第1話   黒澤 蓮

エピソード文字数 4,378文字

 第一部  第一章

 ※

 今日から新しい生活が始まる。
 今日から俺は、新しい俺へと生まれ変わる。ついにその日がやってきた。




 俺の一家である黒澤家は、つい先日この町に引っ越してきたばかりであり、知り合いは誰もいない。
 だからこそ、今までの過去を忘れ去り、新しい自分へと生まれ変われる。またとないチャンスなのだ。



 今日は高校の入学式。

 これからの生活を楽しく過ごす為にも、今日は絶対に失敗する訳にはいかない。


 どんな事でも最初が肝心だからな。第一印象は人間関係において非常に大事だと思っている。




 今度こそ。この街で俺は……生まれ変わるんだ。






 朝八時過ぎ。近所の公園に咲く桜が舞い散る中、弟である凛(りん)と一緒に学校へ向かっていた。

 途中まで通学路は一緒だが、その先に見える交差点までで、ここからは別の道となる。

お兄ちゃん行ってくるね
凛。頑張って来いよ。最初が肝心だからな

 笑顔でうんと頷く凛。小学六年生だ。


 弟ながらとても可愛い顔立ちであり、茶髪は地毛である。どちらかと言えば女の子のような背格好で、とても素直で優しく、兄としても自慢の弟である。


 上手くやれよ。第一印象ってのはとても大事だぞ。

 凛が掛けていく背中を眺めながら、俺は暫く立ち止まっていた。


 今度こそ、あいつも学校で楽しく過ごせますように。そう心の中で応援してから歩き出した。



 頑張れよ凛! お兄ちゃんは全力でお前を応援しているぞ。 


 高校の入学式。この日をどれだけ待ちわびた事か。


 俺と同じく、新入生達で埋め尽くされる講堂。各地で生徒達の話が聞こえてくると、これからどんな生活が待っているのか期待は膨らんでゆく。


 中学の頃とは違う人数の多さに内心焦っていたが、何とか平常心を保ちつつ前を向く。


 そんな中、整列を促す指示が聞こえてくると、教壇に立ったハゲ親父がマイクを手に持って挨拶しはじめるのだった。



 だが俺は校長の話よりも、クラスの人間はどんな奴がいるのか、そんな事ばかり考えていた。


 横目でちらっと生徒達を見ながら、勝手にこいつは良いとか、生理的にダメな奴とか、見た目だけで勝手に妄想しながら校長の演説が終わるのを待つ。



 ようやく入学式の挨拶が終わり、今度は上級生による部活動の宣伝が始まるが、俺は全く興味が無い。興味が無いというか……



(ああもう、早く終わってくれ)

