第1話
文字数 3,300文字
《カタストロフィーカウンター:62》
「あと一分」
「駄目だ……もう終わりだ」
仲間の一人が呟く。顔をグシャグシャにして、涙や鼻水を垂らしながらブツブツと呟いている。
うるさいな。こっちまで不安になってくる。やめてくれよ。勘弁してくれ。
名前は……確か平田とかいうオッサンだ。前回からこのハンティングサバイバルデスゲームに参加してなんか生き残ってるデブだ。
「死ぬ……確実に……俺は……駄目だ! ワアァ! ここで!! 次のハンティングで!! 死ぬ!! 俺は死ぬ!!」
「落ち着けよ、大丈夫だ。俺達なら生き残れるよ」
「予感がする!! やばい!! 死ぬ!! ちッくしょう!! 俺はもうすぐ死ぬ!!」
「嫌だ……死にたくない……嫌だ!」
「大丈夫だよ、落ち着こう、少し落ち着こう」
「チクショウ、チクショウ、吐き気がする、気分が悪い」
平田や関口のデブ二人のせいで空気が悪い。どいつもこいつもシケタ面しやがって。
人間いつか死ぬんだし、それにカタストロフィーは全世界で起こる。だったら狩人として戦っていた経験と武器がある俺達の方がよっぽど生存率は高い。
「人間の命は重くなんか無い!! 神はいない!! みんなどっかで、神がいると思っている!! だけど神はいない!! いない!! 神の慈悲があれば化物との殺し合いなんかしなくてすんだんだ!!」
「ソウだ、悪魔だ。悪魔のいけにえなんだ」
俺達は毎日、夜にある場所に集められて、武器と防具を渡されてハンティングゲームをやらされていた。
殺されれば死ぬし、傷を受ければ痛い。しかしすぐに治る。死なずにエリアをクリアすれば『次』のハンティングまで安息が与えられる。
それを繰り返して三年、古参のやつらはほぼみんな死んで、生き残っているのは俺、親友の羽田、そして吉田だけだ。みんな男だ、クソ。
「むしろ悪魔のほうが説得力がある。厄災は確率論を無視して重なっていく……この世は悪魔に翻弄されるだけの場所なんだ」
ちっ、気が滅入る。
俺は隣に立っていた吉田に小声で話しかける。
「カタストロフィーカウンター、どう思う?」
「普通に考えればその名の通り崩壊する。世界が崩壊するのか、何か特別な事が起きるのか、既存の状態とは別の状態になる……って話だよね。佐々木さん」
「そりゃあそうだけど、まぁ、これ以上情報もないし、精々死なないように頑張るしか無いか」
「だね、最前を尽くすよ」
《カタストロフィーカウンター:00》
景色が一転する。
空だった。
落下している。
何で空に転送!? 馬鹿! すっごい馬鹿!
「うおおあおおお!!!!!」
「飛行バイクを起動しろ!! 飛行バイク!!」
「やってる!! やってる!! 回収する!!」
飛行バイクを所持していた羽田が、重武装で身を固めた俺を確保して、後ろのバックスペースに放り投げる。
「レーダーに感があり!! 熱源が接近中!! 熱源が接近中!!」
「うああああ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「うるせぇなぁ!! おい、こいつ捨てようぜ!!」
「お前は黙って迎撃しろ!! 熱源の規模からいって大型だぞ!! 油断してれば一瞬だ!!」
「わかッたよ、クソ」
「姿は見えない!! 透明化を使ってやがる!!」
「光学迷彩かよ!! めんどくせーなぁ!!」
俺はコの字型の《軽量超次元重力加速爆裂反応徹甲榴弾ショット砲》、通称、軽ショをショットガンモードに切り替えて迫りくる謎の生命体に撃ちまくった。
甲高いキンキンキンキンキン!!!! と音と共にレーザーのような蒼い光が放たれる。
直撃した軽ショの弾丸が、蒼い爆発を引き起こす。すると敵の光学迷彩が解除されて、その姿が顕になる。
「こいつは……ドラゴン!?」
「超熱反応!! 恐らく炎のブレス!! 回避運動をするぞ、振り落とされるなよ!!」
「了解、頼むぜ。丸焼けなんてゴメンだ」
ドラゴンは大きく息を吸い込むと、炎を吐き出した。しかし俺達の知っている炎ではなかった。粘着性のあるドロリとした液体だ。
