5.Vuetnum

文字数 2,888文字

 
ゴジラは中越国境に迫ります、このままではアジアの、いや、世界の危機に……。
 最終決戦の時は刻々と迫ります。



 ゴジラが中国入りしたのとほぼ同時に、危機感を募らせたベトナムの呼びかけでASEAN各国の軍の代表が対策を協議するために集結していた。

「中国は意図的にゴジラを泳がせているのではないか?」
「十中八九そうだろう、あのやる気のない攻撃はポーズ、手をこまねいているわけではないと言うアリバイ作りに過ぎん」
「ああ、我々の軍が疲弊するのを期待しているのでは?」
「それどころか交渉のネタにしようと目論んでいるかも知れん」

 そして、危惧していたことが現実となった、ゴジラはほぼ無傷のまま南下を始めたのだ。

「核ではゴジラは倒せない」
「通常兵器をどれだけつぎ込んでもゴジラには通用しない」
「ゴジラを倒すには叡智を結集した技術力が不可欠だ」
「だったら答えは見えているのではないか?」
「ああ、しかも彼らなら信頼に値する……」
 切迫した議論は唯一無二の結論に達した。

「日本に助けを求めよう! それしかない!」
 


「メカゴジラ一号は自衛隊の所属、自衛隊の海外派遣になりますが、よろしいですね?」
 今回ばかりは異論は沸きあがらなかった……ごく一部の市民団体を除いては。

 とは言え、メカゴジラ一号は専守防衛を旨に建造されている。
 ロケットエンジンを備えてはいるものの、ゴジラが向かっているベトナムまでは到底飛ぶことは出来ず、しかも一度ロケットを使ってしまうと燃料注入に時間がかかるのだ、しかし、どのみち中国からは救援要請もないので船でベトナムを目指す。
 メカゴジラ一号は、日の丸と旭日旗を誇らしげにはためかせた『いずも』に仁王立ちとなり南シナ海を進んで行く。
 途中、台湾やフィリピン、香港の漁船までが『いずも』を取り囲んで歓声を上げ、手に手に日の丸を振る、堂々たる行軍だ。

 いまやゴジラはアジア全体の、いや世界共通の脅威、さすがにこの作戦に関しては中国も領海航行を認めざるを得ない、『いずも』は『牛の舌』を堂々と横切ってハイフォン港に到着、大歓声に迎えられて上陸したメカゴジラ一号は南下を続けるゴジラを待ち受ける。

 首相官邸にはMG-1オペレーション本部が特設され、ゴジラとメカゴジラ一号に精通した首相がモニターを見つめていた。


 中越国境を越えて進んで来たゴジラは、銀色に輝く宿敵の姿を認めると地を震わすような怒りの雄叫びを上げる。

 最終決戦の火蓋は切って落とされた。

「なんてヤツだ、わずかの間にでかくなってやがる……」
 メカゴジラ一号のコックピットで機長が唸った。
 東京で対峙した時はむしろメカゴジラ一号の方が少し大きかったぐらいなのだが、この短期間でゴジラは一回り、いや二回りも大きくなっている、しかし、ここで怯むわけには行かない、いまやメカゴジラ一号は人類唯一の希望なのだ。
 
「来るぞ!」
 ゴジラの背びれが光ったのを見てコクピットのシャッターを下ろす、ボディは超合金で出来ているが、いかなる耐熱ガラスでもゴジラの熱線は防ぎきれないのだ。
 しかし、シャッターを下ろすのと同時にメカゴジラ一号はアンカーを発射していた。

「ギャオォォォォォォォ!」
 雲を切り裂く苦悶の咆哮。
 アンカーは弧を描いて飛び、ゴジラの尾の付け根、第二の脳の付近に突き刺さった。
「今だ、高圧電流!」
「ギャオォォォォォォォ!」
 ゴジラが悶絶、メカゴジラ一号はテコンV-1を一蹴した尻尾攻撃を封じると共に、ゴジラの下半身を司る運動神経を麻痺させることに成功した。

「また来るぞ! 今だ!」
 ゴジラが二度目の熱線を吐こうと背びれを光らせたその瞬間を捉えてメカゴジラ一号のロケットパンチが発射され、アッパーカットを食らわせてゴジラの口を封じた。
「ギャ、ギャ、ギャァァァァァァ!」
 吐き出すはずだった熱線がゴジラの体内に逆流し、さすがのゴジラも怯む。

「チャンスだ、行くぞ! ロケット噴射!」
 メカゴジラ一号はロケット噴射で勢いをつけてゴジラに体当たり、しかし手負いとは言えさすがに怪獣王、メカゴジラ一号をがっぷり四つに組みとめる。

「何のっ! 二段ロケット噴射!」
 体格に劣るとは言え、二段ロケットのパワーでメカゴジラ一号はゴジラをずるずると後退させる。
「日本の国技を舐めるなよ! ハズ押しだ!」
 メカゴジラ一号は両手を相手の脇にあてがって体を浮かす相撲技を繰り出してゴジラを海に押し出し、そしてそのまま一気に沖へと運ぶ。
 ゴジラもやられたままではいない、渾身の力をその右腕に込めた突き落としを放つと、メカゴジラ一号も仰向けにされ、両者の体は離れて共に海に沈んだ。
 
 一分経過……二分経過……海面に動きはない。
「どうなった? 勝ったのか?」
「もしメカゴジラ一号が負けたら世界は、人類はどうなる?……」
 全人類が固唾を飲んで見守る中、海面が盛り上がる。
 そして、ロケット噴射で海中から姿を現したのは銀色に輝くボディ! メカゴジラ一号だ!
 現場で、そしてTVの前で、大歓声が沸きあがった。
 
「首相、ゴジラは潜水したまま逃走中です、追いますか?」
 機長からの通信に、首相は満足げに答えた。
「いや、戻りなさい、メカゴジラは基本的にはカナヅチ、水中ではゴジラに分があります、深追いは無用、目的は果たされました、我々の勝利です」
 
 再び地上に降り立ったメカゴジラ一号は大歓声に包まれ、各国の代表からは祝福と感謝のメッセージが次々と発信され、メカゴジラ一号から降り立ったクルーは最高の礼と紙吹雪を持って迎えられた。

 

「あの時、もう少し追えばゴジラの息の根を止めることも可能だと思いましたが……」
 帰路につく『いずも』の船上。
 爽やかに吹き渡る潮風に吹かれて首相からねぎらいの通信を受けたMG-1の機長。
 晴れやかな表情だが、一抹の無念も覗える。
「ゴジラの追撃を命じられなかったのは、我々クルーをお気遣いになってのことでしょうか?
「もちろんそれもありますが、我々の戦いは専守防衛ですから脅威を退けることが出来ればそれで良いのです、今、ゴジラに対抗できるのはメカゴジラ一号だけです、そしてそれを作り上げる力をわが国は持っている、今回の闘いでそれを証明することが出来ました、私が考える抑止力とはそのようなものなのです」
「なるほど、良く理解できます」
「それに、私はむしろゴジラがまだ生きていて良かったとすら思うのですよ」
「それはどういうことでしょうか?」
「世界中で我々だけがゴジラに対抗する術を持っています、核にも屈しないゴジラにね……そのことが大変重要なんですよ」
「と、仰いますと?」
「核で威すのではなく、人類共通の脅威を退ける力を持っていることでイニシアチブをとれますからね」
 首相はいたずらっぽくウインクをして見せ、機長も敬礼しながらウインクを返した……。
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