 俺には部活は出来ない。

 例えどんな部活だろうと、絶対に参加できない。



 何故? といわれれば、入れ替わり体質だから。 としか言いようがない。


 そんな気持ちを他所に、上級生達が新入生のハートをゲットしようと、自分の部活を一生懸命アピールしている。


 俺はぼけーっとその姿を眺めていた。俺からすれば……全く無駄な時間である。


 さて、部活の紹介が終わると入学式は一通り終了だな。


 今度は指定されたクラスに移動すると、俺の席は真ん中の列であり、一番後ろという恵まれた位置であった。これには非常に心躍っていた。


 さっさと席に座ると……前の席の男が振りかえってきた。


 俺に向けて挨拶してくるので、こちらも社交辞令用の笑顔で返していた。


 その男も穏やかな微笑を浮かべる。わりとビジュアル系の整った顔だったが……目つきが鋭い。しかも金髪だし、ちょっと優等生とは思えなさそうな感じだな。


 チャラいと言うのが俺の第一印象だった。

よろしく
こちらこそ

 早速スマイルで挨拶をする。前の席になったのも何かの縁だ。容姿はともかく、気軽に喋れるような友達は欲しい。


 この先も非常にプラスになるだろうし、そんな期待を込めながら、俺は俺が持ちうる最大限の愛想を振りまいていた。




 程なく教室には担任の教師らしき人物が入ってくる。


 こりゃまた冴えないオヤジっぽい奴だ。最初からやる気の無さそうな挨拶に、周りからは「大丈夫かよ」とか言われていたが、俺は逆にそっちの方が良い。



 教師がしゃしゃり出てくる方が色々と厄介だから、最初から空気みたいな方が良い。その方が高校生活がやり易いと思うから。


 やたら無愛想なメガネ教師だった。まぁ最低限の事をしてくれたらそれでいい。
 
 俺は教師なんかに何も期待しちゃいないから。




 ここから生徒達の自己紹介が始まる。
 前の席から順番に立ち上がり、自分なりのアピールやら高校生活における抱負を語っていく。


K県から来ました。染谷 (そめや) 龍一(りゅういち)です。よろしく

 染谷くんか。それが前の奴の名前だった。

 見た目とは違う丁寧な喋りと、綺麗なお辞儀をしているのは驚いたが。



 しかもはるばるK県から来たのか。とんでもなく遠方から来たんだな。

 まぁ。俺もあまり変わらないが。

N県から来ました。黒澤蓮です

 普通に挨拶すると、染屋君が早速話しかけてくる。

「N県って。遠い所から来たんだね」と。



 どうやら俺と同じ様な事を考えていたらしい。

 これは……俺と状況は同じなのか? 


 遠方から来た繋がりで、彼と仲良くなれるチャンスである。

 そんな事を考えている間に隣の列の自己紹介が始まった。




 俺の隣は机があるが誰も居ないので、染屋君の隣に座っていた女子生徒が先生に名だしされてから勢いよく立ち上がる。


 あらら。後ろからでもすっげぇ緊張してるのが分かる。
 全身震えてガッチガチだぞ。


わ、わたひも! わ、私もH県から来ました。し、白竹(しらたけ)美優(みゆう)です。よりょしゅく

 なんと可愛い自己紹介だろうか。最後までよく言えましたと褒めてあげたい。まぁしかし。自己紹介前から気になっていたが……
 
 その彼女はとんでもない美人であった。
 喋りも声のトーンも激しく可愛い感じで、髪の毛もすんげーピンクのロングヘアか。


 非常に女の子してる感半端無く、男が好きそうな「守りたい」オーラを辺り一面に放出してやがる。しかも胸がでかいし、良き体つきをしているので、きっと男共からワラワラお声が掛かるだろう。


みんな遠方なんですね。よろしく
こちらこそ。これからよろしくね
あひ! よ、よろしくおねがいしますっ!

 染谷くんも白竹さんも遠方からという事で、友達は欲しいよな? 

 

 向こうも俺と同じ状況の人間となら、仲良くなりやすいかもしれないぞ。




 うん。良い感じ。順調なスタートだ。


 順調と言うか出来過ぎの展開だ。これから始まる高校生活ストーリーに、少なからず期待してしまうのであった。




  ※

 入学式が終わり意気揚々と家に帰る。


 引越したばかりの住居は四階建てのマンションの三階部分であり、エレベーターが無いのがつらいが、前の家よりもとても綺麗な内装であった。


 更に部屋が一つ多く、凛も小学生ながら一つの部屋を与えてもらっていた。そして俺も完全個室となりプライベートも充実するだろう。今までずっと凛と一緒の部屋だったからな。


