて
ぐはっ! 正面からモロに楓蓮さんスマイルを……
 とびっきりの笑顔を見せると、すぐに顔が赤くなる龍子さんであった。何で赤くなるのか、今でも理解できないぜ。

 この場合は裏で楓蓮さんを護衛する方がいい。

 表立って彼女を守ろうとしても反発されるのは目に見えてる。


 しかし……この確固たる自信と、みなを守ろうとするその優しさ。

 それに付け加えて、この美貌と可愛さだからな。そりゃストーカーも尾行したくなるっつーの

 とりあえず竜王さんが喫茶店に来た場合、俺が対応する。

 それで様子を見ようという方針にみなが賛成してくれると、魔樹はようやく椅子に座るのであった。

みなさん。ご迷惑をおかけしてごめんなさい。私があの……彼女に接しなければ……
それはみゅ~ちゃんの責任ちゃうで。謝る事ないからな
そうですよ。悪いのはあの子ですからね。気にしないで
やたら落ち込む白竹さんを励ましていると、腕組したままの龍子さんは一つ提案を出した。

まぁ。こちらも待ってるだけじゃダメだ。色々やれることはやっとかないと。


とりあえず俺は虎のメンバーに伝えておく。水色の女を見かけたらすぐに報告しろってな

 おおっ。それはありがたい。

 そーいう仕事は人数が多い方がいいからな

ついでにその女の事も調べさせてみよう。このままじゃ情報が足りなさ過ぎるし。

そーいうヤバい奴はバックに何かいるかも知れない

龍子さん。ありがとうございます
当然だ。ここの喫茶店の連中に手を出す奴は……俺だって許さねぇ

 ここにきて龍子さんの存在というのは……こんなに心強いのかと改めて実感した。 


 みんなにも安堵の表情が浮かぶと、きっとここにいる全員がもそう思っているに違いないと思った。

 てゆーか魔樹! お前ちょっと……楓蓮さんに近づき過ぎじゃねーか?

 俺も戦果をあげねーと、こんな奴に楓蓮さんを取られたら……ストーカー云々の話じゃねーぞ!

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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