第4話 AYAME16との出会い

文字数 2,295文字

 夏休みが待てない慶一は、東川高校をすっかり休みがちになっていた。
「どうにも心が乗らない。」…だけでなく、毎日の授業は彼にとって、ただの時間の浪費のように感じられ、街の喧騒や人々の生き生きとした表情に惹かれるようになっていった。
 慶一は、暇があれば特定のインスタを見てすごしていた。
 お気に入りのページにはグリ下でダンスに興じる10代の女の子達が居た。慶一にとって、それは可愛い女子たちのダンスというだけではない、あどけなさ、恥ずかしさの中に、、慶一には彼女たちの声がダイレクトに響いていた、気恥ずかしいくらいに。

 「私を認めて!」という様な切ない声が聞こえる。…「俺と一緒だ。」

 その日も、夏の蒸し暑さを背中に感じながら相棒のゼファーを駆り、街ゆく人々の笑顔や街の活気に触れると心が少しずつ満たされていくのを感じた。道頓堀川のほとりまでやってきた。

 道頓堀川の辺りにバイクを停め、グリ下界隈まであるインスタの投稿を観ながら歩いて行った。 

 お目当ては、AYAME16。
 中学生と覚しき制服のままでキレのあるシンクロナイズドダンスを見せている子だ。AYAME16の後ろには、いつもグリ下界隈の何処かと思われる戎橋桁下の灯火がある一角。
 そのダンスは、慶一が今まで見たどんなダンスとも違っている。 彼女の動き一つ一つには、言葉では表せないような激しい情熱と、どこか切なさが溶け合っているように感じられる。その踊りはただのパフォーマンスではなく、彼女の生きざまそのもののように思える。

 慶一は今日もAYAME16のインスタを見始める。
 母親との関係、家庭の状況、そして自分自身との葛藤。すべてが彼を重く押し潰すようで、息苦しさを感じていても、そのダンスを見るたびに、その息苦しさが、少しだけ和らぐような気がした。
 気づくとDMを、一応遠慮がちに打ってしまう、、毎日の様に、今日も。
 
 Kei1Zepher
 この動画は面白い!ウェーブのセンスあって3人とも可愛いわ!
 7-1
 AYAME16 投稿者
  ♡♡♡♡♡!
  7-1 
Kei1Zepher ➤ AYAME16
 AYAME16も隣の子もダンスめちゃセンスある!
  7-1
 AYAME16 ➤ Kei1Zepher
  隣の子って誰?向かって右隣の子?
  7-2 
 Kei1Zepher ➤ AYAME16
 そう!みんな可愛いし、仲間がいるっていいね!
  7-2
 AYAME16 ➤ Kei1Zepher
  もいちゃん仲間じゃないし、たまたま知り合って遊んだだけ〜
  7-2
 Kei1Zepher ➤ AYAME16
 え?一緒にいる子たち皆センスある動きだけど、即興なの?
  7-2
 AYAME16 ➤ Kei1Zepher
  そうだよwww グリ下で相方見つけてやってるよwww
  7-2
 Kei1Zepher ➤ AYAME16
 凄いwww! また楽しみにしてます!
  7-2
 AYAME16 ➤ Kei1Zepher
  wwwwww 

 夕方、道頓堀川のほとりには人が少なくなり、夕日が川面に映え、その光が周囲を柔らかく照らしていた。
 慶一は、その光の中を歩きながら、もしかしたらAYAME16に会えるかもしれないという期待を胸に秘め、今日もダンスを踊っていた戎橋桁下の灯火がある一角に向かっていた。彼女が投稿した写真を手がかりに、慶一は川沿いを歩き続けた。そして、戎橋に差し掛かった時、聞いた事のあるEDMの音が聞こえてきた。
「いる!」
 慶一は立ち止まり、その方向を見つめると、そこにはスマホの画面で見た通りのAYAME16が、一人で踊っていた。
 彼女は、まるで世界の全てを忘れて、ただ自分の感情を表現するかのように踊っている。その姿は、慶一が画面越しに見た時以上に、生々しく、力強かった。

