第4話(9)

エピソード文字数 2,307文字

「私に、思い当たる節はないのだけれど。クーさん、それはなんなの?」
「あれだよ、あれ。どうやって、ボウヤ襲撃を説明するかだよ」

 あ、そうだった。それが残ってたよ。

「アタイら以外の者にとっては、気が付いたら刺そうとした輩が消えてるんだからね。当惑するのは言うまでもないよ」
「そう、だよねぇ。それはどうするかなぁ……」

 育月達は時間が止まっているので、空間を解いたら男が俺に飛びかかる辺りから始まる。これ、上手く誤魔化せないよな。

「………………フュル。記憶を弄る魔法は、ないんだよね?」
「魔法先生は、万能やないきねぇ。そんなのはないがよ」

 そう、だよなぁ。それだから、母さんの問題で四苦八苦したんだもん。

「育月ちゃんたちは、ハテナーになっちゃうよねー。にゅむむ、困ったよー……」
「こういう時の定番は、夢でも見てたんじゃないの? なのだけど……。それは無理があるわよね」
《従妹たち 客も沢山 居たもんな》
「皆が同じ夢を見るのは、おかしいぜよ。別の手を考えないかん」
「……………………いや、それでいこう。強引中の強引だが、他では不可能だ」

 犯人はいずこへ? なんのために、優星の心臓を奪おうとした? 掌でナイフを止めた橙式ちゃんは何者だ?
 こんな疑問を、口で解消できはしない。このやり方でいかざるを得ないでしょう。

「しかし師匠、どう納得させるが? ワシが逆の立場先生だったら、夢って言われても腑に落ちんぜよ」
「………………納得させられる説明なんて、どう頑張ってもできない。だからもう、力業で押し通す!」

 意外と力業で上手くいくもんじゃ。いかん時もあるけどな。
 俺は、母方の爺ちゃんの迷言に従います!

「にゅむ? 『力業』ってどーやるのー?」
「全員、チャラ男が話しかけてくる前のポジションにつく。そんで地球に戻った瞬間、何事もなかったように片付けを始める。……詰まる所、目で夢だと思い込ませるんだよ」

 俺らが平然としていたら、騒動が起きたとは思わない。うん、思わない。
 絶対に全員が首を捻りまくるだろうが、そんなの知らないもん! それは夢ですよ~、って押し切ってやるんだから!

「し、師匠……。繰り返すけど、皆が同じ夢を見るのはおかしい――」
「この世には、科学で証明できない現象が多々あるんだ。おかしくはない!」
「……従兄くん。私が『夢でも見た――』発言をした時、最初は頷いていたわよね?」
「それは、夢だ。ほらね、こんな感じで言うと『そうかも』って思うでしょ?」


 残念。誰からも同意を得られませんでした。


「じゃ、じゃああれだ! コレをプラスする!」

 同意を得られなかった俺は、ガサゴソガサゴソ。財布から五千円札を出し、橙式ちゃんの左の掌に置く。

「この子は飛行機で来たって設定になってるから、これからタクシーで空港に向かって帰ることにするっ! 手で刃物を止められる人間が飛行機で帰るはずないんで、疑惑を払拭できるぞ!」

 これは、完璧だっ。今日の俺、冴えてるぅっ。

「ボウヤ。転移能力や飛行能力がない『力がある者』だって居るから、飛行機を利用する事はあるんだよ」

 ш?

《そうだよな そういうヤツは よくいるぜ》
「というかそれ以前に、ボウヤが考えた『飛行機に乗る』って行為。これだけじゃ、凡人って証明できないと思うけどね」

 шф。

「従兄くん……。この作戦は……」
「おっ、俺が巧みな説明で何とかする! 安心してくれっ!」
「師匠……。巧みな説明先生は、できんはずぜよ?」
「フュル。人間ってのはな、必要に迫られたら進化する生き物なんだ。ここは優星に任せとけっ」

 俺はグッとサムズアップをして、皆をあの時の立ち位置に戻す。
 なぜだろう、急に上手くできそうな気がしてきた。今のボクなら、やれる! と思う!

「俺、レミア、フュル、シズナは、片付け。橙式ちゃんは、頃合いを見て帰る芝居をして。皆さんいいですね?」
「にゅむ!」

 魔王勇者、OK。

「勝先生! ワシ、土佐で働きますき!」

 勇者魔法使い、多分OK。

「しっかりやるわ。その代わり、今晩太腿を撫でて怒ってね?」

 魔法使い魔王も、OK。フトモモは世界を救う。

「エイ。覚えたかい?」
《覚えたぜ だがその前に これやるよ》

 にゅむ? 橙式ちゃんは、右の掌に橙色の球体を出したにゅむ。

《奥義だぜ ク姉細説 頼んだわ》
「これは伝説のビーストテイマーの究極奥義、『サウザンドライド』。この力を得ると、鞍を出せるようになり――生き物にそれを嵌めて乗れば、その者の力を千倍に跳ね上げられるんだよ」
「はー、相変わらずチート染みてるねぇ。んでこれは、何のためにくれるの?」
「鞍は英雄以外破壊できないほど硬くて、一応防具になる。もし『金硬防壁』が消えても少しくらいは攻撃を凌げるから、エイはプレゼントするのさ」

 ふむふむ、能力ではなく鞍を使うのか。なんつー贅沢な使い方なんだ。

「ボウヤ、こういう時は甘えておくものだよ。受け取っときな」
「ぁ、うん。ありがたく頂戴します」

 俺は両手で受け取り、ゴクン。右手の甲に☆と◇が合わさった印が浮かんで消え、『サウザンドライド』を手に入れた。

《ほい終わり 偽装作戦 してみるか》
「だね。シズナ、乗っ取ってる空間を解いてくださいな」
「従兄くん、了解よ。『戦場空間』解除」

 俺達力のある者は、このようにして地球にカムバック。生死は関係ないがとても重要な、静かな戦いの始まりとなった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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