第11話  出会い

文字数 1,216文字

 受験失敗した裕翔は、浪人生となり東京でクリニックを営む祖父の家に同居して予備校に通う事になった。
 午前中は学科試験の予備校、午後は絵の予備校に行く事にした。
 絵の予備校は同じ志を持つ仲間達がいて、刺激になり浪人中とはいえとても楽しかった。
 東京は美術館や博物館が沢山あり、それを見ることにも夢中になった。
 毎日が充実していて、札幌での出来事はあまり思い出さなくなった。
 あの事から美樹とは気まずくなり、卒業後も会うことはなかった。
 東京でお兄さんと一緒に住んでいることは知っていて住所もわかっていたけど、連絡はしていなかった。
 会いたい気持ちもあったが、卒業式の日のあの態度では会ってはくれないと思ったからだ。
 

 来年77歳の喜寿になる裕翔の祖父は、絵心があり裕翔の美大の受験にも協力的だった。
 勉強だけでなく、感性を磨く為に有名な絵や彫刻を見ることを勧めてくれた。
 裕翔は予備校の仲間を呼んで、祖父の家で食事をしたりスケッチ旅行を兼ねてハイキングに行ったりして楽しく過ごした。
 瞬く間に時は過ぎて、受験が始まった。
 しかし、裕翔はまたも受験したすべての美大に落ちてしまった。
 落ち込む裕翔に祖母が、ファッション系の専門学校に行くことを勧める。
 祖母は若い頃の夢は、婦人服のファッションデザイナーに成りたかったと裕翔に話をした。
 絵はデザインをすることでスタイル画が描けるし、今は男性のデザイナーの時代だと言われた。
 最初は躊躇(とまどう)っていたが、裕翔は祖母の夢を叶えようと思い入学を決意する。
 裕翔の選択を祖母は、とても喜んでくれた。
 
 4月になると裕翔は専門学校の入学式で、隣に座った琢磨と話をすることになった。
「隣に座ってもいいかな?」
 琢磨は、一人で座っている裕翔に話かけてきた。
「空いてるから、どうぞ」
 裕翔は琢磨を見て、丹精な顔立ちの青年だと感じた。
「ありがとう。ねえ君、背が高いからモデルのなの?」
 初対面なのに挨拶もしないで、いきなり失礼な質問をする琢磨に、裕翔は嫌悪感を持った。
「違うよ」」
「そうか、僕なら間違いなくスカウトするのにな。ねえ、モデル事務所に知り合いがいるからやって見ない?」
「嫌だよ。それより、君がやったらどう。男前だし」
「僕は、背が低いからダメだって断られたよ。ねえ、どうやってみようよ」
 しつこい琢磨の誘いに、裕翔は嫌な気持ちになり、片方の眉毛を吊り上げて答えた。
「考えてみるよ。それより、君の名前は?」
 裕翔はつけっどんに聞いた。
「ああ、ごめん。名前まだ言ってなかったね。僕は柴崎琢磨」
「へえ、カッコイイ名前だね。僕は中村裕翔」
「裕翔君か、よろしく同じクラスになれるといいね」
  琢磨は侘びながら、裕翔に手を差し出し笑顔で握手を求めた。
  整った顔立ちの琢磨が微笑むと、キラキラした笑顔になり裕翔には眩しかった。
  裕翔の琢磨に対する第一印象は少し悪かったが、その美しい笑顔で一掃された。
 
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登場人物紹介

上島美樹 フランス大使館に勤める女性で裕翔の幼馴染

中村裕翔  イケメンで美樹とは幼馴染、レディースのファッションデザイナーを目指すがゲイであることに悩む男性

柴崎琢磨  裕翔の恋仲になる美男子だが小柄な男性、裕翔を同じくファションデザイナーを目指している。出世のためにゲイのように装うバイセクシャルだが、マレで有名になる。


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