 慶一は、しばらくその場に立ち尽くしてAYAME16のダンスを見守っていた。そして、彼女がダンスを終えたところで、勇気を出して声をかけた。
「すごいダンスだね。インスタで見てたけど、実際に見るのは全然違う!」
 AYAME16は、最初は驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔に変わった。
「ありがとう。あなたが見てくれていたんだね。」
 AYAME16はダンスをしながらも視線を感じていた。
「AYAME16ちゃんだよね?」
「そうだよ!」
「いつも見てるよ。毎日かな、、」
「え?嬉しい!」
「いや、それどころか、、DMも毎日打ってしまってる。かも、、」
「あ!、、もしかして、Kei1Zeフィーさん?なんか毎日くるな〜って。」
「Kei1Zepherだよ。覚えられてたんだ、、キモいよね。」
「毎日って珍しいから。何だろ?って。」
「いや、何も疚しい事ないので!、、いつもここで踊ってるの?」
「そうだよ。」
「又、、、見に来てもいいかな?」瞳をじっと覗き込んだ。
「うん、いいよ!」
「よっしゃ!」慶一は、満更でもない表情をしているのを見てホッとした。
 キモいと思われない様に、、踵を返してバイクの方へ向かって歩き、夜も暗くなった道頓堀川に向かってZepherを走らせた。

「どこかで会った事、あったかな、、気のせい?」
 AYAME16は、慶一に何かを感じていたが自分自身でも、その何かが分からなかった。

 「AYAME16、、俺とおんなじ虚ろな眼をしてた。あんなに注目を浴びてるのに?、、俺の思い過ごしか。」
 フルフェイスヘルメットの中で、彼の頭の中は未だスマホの画面に釘付けになっていた。画面に映し出されているのは、AYAME16が踊る姿。
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登場人物紹介

二条 のり子 スナック二条の経営者 48才


養護学校で育つ。出自は不明だが母親を知らずに育つ。


気持ちを重視し正直に、今に生きている。男に騙される経験は何度も何度も。弱さを曝け出して生きている。

酒も、人も、楽しいのも好き。

自身、母子家庭で母親に育てられた。

潤の死後、女を武器に生きていかなければならない環境で、強かに、男の力を利用して逞しく生きている。


スナック二条を経営。パトロンに対して、大人の付き合い、肉体関係もあるのか? 愛するまではいかないのか?現実の対応。

相手には妻もいる。

いつも男の影がある。生活のために働いていても、、子供のためにも働いても、息子である慶一にとって、母親として不満。

慶一は、母親は俺を捨てている。と思っている。自分勝手にイキリ立っているのか?

二条 慶一 17歳

のり子を母に、潤が父。早くに潤を亡くし、母子家庭で育つ。東川高校2年生。


母親のスナックを手伝い、母の困り事、フォローを一身に担っている。

他の男と関係や店の良い客の声など、安心して住める環境でない。家にいないのを望んでいるかのような素振りもある。「自分を捨てられている」と感じている。自分勝手に生きていると思っている。自立を望み、早く大人になりたい。

消えた父、強い男に憧れる。

「母親は俺を捨てている。」と思っている。子供として扱ってくれなかった母親。

水商売 遅くまで酒を飲み、だらしない姿。何処かへ出掛けて帰ってくる。

母親は酒を飲んで、いつも男の影を感じる。母親の中に女を見る寂しさ。

甘える先、居場所がなく、早く出ていきたい。

外村 晃

パトロン。二条のり子を囲っている様子。

元々、二条潤の上司であり、東京セラミックの会社役員。


潤が死ぬ前、のり子の面倒を見る。と、潤と約束していた。

二条 潤 行方不明 46才で死去。

事業運営者。サラリーマン。

スポーツ、学業もできたエリート。

子煩悩でよく遊んでくれた記憶がある。琵琶湖もよく連れて行ってくれた。

仕事も順調に社内で昇進していた。しかし、ある日忽然と消えす。


不正、不義を許さなかった、そして、、不審死を遂げた。

バロン。こと、辻村 翔治。

養護施設で育つ。自ら親がない、親に捨てられた。養護施設で保護され、育った生い立ちから、非行、犯罪、喧嘩、アルコールに溺れた時期もあった。しかし、根っからの優しさ、面倒見の良さ、グリ下で出会った少年少女達に自らを重ね合わせて、居場所のない子供達を支援する活動を始めている。

流山 トー子 15歳

父親から身体的、性的に虐待され、行き場所もなく、所謂、案件をこなして食い繋ぐ少女。左腕には無数のリストカットの痕。いつも死にたいと思っている。今日もちゃんと生きていた。と日々生きるのが精一杯。


慶一と繋がり、そして恋をした。

宿した命は、生きる決意、生きる理由、生の十字架を背負った。と思っていた。

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