「なんだ!! あれは!!」
「わからん!! そっちのスコープで成分解析をしてくれ!! こっちは回避運動で精一杯だ!!」
軽ショのスコープを、成分解析モードに切り変えて様子を見る。その間に味方の飛行バイクがドラゴンの吐き出した液体に飲み込まれた。
「う、うわ、ああああああ!!」
「熱い!! 熱い!! 体が溶ける!!」
味方の犠牲を気にする暇はない。
ピッと音が鳴って、成分解析が終わる。
「あれはスライムだ!! しかも酸性!! 触れれば一瞬で溶かされる!!」
「硫酸ってやつか!」
「知らん!! こっちは中学生だぞ! 漫画の知識しかわからん」
「で、ドラゴンは、どうする?」
「殺すに決まってるだろ。ここで逃げたら、追撃されて終わりだ!!」
「了解、広域通信で味方の飛行バイクへ参戦を呼びかけるわ」
「こっちも弱点を探す」
俺は軽ショを様々なモードに切り替えながらドラゴンに向けて砲撃を撃ち込む。キンキンキンキンキンと軽ショの砲身が赤く染まる。
『こちら羽田だけど、佐々木はドラゴンを狩るつもりらしい。やる?』
『マジかよ~嫌なんだけど』
『つっても追撃されればやばいしな』
『やるしかなくない?』
『やりましょう』
『オーケー、クソトカゲめ!! ぶっ殺してやる!!』
羽田が俺に叫ぶ。
「ドラゴンを狩る! ぶっ殺せ!」
「おおし!! やるか!!」
「重ショット持ちがやる。それまでは俺達は囮だ」
「わかった。シールドを展開する。デコイはどうする?」
「狙いがバラけるとやりつづらい、このまま逃げ切るぞ!!」
「なら、俺はあの目玉を狙い撃つ」
「やってみろよ、下手くそ」
「うるせぇ」
羽田が煽ってきた通り、俺の軽量ショット砲はドラゴンの装甲を削るばかりで致命打にならない。軽量ショット砲は威力は低いが、連射と多様なモード変更ができる。
逆に重ショット砲は威力は嘘みたいに高いが、発射まで時間が掛かるし、高威力の次元湾曲重力崩壊現象を引き起こす攻撃しかできない。つまり一撃必殺だがトロい。
「ちっ、カスダメにしかならない。どうする?」
「このままだ、このままが良い……このまま、逃げ切る」
「いけるか、信じるぞ」
俺は飛行バイクに捕まりながら、羽田の操作する高機動に耐える。そして遂に神の一撃が舞い降りた。
まず光が失われ、そして赤い回転する光が生まれる。それを中心にあらゆるものが吸い込まれていき、全てのものをシュレッダーに紙を食わせたときのように噛み砕いていく。
「はははは!! 重ショット砲は痺れるなぁ、オイ!!」
「こっから先はどうする?」
「さぁ?」
その時だった。
全員の基礎防御アーマーに内蔵されたスピーカーから音声が再生される。
《君達をデスゲームに参加させ、そして最後にこの世界に喚んだのには理由がある。この世界に存在するスライムをすべて殺してほしいからだ》
「何だ、この放送」
「しらね」
《この世界はスライムによって危機にひんしている。農作物、家畜、そして知的生命体。そのすべてがスライムによって捕食されようとしているのだ》
「ふーん」
《私達は君たちの世界に接触し、魔法技術を教えた。代わりに我々はデスゲームを生き残った戦士を要求した。そして君たちは異世界の危機を救う勇者として選ばれた戦士たちなのだ》
「勝手な話だ」
《頼む、どうか、世界を救ってくれ。これを聞いている全ての異世界の戦士達にお願いする。どうか、私達の国を、文化を、営みを、あの無秩序に増えるだけの存在に食い尽くさせないでくれ》
「佐々木さん、羽田さん、お疲れです」
羽田と俺のところに、飛行バイクを操作して、吉田もやってくる。
「やるしかないでしょう」
「だな。これから頼む」
「こっちこそ」
俺達は異世界の戦士としてチームを結成した。
軽ショット砲と近接ブレードを扱うレンジャー型の俺、佐々木勇人。
飛行バイクと重ショット砲や搭載した重火器を扱うハイパーパワー型の羽田聡太。
飛行バイクと重ショット砲、搭載された補助道具を扱うテクニカル型な男、吉田昂。
異世界で起こるスライム・ハザードを止める為に、地球出身の戦士たちは立ち上がる。