 帰ってくると、ドアの音で気づいたのか、部屋の奥から凛がダッシュで出迎えてくれた。


凛! どうだった? 上手くやれそうか?
「うん! 大丈夫みたい。僕。頑張るね」
「本当か? ちゃ、ちゃんと喋れたのか?」
「何とか頑張ったよ」

 凛の笑顔を見るなり大丈夫そうだ。
 こいつが嘘を付こうものならすぐに分かる。


 本気の笑顔というのが分かった俺は鞄を降ろすと、飛び掛って来た凛を抱っこしながら部屋に入っていくのであった。



 さぁ、気分のいい内に部屋の片付けでもするか。


 引越ししてからまだ開けていないダンボールも沢山あるしな。親父が帰ってくるまでに自分達の部屋くらいは終わらせておかないと。


 と言う訳で制服を脱いでシャツ一枚のトランクスになった俺は、凛と一緒に荷物整理を始める。


 そこから荷物整理を初めて一時間ほどだろうか。ある程度のダンボールを片付けて、スマホを見てみると既に午後五時になろうとしていた。


 そろそろ親父からの連絡が来そうなものだが。忙しいのだろうか?


 俺はラインで親父に連絡する。何時ごろになるのかと。
 概読にならない所を見ると、マジで忙しいのかもしれない。

「お兄ちゃん。お腹すいた」
まぁ待て。親父が仕事帰りに何か買ってくるって……朝言ってたからな

 まぁいっか。凛の部屋の片付けも終わったし、親父が帰ってくるまでのんびり過ごそう。



 俺はソファーに横になると目を瞑っていた。


 すると凛も俺にくっついてくる。いつでも甘えん坊な凛であった。

 いつものように凛の頭を優しく撫でると、自然と目を閉じていた。


 おっと。マジで寝ちまったら大変だ。
 とはいえ、凛とくっつくと無性に眠たくなるから困る。





 さて、シャワーでも浴びるか。
 


 親父の連絡をずっと待ってるのも気の長い話だし、適当に自分の事は終わらせておかないと。


どこ行くの?
シャワーだよ
私も入る!

 ったく。お前はいつになったら一人で風呂に入るんだよ。
 
 そう言いそうになったが、今日は入学式だったし、こんな場面で嫌味を言うのも気が引けた俺は「服脱げよ」と言いながら風呂場に入っていく。




 うぉ~~気持ちいい。


 新しい家に引っ越してから、通算三回目のシャワーだが、やはりこの凄まじい水圧はたまらん。 
 前の家のボロいシャワーなんて、マジでしょぼくて髪を洗うのに苦労したからな。


 早速髪の毛から洗い流す。シャンプーの容器をプッシュしまくり、長い髪の毛をわしゃわしゃし始めると同時に風呂場のドアが開いた。



 すぐに凛が背中から抱きついてくると、俺の胸を揉み揉みしやがる。

お姉ちゃんの気持ちいい
待て待て。お前も先に髪を洗えよ。こらっ! 触んな

 結局、背中にべったり張り付いた凛を洗うハメになってしまう。

 いつまでも甘えてくる凛。
 俺を慕ってくれて可愛いとは思うが、そろそろ自立させないといけないとも思う兄であった。





 いや、今の場合は姉と言うべきか。


 と言うのも――今の俺の身体は、何処からどう見ても女性なのだから。



 上から説明すると、長い髪は腰まで伸び、女性特有の大きな胸に、くびれた腰の下には大きなお尻へと続いている。



 うん。普通の女の子。ちょっとばかり背が高いが。




 凛も弟ではなく、妹へと変化していた。
 髪の毛は伸び、少しだけ膨らんだ胸に、男性についているアレも無い。当然俺にも付いてない。


 「ほれ。身体洗うぞ。バンザイしろ」
 「はぁい~! あはっ。こちょばい!」
「お前の方が発育がいいっつうの。もう胸が出てきてやがるし、そんな華凛(かりん)にはこうしてやる」
「あはははっ! あひゃ! も、もうやめてよぉ。お姉ちゃん!」

  黒澤家ではこれが普通の日常。
  絶対に知られてはいけない秘密の時間なのである。


  俺達は男でもあり、女の身体へと変化する特殊体質なのだ。 

 黒澤 蓮 (くろさわ れん)

 黒澤 凛 (くろさわ りん)


 男の姿。

黒澤家のもう一つの姿。


白峰 楓蓮 (しらみね かれん)

白峰 華凛 (しらみね かりん)

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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